2024/12/11

 

『操作される現実』を読んで

 

当初の予想に反して(厳密に表現すると選挙期間中の2週間ほどで世論が一変したことによって)、失職した前兵庫県知事が再び当選するという事態を兵庫県民として目の当たりにし、非常に当惑していた時に出会った書籍『操作される現実』(サミュエル・ウーリー著 2020年刊行)について、紹介します。

体験するまでヒトゴトでしたが、この現象は世界的に2011年ごろから始まり、2016年の米大統領選挙から顕著になっており、それがとうとう兵庫県でも起きたということを改めて実感しました。書籍にあったその実態と、今後と、対策を簡単に記します。

*『操作される現実』からの引用部分は綠色で表示します。 

                          



「コンピューター・プロパガンダ」の実態


著者のウーリーは、現在行われているソーシャルメディア(SNS)を使った煽動行為を「コンピューター・プロパガンダ」と呼びます。2016年の米大統領選では、フェイスブックやツイッター(現X)のような個人情報を大量に保持しているSNS企業が、広告主がターゲットにする属性の個人情報を販売することによって、ターゲットにピンポイントに広告主の意図する記事や動画をオンライン上で見せることを可能にし、またそれらのコンテンツが人気があるように見せる「ボット(決められた作業を自動で繰り返すプログラム)」が、「現実を壊した」と紹介されています。



・ソーシャルメディア・ボットとはどのように使われているのか?


使用されているボットは簡単に構築し起動できるもので、行われるコミュニケーションも単純なものだった。同じ攻撃を何度も繰り返し、使用するハッシュタグも変わらなかった。本当の問題は、ボットを開発した人々と、それにお金を払った人々だった。彼らは狡猾にも、ボットを使うことで、オンライン上に大規模な運動が起きているかのような錯覚を起こさせるというアイデアを思いついたのである。大量のボットを使ってハッシュタグの使用回数を急上昇させれば、ツイッターのハッシュタグのトレンドを捏造できることを発見したのは、人間だった。pp.26-27


政治ボットと、人間が運営するサイバー軍が、重要な政治的イベントにおいてプロパガンダを推進し、特定の意見を広め、反対派がソーシャルメディアを介して団結する力を弱めた。選挙期間中、オンライン上のコミュニケーションを大幅に歪めた者が、僅差で勝利した。また、政治が危機に瀕しているという偽情報が、驚異的な速度で拡散された。p.74


(2014年にブラジル総選挙でプロパガンダ・アカウントを運営していた)「アクティベーター」の言葉

 「どんな候補者であれ、報酬を得て支援する以上は、その候補者を賞賛し、反対派を攻撃し、時には他の偽アカウントと協力して、話題のトピックをつくり上げます。」

「私たちは一般の人々には反論しきれないほど大量のメッセージを投稿しているので、それで【議論に】勝つこともできますし、あるいは本当の人々、つまり現実の活動家たちに訴えて、私たちのために戦うよう仕向けるという戦術を取ることもできます。」p.162



・動画について

 動画は、その複数の感覚に訴える性質によって、真実をさまざまな形に曲解させる強力なツールになる。研究によれば、動画は文章よりも記憶に残りやすいため、アイデアを広める際には効果的で、より有利なツールとなる。p.216



2 今後のコンピューター・プロパガンダのツール


 上記のツールはまだ単純で機械的なものですが、世論を歪めるには十分効果的でした。今後、AIによる「人間らしいコミュニケーション可能な」ボットや、本物と見分けがつかないようなフェイク動画の登場、そしてVRのような没入型のメディアが、コンピューター・プロパガンダに利用されると、一体どうなってしまうのでしょう?

 今後の利用されるであろうツールの紹介は、4,5,6章で詳しく述べられているので、気になる方はそちらをお読みください。



3 コンピュータ・プロパガンダへの対策


・デジタル詐欺やプロパガンダに対する早期警告システムの必要性

 特にソーシャルボットや自動化されたシステムによって実行されている場合で、それは容易に追跡することが可能だ。(中略)複数のデータの流れを集約し、そのデータを透明化して、パターンを明らかにし、最高の分析と計算ツールを用いて、変化のシグナルを検出するのです。p.326



新しい法律では、ソーシャルメディア企業が、そうしたグループ(もっとも脆弱な立場にあるマイノリティの人々や影響を受けやすい若者や高齢者)をターゲットにして政治的な誤報や虚偽を掲載するような広告を販売することを、より明確に違法とするべきだ。p.341



選挙運動通信(選挙期間やその前の時期に、特定の候補者に言及する形で行われる放送などのコンテンツ)の定義を拡大して、オンライン広告も含まれるようにし(中略)、選挙運動通信の定義を満たすオンライン広告は規制されるべきである。p.359

例:広告内において、「この広告の料金は~が支払っています」という情報を開示する義務を、デジタル広告にも適用する。p.360



最後に、著者からのメッセージ

 「テクノロジーは民主主義と人権の価値を踏まえているべきだと、私は考えている。これから登場するさまざまなデバイスが、真実をさらに損なうことのないよう、私たちが作るツールの中で平等と自由が最優先されなければならない。」p.17


著者紹介:サミュエル・ウーリー=オックスフォード・インターネット研究所のコンピューター・プロパガンダ・プロジェクトを主宰しディレクターを務めた研究者



追記:コンピューター・プロパガンダの実例


・日本の総選挙について

朝日新聞が2018年に報じたところによると、ドイツのエアランゲン・ニュルンベルク大学の研究チームが、14年に行われた日本の総選挙を対象に、投票日の前後に54万件のツイートを分析した。するとツイートの8割がボット等によるもので、その多くが当時の安倍政権を支持するメッセージを拡散するものだったという。」p.370



