2021/08/26
2001年8月までのアフガニスタンを 短歌でふりかえって
2021年8月26日現在、アフガニスタンは権力の真空状態のようです。アフガン全土を掌握したタリバンが、どのような政策を実際にとるのかわからず、欧米、日本、などの国々、またアフガン政府に協力したアフガンの人々は、今のうちに国外に出たいと空港に向かい、また、空港に向かっても国外脱出は難しいと思う人は、タリバンに目をつけられないように自宅で息を潜めている・・・。現在のところ、8月31日をもって米軍の撤退は完了するということになっていますが、その後はどうなるのか・・・。
国際社会は、責任を持って、アフガニスタンに関わり続ける義務があると、私は思っています。
この20年間の米軍を中心とするアフガニスタンでの「対テロ」戦争だけを見ても、国際社会には大きな責任があると思いますが、それ以前からのアフガニスタンを知ってもらいたいと、今年7月、2001年のいわゆる911同時多発テロ事件と、アフガン攻撃から20年となることを思い、そこにいたるまでを振り返ってもらいたく書いた短歌です。
2021年7月に書いた拙歌(『海市』2021年10月号に掲載予定)
1979年 ソビエトのアフガン侵攻のちゲリラ戦
1989年 ソビエトの撤退そしてアフガン内戦
1996年 内戦を制しタリバン政権となる
2000年 誰こそ知るやアフガンの干ばつ、飢饉、難民キャンプ
このようにアフガニスタンは、ソ連の侵攻、撤退、内戦と戦乱が続き、干ばつで苦しんでいたのです。それでも忘れられていたアフガニスタンが、国際社会の注目を浴びたのは、2001年3月。アフガニスタンのバーミアンの石仏が、タリバンに破壊された時でした。
どれだけアフガンの人々が、戦乱と干ばつに苦しんでいても無関心だった国際社会(それどころか、1999年には、タリバン支配地域への国連経済制裁を開始)が、バーミアンの石仏の破壊には非難の声を上げたことを、『カンダハール』などで著名なモフセン・マフマルバフ監督は、『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまりに崩れ落ちたのだ』 (現代企画室 2001年11月刊)で、このように語っています。
「仏像は、恥辱の為に崩れ落ちたのだ。アフガニスタンの虐げられた人々に対し、世界がここまで無関心であることを恥じ、自らの偉大さなど何の足しにもならないと知って砕けたのだ。」
これを読み、2001年春のアフガンを思って書いた拙歌(『海市』2002年7月号所収)
人知れず飢えに死にゆく民のため巨大仏像恥辱に崩れし
衛星の電波は送る仏像の噴煙巻き上げ崩れゆくさま
爆破され砂塵となりて仏像は飢えに倒れし児を包みたもう
月を見ず月を指さす指を見る愚か者なり近代文明
飢えし児の手に持つパンを取り上げるごときか国連経済制裁
石仏は破壊され、経済制裁は続き、国際社会の関心は再び薄れゆき・・・そして、2001年9月、アフガニスタンは再び、世界から注目されることになるのです。それも今度は、世界中の憎悪の的に。
この憎悪が的外れであったことは、2021年の現在では世界の共通認識だと思いますが、20年前の9月がどのようなものであったか、来月、私の20年前の9月の日記をもとに、追っていきたいと思います。
最後に、現在の緊迫したアフガニスタン、カブールの人々の様子がわかる記事をみつけましたので、リンクします。
■「家族や友人を助けてほしい」 “先輩”からのSOS
NHK WEB特集 2021年8月25日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210825/k10013219861000.html
注:『海市』は、当ブログ管理者の小橋かおるが所属する、「海市短歌会」が発行する季刊誌です。
画像は、写真家の長島 義明氏の絵はがきに見るバーミアンの石仏と モフセン・マフマルバフ氏の著書 『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまりに崩れ落ちたのだ』 |
2021/08/12
対テロ戦争という20年間の混沌
