2024/12/11

 

『操作される現実』を読んで

 

当初の予想に反して(厳密に表現すると選挙期間中の2週間ほどで世論が一変したことによって)、失職した前兵庫県知事が再び当選するという事態を兵庫県民として目の当たりにし、非常に当惑していた時に出会った書籍『操作される現実』(サミュエル・ウーリー著 2020年刊行)について、紹介します。

体験するまでヒトゴトでしたが、この現象は世界的に2011年ごろから始まり、2016年の米大統領選挙から顕著になっており、それがとうとう兵庫県でも起きたということを改めて実感しました。書籍にあったその実態と、今後と、対策を簡単に記します。

*『操作される現実』からの引用部分は綠色で表示します。 

                          



「コンピューター・プロパガンダ」の実態


著者のウーリーは、現在行われているソーシャルメディア(SNS)を使った煽動行為を「コンピューター・プロパガンダ」と呼びます。2016年の米大統領選では、フェイスブックやツイッター(現X)のような個人情報を大量に保持しているSNS企業が、広告主がターゲットにする属性の個人情報を販売することによって、ターゲットにピンポイントに広告主の意図する記事や動画をオンライン上で見せることを可能にし、またそれらのコンテンツが人気があるように見せる「ボット(決められた作業を自動で繰り返すプログラム)」が、「現実を壊した」と紹介されています。



・ソーシャルメディア・ボットとはどのように使われているのか?


使用されているボットは簡単に構築し起動できるもので、行われるコミュニケーションも単純なものだった。同じ攻撃を何度も繰り返し、使用するハッシュタグも変わらなかった。本当の問題は、ボットを開発した人々と、それにお金を払った人々だった。彼らは狡猾にも、ボットを使うことで、オンライン上に大規模な運動が起きているかのような錯覚を起こさせるというアイデアを思いついたのである。大量のボットを使ってハッシュタグの使用回数を急上昇させれば、ツイッターのハッシュタグのトレンドを捏造できることを発見したのは、人間だった。pp.26-27


政治ボットと、人間が運営するサイバー軍が、重要な政治的イベントにおいてプロパガンダを推進し、特定の意見を広め、反対派がソーシャルメディアを介して団結する力を弱めた。選挙期間中、オンライン上のコミュニケーションを大幅に歪めた者が、僅差で勝利した。また、政治が危機に瀕しているという偽情報が、驚異的な速度で拡散された。p.74


(2014年にブラジル総選挙でプロパガンダ・アカウントを運営していた)「アクティベーター」の言葉

 「どんな候補者であれ、報酬を得て支援する以上は、その候補者を賞賛し、反対派を攻撃し、時には他の偽アカウントと協力して、話題のトピックをつくり上げます。」

「私たちは一般の人々には反論しきれないほど大量のメッセージを投稿しているので、それで【議論に】勝つこともできますし、あるいは本当の人々、つまり現実の活動家たちに訴えて、私たちのために戦うよう仕向けるという戦術を取ることもできます。」p.162



・動画について

 動画は、その複数の感覚に訴える性質によって、真実をさまざまな形に曲解させる強力なツールになる。研究によれば、動画は文章よりも記憶に残りやすいため、アイデアを広める際には効果的で、より有利なツールとなる。p.216



2 今後のコンピューター・プロパガンダのツール


 上記のツールはまだ単純で機械的なものですが、世論を歪めるには十分効果的でした。今後、AIによる「人間らしいコミュニケーション可能な」ボットや、本物と見分けがつかないようなフェイク動画の登場、そしてVRのような没入型のメディアが、コンピューター・プロパガンダに利用されると、一体どうなってしまうのでしょう?

