2025/06/24

 

「ビジネスと人権」から考える「有害化学物質」PFAS汚染の解決法

 私の住む関西が、(ダイキン淀川製作所が主要な汚染源となって)、発がん性物質であるPFOAPFASの一種)にひどく汚染されていることに気がついた2023年から、その汚染の浄化やさらなる汚染の阻止を、どのようにすればできるのか、模索する日々が続いてきます。

 

この問題の解決のために、国も地方行政も、大手メディアも、ほぼ動かないなかで、一筋の光のように見えたのが、2023年に日本に調査にやってきた「ビジネスと人権」作業部会でした。「ビジネスと人権」とは、国連が定めた、企業活動と人権の関係についての人権尊重の責任を明確にするグローバルな枠組みで、調査官たちはダイキン淀川製作所のある摂津市の住民とも面談し、調査終了後の記者会見で以下のように述べました。

 

「不安を感じるステークホルダー(製作所周辺住民)は、地方自治体も政府も、水道水中のこれら永遠に残る化学物質(PFAS)の存在について、十分な対策を講じていないとして、水と土壌のサンプリング調査や健康に対する権利への影響に関するモニタリングを求めています」

「私たちとしては、UNGP(ビジネスと人権に関する指導原則)と汚染者負担の原則に従い、この問題に取り組む責任が事業者にあることを強調したいと思います」*1

 

 

この作業部会の動きを知って以来、調査で来日された作業部会のYeophantong氏のオンライン・セミナーなどに参加するようになりました。何度かダイキンによるPFAS汚染についても質問しましたが、そのたびに、

 

「人々の健康や人権、環境より利益を優先する企業が、今後国際的なサプライチェーンで生き残るのは難しい」と強調され*2、「ビジネスと人権」のアプローチが、関西のPFAS汚染の元を絶ち、また、日本社会に蔓延する「人々の健康や環境よりも企業利益」という古い価値観を変えることができるのではないかと思いました。 

 


 

今月、この「ビジネスと人権」を具体的にどのようにPFAS問題の解決に活用できるのかを考えるために、2冊ほど書籍を読みましたので、重要と思える部分をまとめておきます。

 

 以下、緑字は引用を表します。

 

『「ビジネスと人権」基本から実践まで』塚田智弘著 2024年刊 より

 

「国際的に認められた人権」と企業が及ぼす負の影響の例

 

・社会権規約第11条(本条は、相当な生活水準についての権利:相当な食糧、衣類および住居を含む相当な生活水準、ならびに生活条件の不断の改善についての権利を保障する。)

  ↓  

企業活動は、地域の給水の汚染や過度な使用により、水についての権利を人々が享受することを著しく妨げる場合、水についての権利に影響を及ぼすことになる。(p.39

 

・社会権規約第12条(健康についての権利:本条は、到達可能な最高水準の身体および精神の健康についての権利を保障している。)

  ↓

採取会社や化学会社など、その活動から汚染リスクが特に大きい部門の企業は、汚染が労働者および近隣コミュニティのメンバーの健康に関する権利に負の影響を及ぼさないことを確実にするために実施している方針および制度について、厳重な精査を常に受ける立場にある。(p.40)

 

 

このように、企業活動による環境破壊を通じて人権が脅かされることのないよう、その防止や軽減のための対応が求められているのです。

 

また、実際に生じてしまった負の影響については救済を提供していくものである点から、被害者はライツホルダー(正確な定義では、人権に負の影響を受ける<可能性のある>者)という語も用いられ、ステークホルダー(利害関係者)の中でも、特に重視されます。

 

では、その重視されるべきライツホルダーと企業はどうかかわるのでしょう?

それは、ステークホルダーエンゲージメントと呼ばれます。

 

 

以下、『「人」から考える「ビジネスと人権」』湯川雄介著 2024年刊 より

 

「ビジネスと人権」対応において、「一丁目一番地」ともいわれるのが、ステークホルダーエンゲージメント。すなわち

人権リスクの特定と評価、それへの対処の追跡調査、そして苦情処理メカニズムの過程において、ステークホルダーとの「有意義な協議」、「フィードバックの活用」、「情報提供」などが求められることが、その出発点。(p.271

 

企業の人権尊重責任は、企業活動による個人の人権への負の影響を予防、軽減、是正することです。そのためには、負の影響を受ける個人(ライツホルダー)本人の話を聞くと都が一番確実ですし、それなくしては人権尊重責任を果たすための諸々の行為を適切に行うことはできないでしょう。(p.272)

 

そして、このプロセスは、必須であり、これを省略することは「あり得ない」ぐらいの意識が必要です。(p.274

                           

以上、ダイキンのPFAS汚染問題の解決に重要と思えるコンセプトを紹介しました

 

 これに則ると、まずは、企業側は、ライツホルダーである周辺住民をはじめ、ステークホルダーに含まれる「人権擁護者」(住民のために正当に問題を提起する弁護士やNGO)との協議、対話、情報提供を持続的に続けていくことが出発点です。そこから是正、救済へと向かうプロセスを構築する。このステークホルダーエンゲージメントを行えない企業は、「ビジネスと人権」の指導原則から逸脱し、人権リスクを引き起こしている企業として、サプライチェーンから外されても不思議はないでしょう(例えば、A社がこのような企業と取引することは「直接関連する」負の影響となり、A社も対応を求められます。)

 

 「人々の健康や人権、環境より利益を優先する企業が、今後国際的なサプライチェーンで生き残るのは難しい」のです。

 

私たちステークホルダーは、この「ビジネスと人権」の指導原則と汚染者負担の原則に則って、PFAS汚染による環境破壊の防止、軽減、是正、そして救済を、汚染者である企業に求めていきましょう。

 

関連サイト 

*1 国連調査団「汚染者負担の原則に基づき、事業者が責任を」/

記者会見開きダイキンを牽制/国連人権委で報告へ

TANSA 「公害PFOA20230804

https://tansajp.org/investigativejournal/10148/

 

*2 東京へ、ジュネーブへ

7世代に思いをはせて第820号 2024629

https://nanasedai.blogspot.com/2024/06/820.html 

 

「ビジネスと人権」作業部会の2023年調査報告書や、指導原則など、有益な情報が掲載されているサイト

■ビジネスと人権 ヒューライツ大阪

https://www.hurights.or.jp/japan/aside/business-and-human-rights/




2025/06/10

 

PFAS規制:日本と米国の大きな差の原因は?

