2019/05/17

 

放射能汚染防止法の制定に向けて


飯舘村(2017年)
E氏撮影
2019年5月13日、超党派議員連盟「原発ゼロの会」が、福島県内外の除染作業で生じた放射性汚染土の処置についての「意見聴取会」を衆議院第一議員会館で開催しました。私は参加しませんでしたが、当日の動画はhttps://www.youtube.com/watch?v=dhT9H9iNqE4で見ることができ、また当日配られた資料も「原発ゼロの会」のサイトhttp://blog.livedoor.jp/gempatsu0/archives/16379213.htmlにリンクされていますので、それらを拝見し、改めて放射能汚染防止法の制定に向けた取り組みが必要であることを感じました。

簡単に「意見聴取会」をまとめると、まず環境省の従来通りの説明から始まり、放射性物質汚染対処特措法(特措法)に基づいて行われた除染作業で生じた福島県内の最大2,200万m3(注1)とも言われる「除去土壌=放射性汚染土」を、「中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」が故に、8,000Bq/kg以下の放射性汚染土を、覆土・遮蔽などの飛散防止対策を行った上で公共事業で再利用する方針とし、福島県外(岩手、宮城、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川など)の放射性汚染土に関しては、放射性物質の濃度の上限を定めず、30cmの覆土を行った上で埋め立て処分を可能とする省令案・ガイドライン案を発言。それに対して、市民団体や環境NGOなどから12件の意見が表明されました。そのほとんどが、この環境省の案に対しての懸念でした(元原子力規制庁の田中俊一氏「放射性物質のリスクばかりを言うが、リスクがないものなどない。汚染土の再利用を拡散だというが、他に現実的な手段があるのか。」の旨の発言は除く)。
国際的放射線防御スタンダードから大幅に逸脱しているこれらの環境省令案への懸念については、当日意見表明されたFoE Japanさんのサイトが詳しいので、そちらをご覧ください。

■「8,000Bq/kg以下の除染土を公共事業で再利用」方針の矛盾と危険性(解説と資料を掲載しました)FoE Japan https://foejapan.wordpress.com/2016/05/02/8000bq_problem-3/

■福島県外の除染土埋立処分で環境省令案~濃度制限なし、地下水汚染防止策なし 
FoE Japan https://foejapan.wordpress.com/2019/03/18/0318/ 



さて、現在でも原発構内では100Bq/kg以上の放射性物質は低レベル放射性廃棄物として厳重保管にもかかわらず、なぜ福島県内の除染から発生した放射性汚染土は8,000Bq/kg以下ならば安易な再利用が許されたり、はたまた福島県外では放射性物質の濃度の上限を定めず、30cmの覆土を行っただけで埋め立て処分が可能になるのか?

それは、この意見聴取会でも何度も指摘されていた法律、2011年8月に制定された放射性物質汚染対処特措法(特措法)と、2013年に改訂された環境基本法の不備のせいであるようです。

その特措法の問題点を、山本行雄弁護士の「放射能汚染防止法整備運動ガイドブック2016年10月改訂版」を参考に見てみましょう。

汚染対処特措法(「平成 23 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」 2011 年 8 月 30 日成立)
附則 6 条 政府は、放射性物質により汚染された廃棄物、土壌等に関する規制の在り方その他の放射性物質に関する法制度の在り方について抜本的見直しを含めて検討を行い、その結果に基づき、法制の整備その他の所要の措置を講ずるものとする。

この汚染対処特措法は議員立法により成立したものですが、「法制度の在り方の検討」も「法制の整備その他の措置」も「政府」すなわち行政に丸投げしています。国の唯一の立法機関である国会の審議なしに、行政が検討し法整備をするという代物で、それゆえ環境省が「検討」し、原発構内ではあり得ないレベルの放射性汚染土を公共事業に再利用するという方針を出してくるわけです。

また、国会が立法府としての仕事を果たしていない法改正が、2013年の環境基本法改定です。山本氏によると
「福島第一原発事故後、放射性物質を公害・環境関係法から全面的に適用除外にしてきたことが問題として浮上しました。汚染対処特措法制定の際、法制度の「抜本的な見直し」をすることを決めました(同法附則 5 条)。その後、環境基本法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法などの放射性物質適用除外規定は削除されました。しかし実質的な法整備は殆ど行われていないのが現実です。」(p.122)
「具体的な公害法の改正は、大気汚染防止法と水質汚濁防止法の常時監視と公表制度の改正にとどまり、環境基準も規制基準も定めていません。土壌汚染対策法を始め他の公害・環境法令は未整備のまま放置されています。」(p.130)