 今後の利用されるであろうツールの紹介は、4,5,6章で詳しく述べられているので、気になる方はそちらをお読みください。



3 コンピュータ・プロパガンダへの対策


・デジタル詐欺やプロパガンダに対する早期警告システムの必要性

 特にソーシャルボットや自動化されたシステムによって実行されている場合で、それは容易に追跡することが可能だ。(中略)複数のデータの流れを集約し、そのデータを透明化して、パターンを明らかにし、最高の分析と計算ツールを用いて、変化のシグナルを検出するのです。p.326



新しい法律では、ソーシャルメディア企業が、そうしたグループ(もっとも脆弱な立場にあるマイノリティの人々や影響を受けやすい若者や高齢者)をターゲットにして政治的な誤報や虚偽を掲載するような広告を販売することを、より明確に違法とするべきだ。p.341



選挙運動通信(選挙期間やその前の時期に、特定の候補者に言及する形で行われる放送などのコンテンツ)の定義を拡大して、オンライン広告も含まれるようにし(中略)、選挙運動通信の定義を満たすオンライン広告は規制されるべきである。p.359

例:広告内において、「この広告の料金は~が支払っています」という情報を開示する義務を、デジタル広告にも適用する。p.360



最後に、著者からのメッセージ

 「テクノロジーは民主主義と人権の価値を踏まえているべきだと、私は考えている。これから登場するさまざまなデバイスが、真実をさらに損なうことのないよう、私たちが作るツールの中で平等と自由が最優先されなければならない。」p.17


著者紹介:サミュエル・ウーリー=オックスフォード・インターネット研究所のコンピューター・プロパガンダ・プロジェクトを主宰しディレクターを務めた研究者



追記:コンピューター・プロパガンダの実例


・日本の総選挙について

朝日新聞が2018年に報じたところによると、ドイツのエアランゲン・ニュルンベルク大学の研究チームが、14年に行われた日本の総選挙を対象に、投票日の前後に54万件のツイートを分析した。するとツイートの8割がボット等によるもので、その多くが当時の安倍政権を支持するメッセージを拡散するものだったという。」p.370



・ルーマニアの大統領選挙のニュース

■ルーマニア大統領選、ロシア介入やSNS不正操作で憲法裁判所が無効判断

JETROビジネス短信 2024年12月10日

https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/12/5539b706af134586.html

「ルーマニア憲法裁判所は12月6日、11月24日に実施された大統領選挙を無効とする判断を示した。同裁判所の判例報告によると、選挙では候補者間の機会均等をゆがめる行為として、テクノロジーによる不正操作や、未申告の資金源からの選挙運動資金の提供、プロパガンダや偽の情報を認めた。SNSプラットフォームのアルゴリズムを利用して特定の候補者の露出が増えると、他の候補者の露出が減るような操作も確認され、明らかな不平等もみられた。」



・兵庫県知事選で起きたこと


■斎藤知事1期目の公約達成率は27.7% 

出直し選、SNSで「達成率98%」の誤情報広がる

神戸新聞NEXT 2024/11/28

https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202411/0018391068.shtml


■なぜ若者はNHK党の「迷惑街宣とデマ」を支持したのか

「斎藤知事復活」で広がる"選挙ハック"という闇ビジネス

President Online 2024/11/25

https://news.yahoo.co.jp/articles/6e8320b6248272d4ae13b7f80569777d5fa298ea

「選挙ハックはそれで儲かる仕組みになり、ガセネタでも過激な発言でもクリックになり動画が再生されればそれを流した人の利益になるビジネスモデルである以上、プラットフォーム事業者も広告利益になり悪用する陣営と共犯関係になり得る」



重要な提言です。

■〈社説〉兵庫県知事選の混迷 ネットの功罪見つめる時

信州毎日新聞DIGITAL 2024/12/02

https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024120200104

「選挙で収益を得ることができる広告の仕組みを改善できないか。選挙中の関連動画には広告を付けられないようにすることを検討するべきだ。

既存メディアの役割も問われる。紙面や放送という従来の枠組みだけでなく、選挙期間中にSNSの場でファクトチェックに積極的に取り組む必要がある。」



This page is powered by Blogger. Isn't yours?