6月25日、内閣府食品安全委員会は、発がん性のPFOAを含む有機フッ素化合物(PFAS)の健康影響を評価し、食品や飲料水の1日当たりの摂取許容量をPFOSとPFOAの2物質でそれぞれ、体重1キロ当たり20ナノグラムを指標とする「評価書」を正式決定しました。2月のパブリックコメント(意見公募)では、私も意見を届けるためできる限りのことをしましたが、およそ4000件の「緩すぎる」などの批判がほとんどだった意見は、反映されませんでした。
現在、内閣府食品安全委員会には、パブリックコメントへの回答をかねるようなQ&A(「有機フッ素化合物(PFAS)」評価書に関するQ&A)が掲載されています。そこでとても違和感を持つ点などについて、内閣府食品安全委員会に電話して伝えましたので、当ブログでまとめておきます。
Q10から抜粋
一般に、食品中の汚染物質のリスク管理については、「ALARA (as low as reasonably achievable:合理的に達成可能な限り低く)の原則」に従い、“無理なく到達可能な範囲でできるだけ低くすべき”とされています。
”無理なく到達可能な範囲”とは何でしょうか?「合理的に達成可能な限り」が、なぜ「無理なく」と解釈されているのでしょう?
欧米はPFASの規制を強化しています。今回の指標値は、アメリカ環境保護庁(EPA)の値と比べると、PFOSで200倍、PFOAで666倍も大きく、欧州食品安全機関(EFSA)と比べても64倍です。
なぜ、日本はその強化が「合理的に到達可能」ではないのでしょう?
例えば、EFSAが20年に設定した許容量は、体重1キロ当たり0.63ナノグラム。今回の食品安全委員会の示した許容量のPFOSとPFOAの合計は40ナノグラムで、EFSAの数値の64倍となります。
Q&AのQ8に、このような記述があります。
日本人の食品を通じたPFASの摂取については、限られた情報ではあるものの、2012-14年に農林水産省が実施した調査によれば、通常の一般的な食生活において推定されるヒト1日あたりのPFOSの平均的な摂取量は、0.60 ng/kg体重と1.1 ng/kg体重の間にあること、PFOAの平均的な摂取量は、0.066 ng/kg体重と0.75 ng/kg体重の間にあるとされました。
このデータによれば、日本の私たちは現在の食生活では、ヨーロッパの許容量を超えるPFASを摂取しているわけですが、だからと言って、かけ離れたものではないということがわかります。EFSAの体重1キロ当たり0.63ナノグラムを日本でも設定して、それに向けて対策を講じていくことは、合理的ではないでしょうか?そのような指標値があれば、PFASに高濃度に汚染された地域への重点的な対策も講じやすいのではないでしょうか?
Q6の健康影響では、2物質の摂取に伴う肝機能値指標とコレステロール値上昇、免疫低下、出生体重低下については関連や可能性は否定できないとしています。
それでは、一律の指標値を示すのではなく、妊婦や生殖活動などを考慮し、年齢別などで区別した指標値も可能ではないでしょうか?
最後に、食品安全委員会の担当者にお願いしたことです。
パブリックコメントでも出した意見だとして、今回の評価書からは読み取れない姿勢を確認してもらいました。
「健康への権利」をベースにしてください。
日本は、「健康への権利」を認める数々の国際的人権諸条約を批准しています。
(以下、リンクサイトより部分抜粋)
「健康への権利」とは単に健康である権利ではなく、安全な水へのアクセス、その他の健康に不可欠な条件となるものへのアクセスを含む。この権利は「漸進的実現」の対象であり、したがって、政府は、この権利の漸進的実現を計るために、指標と目標値が必要である。この権利は資源の利用可能性に影響されるもので、例えばジャマイカよりも日本のほうがより高度な要求をされる。https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/sectiion3/2009/05/post-55.html
私たち日本の住民には、欧米並の安全な水、食べ物へのアクセスの権利があります。今回示されたような指標値の元では、私の住む関西を始め、PFASにすでに高濃度に汚染されている地域住む人は、ヨーロッパの64倍のPFASを含む水を飲み、魚介類を食べることを許容されてしまいます。
今回のPFASの指標値は、健康への権利を損ねるものです。
食品安全委員会には、「健康への権利」という国際人権を尊重する姿勢をもった委員会になることを望みます。
そのようにお願いして電話を切りました。
そして、その日の夜、ジュネーブの国連人権理事会での「ビジネスと人権」のサイドイベントにオンライン参加しました。
私もオンラインで質問し、日本政府のPFAS汚染対策への後ろ向きな姿勢(25日に決まったばかりのヨーロッパの64倍のゆるい指標値も紹介)や、半導体工場やダイキンの利益が住民の健康より重視されていることを伝えると、昨年の日本調査でPFAS問題を報告してくれた作業部会のYeophantong氏が回答され、
「人権より収益を重視する企業が、今後国際的なサプライチェーンで生き残るのは難しい」と、何度も強調されました。
PFAS汚染問題にしっかり取り組むことは、私たちの健康と環境、そしてビジネスを守る上でも、重要なことなのです。
参照サイト:
*「血液調査の必要性」を明記し「未然防止の観点も踏まえて」と提言、専門家のPFAS評価書に環境省はどう動くのか Slow News 2024/6/24