 毎週土曜日に発行している拙メールマガジン「7世代に思いをはせて」の868号(2025/5/31)で、国連特別報告者によるPFAS問題についての日本政府への書簡と日本政府の返答のリンクを掲載していました。それを読んだ「ミリタリーポイズンズ」ディレクターで、PFAS問題に詳しいパット・エルダーさんが、即座に日本への警鐘の文書を送ってきてくれました。とても重要な情報とメッセージですので、パットさんの了解の元、拙日本語訳を以下に掲載いたします。


++ 日本と米国の食品および飲料水のPFAS規制 ++

パット・エルダー 202564

日本では、PFOS1日当たりの耐容摂取量TDI)は体重1kgあたり20ng(ナノグラム)で、PFOAについても同様です。

米国環境保護庁(EPA)は、PFOSPFOAの飲料水中の最大汚染レベル(MCL)を設定する際、参照用量(RfD)を使用しています。機能的には、TDIRfDは同じものです。どちらも、生涯にわたって毎日摂取しても健康リスクがない毒素の量を推定します。

 

米国のPFOSRfD0.1 ng/kg/日です。

米国のPFOARfD0.03 ng/kg/日です。


表:概要比較

発がん性物質  日本のTDI  米国EPARfD

PFOS      20 ng/kg/   0.1 ng/kg/

PFOA      20 ng/kg/   0.03 ng/kg/

============================

 

日本におけるPFOSの閾(しきい)値は米国よりも200倍高く、PFOAの濃度は米国値の666倍です。日本は説明を要します。


70 kg(訳注:アメリカ人の平均体重)の人が1日に摂取する量はどれくらいでしょうか?


日本

PFOA 70 kg × 20 ng/kg/ = 1,400 ナノグラム/

PFOS 70 kg × 20 ng/kg/ = 1,400 ナノグラム/

 

米国

PFOA  70 kg × 0.03 ng/kg/ = 2.1 ナノグラム/

PFOS 70 kg × 0.1 ng/kg/ = 7 ナノグラム/

 

米国の多くの科学者は、上記の発がん物質のどの量も安全ではないと主張しています!6年前の記事を参照すると、

PFOAの飲用水中の濃度が0.1ナノグラム/L以下でも、膵がんとの関連性が指摘されています。

日本における膵がんの発生率、有病率、死亡率がアジアで最も高いことは驚くべきことではありません。*

慢性腎臓病もPFOAと密接に関連しています。複数の地域で実施されたスクリーニング検査に基づく研究によると、日本は世界中で最も高い慢性腎臓病の有病率を有しています。**

PFASへの曝露は女性の生殖能力を最大40%低下させる可能性があることが、マウントサイナイの環境保健科学コアセンターの研究者によって判明しました。本日の日本のニュースの見出しは、日本の極めて低い出生率を嘆いていますが、日本においては、PFASと生殖能力を結びつけることは公には受け入れられません。

日本のTDI(耐容一日摂取量)と米国のRfD(参照用量)の大きな乖離は、日本政府と企業の上層部における、知的誠実さと成熟度の欠如に起因しています。

米国は、PFASが極微量で免疫抑制、発達障害、甲状腺機能障害と関連するという衝撃的な最近の研究を根拠にしています。一方、日本は、関連する疾患や障害を浮き彫りにしない、より古いデータに依拠することを好んでいるようです。

米国では、PFAS対応において、大きな公共の圧力、政治的なロビイング、訴訟が起きていますが、日本の人々のPFASへの反応は弱いです。警鐘は鳴っていません。PFAS問題の存在すらほとんど認識されていません!日本は、公衆衛生の問題を厄介扱いし、産業の利益を優先しています。

これは大きな悲劇です。多くの人々の健康が、開かれた率直な対話にかかっています。


= 根拠となる論文 =

Global trends in pancreas cancer among Asia-Pacific population

J Gastrointest Oncol. 2021 Jul;12(Suppl 2):S374S386.

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8343088/#:~:text=In%20Japan%2C%20the%20crude%20incidence,and%20mortality%20of%204.4%2F100%2C000

 

**Chronic Kidney Disease in Japan

Kunitoshi Iseki Internal Medicine/Volume 47 (2008) Issue 8  Pages 681-689

https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/47/8/47_8_681/_article#:~:text=The%20prevalence%20of%20a%20low,CKD%20than%20any%20other%20country

この2本の論文を含め、当該文書のリンクはすべて英文のサイトです。

++        ++      ++


いかがでしょう?最後のメッセージは、私たち日本の市民への貴重な警鐘と激励だと、私は思いました。私たちの健康を守るために、企業の利益にないがしろにされないために、私たちは、率直な対話を要求していかなければならないと、強く思いました。

国連特別報告者も、いつも「対話」を強調されます。それによって政策決定への当事者の参加という大切な人権のひとつが守られるのです。政府、行政、企業との対話を求めて、動いていこうと思います。


最後に、感謝を込めて、パットさんとつながった2024年の神戸での学習会のチラシを掲載します。私は司会を務めました。

チラシ表

チラシ裏



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