来月、2021年9月11日で、いわゆる対テロ戦争から20年となります。また、その前の8月末までに、米軍はアフガニスタンからの撤退を完了させるとし、それに呼応するかのように、タリバンがアフガニスタンでの支配地域を拡大しつつある8月12日現在です。
現状とこれまでの経過を簡潔に振り返っておきたいと思います。
現状に関するニュース
■バイデン米大統領、アフガニスタン撤退は「後悔していない」
BBCニュース 2021/08/11 https://www.bbc.com/japanese/58168335.amp
■タリバン、10州都制圧 首都カブールまで150キロに迫る
AFP BBnews 2021年8月12日 https://www.afpbb.com/articles/-/3361421
これまでの経過について
「このアフガン戦争を20年間にわたって主導した米軍は、90兆円以上の巨費を投じて過激派の掃討作戦や治安維持に当たってきた。その過程で2300人以上の米軍兵士が自爆テロや待ち伏せ攻撃などで死亡している。米国防総省や米ブラウン大ワトソン国際公共問題研究所によると、この間にタリバン戦闘員8万1000人以上が殺害され、アフガニスタン治安部隊の約7万8000人が死亡しているのだが、アフガニスタンとパキスタンの民間人4万7000人以上も戦闘に巻き込まれるなどして犠牲になっている。まさに泥沼の戦争だったといえるだろう。」(下記サイトより抜粋)
■アフガン情勢、再び不安定化へ―米軍撤退で力の均衡崩れる
攻勢強めるタリバン、「イスラム首長国」樹立目指す
日本経済研究センター2021/07/13 https://www.jcer.or.jp/j-column/column-yamada/20210713-3.html
アフガニスタンと私
2004年から、アフガニスタンやイラクで苦しむ人々のためにと、「花と爆弾」を通しての寄付を続けてきましたが、私が初めてアフガニスタンのために寄付をしたのは2000年の秋でした。その当時は、干ばつのため多くの子どもたちが苦しんでいるとのことで、少しでも助けになればと寄付をしましたが、まさかその1年後には、米軍や多国籍軍の空爆にさらされる国になろうとは、夢にも思っていませんでした。
20年前の8月のアフガニスタンは、タリバンの支配下で、干ばつと飢餓に苦しむ国ではありましたが、9月11日の同時多発テロ以降、20年に及んで、いつあるかもしれぬ米軍や政府軍の空爆、アルカイダやISのテロ、またタリバンの攻撃で、子どもたちを含む一般の人たちが、命を落とすような状況が続こうとは、誰も予想だにしていませんでした。そして、20年後の今また、米軍撤退とともに、タリバンに支配される国へと戻ってしまうことが懸念されます。
この20年はいったい何だったのか?
もう20年も前のことですから、30代以下の人たちは、アメリカの同時多発テロ事件は映像などで知っていても、なぜアフガニスタンが攻撃の対象になったのか(私にはとても納得できないような理由ですが)、ご存じないでしょう。
あのとき、アメリカは、日本は、世界はどのように動いたのかを、私の20年前の日記と、その頃の発表した短歌をもとに、8月下旬から、ぼつぼつとこのブログに綴っていこうと思います。
20年前を、日本に住む当時30代の一市民の私の目を通して、一緒に追体験してもらえれば、光栄です。
2001年5月公開の映画「カンダハール」 当時は、世界的にアフガニスタンへの関心は薄く、 マフマルバフ監督は、「なぜアフガニスタンがテーマなんですか?」と よく質問されたと発言されていました。 |
<余談>
ちなみに、2001年の9月11日までの私の日記を読み返すと、オリックス・ブルーウェーブから、米大リーグのシアトル・マリナーズに移籍して、2001年4月にメジャーデビューを飾った、イチロー選手の活躍についてばかりが書かれていました。1995年の阪神淡路大震災以降、イチロー選手のプレーを見ることは、私の大きな楽しみのひとつで、神戸のグリーン・スタジアムにも、何度も応援にいったことを思い出しました。
2021年8月16日追記:上記をこのブログに書いた8月12日には、ここまでの急展開があろうとは思っていませんでした。