「言うまでもなく、国会は、国権の最高機関であり、唯一の立法機関である(憲法 41 条)。国会が、自ら立法機関としての役割を行政に丸投げしている現状は、違憲状態にあると言わなければならない。国会は、立法機関としての機能を回復しなければならない。我々は、国会が立法機関としての責任を放棄している現状を強く非難し、次の要望をする。
 記
① 環境基本法改正に伴う放射性物質に関する関連法の整備を行政府である政府に丸投げしている現在の方針を改め、国会が自ら行うこと。(中略)
⑤ 放射能汚染に関する公害防止の基本方針として、環境基本法に、放射能汚染物質の取扱・廃棄・処分については、希釈拡散をしてはならず、不拡散・集約管理を原則とする条項を設けること。
⑥ 環境基本法改正に伴い、土壌汚染その他の公害の規制に関する法律の放射性物質適用除外規定を削除すると共に、環境基準、規制基準を整備すること。
⑦ 放射能汚染の公害規制法の整備に当たっては、原子炉等規制法の基準設定如何に係わらず、公害法独自の制度として、人の健康と生活環境を保護法益とし、排出口における総量規制を定め、放射性物質の環境への放出に対し厳しい罰則をもって規制すること。 具体的環境基準、規制基準の設定については、たとえば、セシウム 137 については、環境基準、規制基準ともに「検出されない」とすること。
⑧ 放射性物質の適用除外規定が削除された大気汚染防止法及び水質汚濁防止法に関する環境基準と規制基準(排出基準及び排水基準)については、政令・省令事項である現行法を改め、国会が自ら立法をもって定めること。
⑨ 放射性物質に関する規制基準違反の罰則は、その被害の重大性に対応した重罰の特別規定を設けること。
⑩ 3.11 汚染対処特措法に代えて、環境基本法の特別地域指定に関する特別法として位置づけをした不拡散・集約管理の原則、環境基準や規制基準、事業者の除染義務などを内容とする公害規制法として整備すること。
⑪ 放射能土壌汚染については、既存の土壌汚染対策法、農用地土壌汚染防止法の放射性物質適用除外規定を削除すると共に、放射能土壌汚染に対しては、重い罰則をもって規制すること。漏洩企業の除染義務、賠償義務を定め、賠償については賠償保険の加入など賠償資力の保持を義務づけること。(後略)」(pp.204-205)
(事故由来の放射性物質に関連するもののみ抜粋)


私たち有権者にできることは、まずは上記のような環境基本法の法整備を求め、特措法を「放射能汚染防止法」に変えるよう国会に働きかけることでしょう。そのためには、選挙でこの法整備のために動いてくれる議員を選ぶこと、そして、地方自治体の議会に、法整備の意見書を採択するよう働きかけることです。すでに小樽市議会では採択され、札幌市議会では全会一致で採択されたとのことです。*1

全国の自治体議会から同様の意見書が出されれば、国会の争点にもなるでしょう。日本に住む私たち、そして未来の住人をも被ばくし続ける放射性物質は無造作に扱ってはなりません。必ず国会で審議させ、しっかりとした放射能汚染防止法を制定させなければならないと強く思います。

また、国会を動かすことが難しければ、各自治体が条例という形で、その拡散を止めることもできます。そのためにも、環境省の進める放射性汚染土の再利用や埋め立て政策を皆に知ってもらい、地方自治体議会議員に意見書採択を陳情し、国会議員に働きかけることから始めましょう。

現在の安易な放射性汚染土の処置案は、法整備の不備から生じているものならば、それを止められるのはやはり立法。私たちの力で放射能汚染防止法を制定しましょう。


*1「制定しよう 放射能汚染防止法」山本行雄著 
  ブイツーソリューション2016年刊 p.154

参考サイト
■山本行雄弁護士「放射能汚染防止法整備運動ガイドブック2016年10月改訂版」
https://www.yukio72.com/よりダウンロードできます。
意見書や陳情書の例文も掲載されています。

関連ブログ
Words for Peace
■放射性汚染土・廃棄物を拡散しないために
http://flowersandbombs.blogspot.com/2019/01/

追記:
注1:2019年4月に「1400万立法メートル」と変更の発表が環境省よりありました。
放射性汚染土、廃棄物の問題を理解し、行動するために必読の2冊


追記:2020年3月16日
国の安易な放射性汚染土再利用計画に対して、自治体からストップをかける働きかけ! 新潟県の津南町議会が、動いてくれました! この動きを全国へ!!
以下、リンク(脱原発の日のブログ)記事より転載させていただきます。
++++++++++++++++++
新潟県中魚沼郡津南町議会が3/13、全会一致で意見書を採択しました。
議員から提供いただきました、「拡散してください」とのことです。
国の安易な再利用計画に対して、自治体からストップをかける働きかけです。
市民の皆さんも、地元議員へご連絡ください。
除染土再利用の省令案の再考を求める意見書
環境省の審議会(中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会)は、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原発事故により放出された放射性物質を含む除染土を再利用するための省令案を本年2月1日に発表した。その施行予定日を4月1日としている。あまりに拙速な省令施行を再考していただきたい。省令案においては、再利用するべき除染土の放射能レベルも記載されておらず、その監視期間も明確ではない。飯舘村で行われた農地での実証実験も問題がなかったとされており、農地への投入にも歯止めがかからない現状である。
 わが津南町は、「農業立町」であり、信濃川の上流域に位置し、自然の恵みを糧に縄文時代から祖先が住み続けてきた地域である。風評被害を含め、放射性残土の持ち込みは、町の死活問題となる。
そして、未だ放射能の体内取り込みによる被ばくの影響評価が定まらない中、わが町に限らず、どこの産地であれ、予防原則に従い、子供たちの放射能取込みは極力避ける必要がある。 原子炉等規制法が原発内起因廃棄物に適用している低レベル廃棄物「セシウム換算100㏃/㎏」の基準で、放射能が十分に減衰するまでしかるべき方法で発生者である東電と設置許可をした国が、3.11事故に伴う放射能汚染土の保管を続けるよう求めるものである。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出します。
令和2年3月  日               
新潟県中魚沼郡津南町議会議長  吉野  徹
〈提出先〉内閣総理大臣 安倍晋三 様
環境大臣   小泉進次郎様
以上、下記リンクより転載
■除染土再利用の省令案ヘストップをかける自治体議会の意見書(新潟県中魚沼郡津南町) 
脱原発の日のブログ
https://ameblo.jp/datsugenpatsu1208/entry-12582338084.html
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