昨日8月15日、ガニ政権は崩壊し、タリバンが権力を掌握しました。米大使館を始め、いわゆる西側の大使館員や家族たちなど、自国の軍隊に守られて、アフガニスタンを逃げていく人で、16日のカブール空港はごったがえしているようです。
逃げられない人はどうなるのか?今の段階では、今後のタリバン政権の動きがわからず、見守るしかない日々が続きそうですが、昨日の夜、私がfacebookに綴った思いを、こちらにも転載しておきます。
この記事の芸術家たちも、これまで支援してきたアフガンの人たちの一部・・・。
<アフガニスタン>タリバン首都へ カブールの芸術家「どこへ逃げれば」2021/8/16 アジア・プレス・インターナショナル
https://news.yahoo.co.jp/articles/d47f77557a103516f9718c168deb4e1974d87247
2021/8/17追記:
■カブール空港で大混乱 タリバンを逃れようと飛行機にしがみつく人たちも
BBC NEWS Japan 2021/8/16
https://news.yahoo.co.jp/articles/cf06e1976e571d222fe6eb8d3479f47d1c828b37
とてもショッキングな写真や動画が掲載された記事ですが、このアフガニスタンの人たちが、どうしてこれほどまでに逃げたいのかについて、私の見解を書きます。
おそらくこの方たちの多くは、米軍やNATO軍のために働いたことがある現地スタッフではないかと思います。「このまま残されたらタリバンに殺されてしまう」という絶望が、このような行動の原因だと思います。その方たちを振り切って離陸していった米軍機。米軍に翻弄された人々の絶望と、米軍の非情が生み出した惨劇の一場面でしょう。
一方、おそらくほとんどの人々は、自宅で固唾をのんでいるのではないでしょうか。
これまで支援させてもらったアフガニスタンの方たちからの声を届けてくれている記事をリンクいたします。
■「次に殺されるのは自分かも」 アフガニスタン支援者ら祈る無事
朝日新聞デジタル 2021/8/17
https://news.yahoo.co.jp/articles/a97eb83af67848955a6e21b1169e680c2b2b20c6
西垣さんは07年、東部ジャララバードのナンガルハル大学に定員50人ほどの女子寮を作った。今春、現地から「今年も寮は満員です」と写真が送られてきた。「おそらく今、寮には誰もいないと思うと悲しい。でも落ち着けば、また女子学生たちが戻れるようになると信じている」と話す。
私もアフガニスタンの芸術家支援で、長年アフガン支援をされてきた西垣さんから、アフガンの青年が描いた絵を購入したことがあります。また、女子寮が建設されたときには,西垣さんと一緒に喜びました。
最後に、アフガニスタンでの水路建設を続けてきたペシャワール会について。
■アフガンのNGO現地活動休止 ペシャワール会
共同通信 2021/8/16
https://nordot.app/799966316814532608
アフガニスタンで医療や農業の支援活動に携わる福岡市の非政府組織(NGO)「ペシャワール会」は16日、現地の情勢を踏まえ、15日から活動を休止していると明らかにした。「今後、安全を確認して再開する方針」としている。
2003年に、この水路建設の支援を微力ながらも始めた時ときから、いつか水路が破壊させることがあるかもしれないということを覚悟していました。そうなっても中村医師は水路を掘り続けるだろうと思っていました。中村医師は亡くなりましたが、その魂はアフガンの地に、人々の心に根付いていることを信じて、破壊などされることなく、平穏の中、再開される日がくることを信じて、今後も支援を続けていきたいと思っています。
8月19日追記
1994年から(最初にタリバンが登場する前から)アフガニスタンを支援されてきた西垣さんへの取材記事です。記事の中に登場する大学教員の方は、私の「花と爆弾」(日英バイリンガル詩画集)を、英語の教科書として、当時彼がサポートしていた孤児院で使ってくれた方です。その後も、西垣さんがアフガンに渡る時に度々、英語の辞書やテキストを渡してもらいました。私も、今はただただ、無事を祈るのみです。
↓
■タリバン制圧でいま現地はどうなっているのか 「宝塚・アフガニスタン友好協会」代表に聞いた
デイリー新潮 2021年8月19日 https://www.dailyshincho.jp/article/2021/08191056/
同じくタリバン登場前からアフガニスタンで活動された故・中村哲医師の2002年のインタビュー記事です。1989年ソ連撤退から、なぜ90年代にタリバンが現れたのか、アフガニスタンがどのようなところなのか、よくわかります。
↓
■アフガニスタンに生きている生身の人間がいることをどこか忘れているんですよね
SIGHT vol. 10 2002年1月 中村哲(ペシャワール会・現地代表)インタビュー
https://www.rockinon.co.jp/sight/nakamura-tetsu/article_01.html
8月20日追記:
タリバンを孤立させずに、アフガンの人々の人権と暮らしを守るために、国際社会の関与が必要です。このような姿勢が続きますように。
↓
■G7が声明 タリバンに”女性 子どもの人権守るため関与続ける”
NHK NEWS WEB 2021年8月20日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210820/k10013213161000.html
「人命がさらに失われるのを防ぎ、人道支援を行えるようにするため、関係国などと協力して、政治的な解決策を模索する」
■中村哲さん アフガニスタンを照らす (NHK WEB 特集 2021/1/15)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210115/k10012811651000.html
「アフガニスタンではずっと40年間戦争が続いておりますが、いまは戦争をしている暇はないと思っています。敵も味方も一緒になって、国土を回復する時期にあると思います」
と語る中村哲医師を描く絵本の紹介記事です。
8月31日追記:
■米、アフガン戦争終結 20年の軍事駐留に幕―混乱残し、退避打ち切り
時事通信社 2021年08月31日 https://www.jiji.com/jc/article?k=2021083100119
■タリバン幹部「歴史つくった」 首都に歓喜の銃声響く―アフガン
時事通信社 2021年08月31日 https://www.jiji.com/jc/article?k=2021083100260
アメリカ時間の8月30日を持って、米軍はアフガンから撤退。戦争終結と報道されていますが、米軍は、無人攻撃機ドローンやCIAなどの情報を元に、アフガニスタンをテロの温床にしないことを、以前から表明していました。
そのような中の8月26日、タリバンとも対立するISIS-Kによるカブールでの自爆攻撃。早くも、米軍によるドローン攻撃と、ISIS-Kによる自爆やロケット攻撃などで、民間人が巻き込まれる悲劇が繰り返されています。
■カブール空港周辺で爆発、米軍・民間人70人超死亡 IS犯行声明
ロイター 2021/8/27
https://jp.reuters.com/article/afghanistan-conflict-usa-explosion-idJPKBN2FR1PI
■米軍、ISIS系組織に空爆 バイデン大統領が攻撃承認
CNN 2021.08.28 https://www.cnn.co.jp/usa/35175866.html
■米軍、ドローン攻撃による民間犠牲者を調査 子供6人が死亡か
BBC NEWS 2021/8/31
https://news.yahoo.co.jp/articles/6fcdeae09cec30af9651b2059233620589adb42d
米軍の駐留部隊が撤退したとしても、ドローン攻撃によって民間人が巻き込まれるというこの20年間と同じことを続けると、アフガニスタン人の米軍とISISへの憎悪を糧に、ますます暴力の連鎖に陥る恐れがあります。再びアフガニスタンを内戦の地にしないため、また、国際テロ組織を増強しないために、国際社会はこれまでよりも緊密に、アフガニスタンの人々を支援していかねばならないと思います。なんとか、その方法を模索しなくては。