・ルーマニアの大統領選挙のニュース

■ルーマニア大統領選、ロシア介入やSNS不正操作で憲法裁判所が無効判断

JETROビジネス短信 2024年12月10日

https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/12/5539b706af134586.html

「ルーマニア憲法裁判所は12月6日、11月24日に実施された大統領選挙を無効とする判断を示した。同裁判所の判例報告によると、選挙では候補者間の機会均等をゆがめる行為として、テクノロジーによる不正操作や、未申告の資金源からの選挙運動資金の提供、プロパガンダや偽の情報を認めた。SNSプラットフォームのアルゴリズムを利用して特定の候補者の露出が増えると、他の候補者の露出が減るような操作も確認され、明らかな不平等もみられた。」



・兵庫県知事選で起きたこと


■斎藤知事1期目の公約達成率は27.7% 

出直し選、SNSで「達成率98%」の誤情報広がる

神戸新聞NEXT 2024/11/28

https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202411/0018391068.shtml


■なぜ若者はNHK党の「迷惑街宣とデマ」を支持したのか

「斎藤知事復活」で広がる"選挙ハック"という闇ビジネス

President Online 2024/11/25

https://news.yahoo.co.jp/articles/6e8320b6248272d4ae13b7f80569777d5fa298ea

「選挙ハックはそれで儲かる仕組みになり、ガセネタでも過激な発言でもクリックになり動画が再生されればそれを流した人の利益になるビジネスモデルである以上、プラットフォーム事業者も広告利益になり悪用する陣営と共犯関係になり得る」



重要な提言です。

■〈社説〉兵庫県知事選の混迷 ネットの功罪見つめる時

信州毎日新聞DIGITAL 2024/12/02

https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024120200104

「選挙で収益を得ることができる広告の仕組みを改善できないか。選挙中の関連動画には広告を付けられないようにすることを検討するべきだ。

既存メディアの役割も問われる。紙面や放送という従来の枠組みだけでなく、選挙期間中にSNSの場でファクトチェックに積極的に取り組む必要がある。」



2024/08/15

 

『人間の証明 拘留226日と私の生存権について』を読んで

 「人質司法」をご存じですか?

ぜひお読みください。
なぜ月が表紙に使われているのか、
人質司法でどれほど生が蝕まれるのか
月のエピソードが語っています。

警察や検察などの捜査当局や裁判所が、「そのような犯罪を私はやっていない」と罪を否認したり、黙秘している被疑者や被告人を、長期間拘留する(人質にする)ことで自白等を強要しうる日本の刑事司法制度は、「人質司法」として批判されています。


私も、否認すると延々と拘置所に留められて、社会生活を潰されかねないという事実は以前から聞いており(実際そのような被害に遭った同業者の大学教員も)、この人質司法は、えん罪の温床であり、日本の司法による人権蹂躙だと思ってはいました。


しかし、人質司法による人権侵害は想像以上の酷さであることを、先日、角川歴彦さんが人質司法違憲訴訟を提訴した時の記者会見を拝見し、また今回、日本と世界に向けて、日本語と英語で同時発売された『人間の証明~拘留226日と私の生存権について』を読み、思い知りました。この人質司法の犠牲者になるのは、何も角川さんのように特捜がらみのような重大事件のみならず、痴漢や万引など日常的な犯罪の被疑者になってしまっても、同じ手法で犠牲になってしまうのです。自分の身に降りかかったら・・・と想像しながら読み進めました。(以下、引用文は綠色で示します。)



まず、驚いたのが、被疑者になったとたんに「囚人」扱いになる点です。

有罪が確定するまで無罪として扱われるはずの被疑者・被告人の人権は、日本では当然のように蹂躙されていることが、よくわかりました。

象徴的だなと思ったのは、起訴された角川さんに「これから囚人として扱う」と看守が言い渡したところ。逮捕された瞬間から、さんざん尊厳を踏みにじられる行為(ここでは紹介できないほどの酷い扱いです。原書をお読みください)を強要されてきた角川さんが「え?これまでとどう違うの?」と尋ねると、「何も変わりません」と看守。


 起訴はされたが、私は罪が確定して刑罰を受けるために拘置所にいる既決囚ではない。(中略)つまりは完全に犯罪者扱いであり、そこには有罪が確定するまでは無罪として扱われるという刑事司法の基本「無罪推定の原則」はいっさい顧みられていない。(pp.38-39)


 すなわち、逮捕された瞬間から、囚人と同様に拘禁され、身体的苦痛を強要され、ひとりの人間としての自由と尊厳を奪い取られて当然という状態が、「私は罪を犯していない」と訴える限り、何ヶ月も続くのです。


 拘置所の「単独室」が描写されていましたが、部屋の奥にある洋式トイレには衝立がなく、廊下から丸見えで屈辱的です。また、その奥にある「窓」が異様です。


 普通の窓は、室内から外の景色を眺めるために設けられる。いわば98%の自然光と空気を取り込むために工夫する。しかし、ここでは逆に外界と98%遮断するために取り付けられている。(中略)

  なぜ本来の機能を持たない窓を設置しているかと言えば、「窓もない非人間的な空間だ」と外部から批判されないためである。人間的空間に見せながら、実は外界と遮断した非人間的な空間。すなわち拘置所の窓は一種のフェイクでありフィクションなのだ。(p.42)



この異様さは、医務室でも際立ちます。


 何度も倒れ、拘置所では命をつなげるか覚束ない。何とかここを出られないものか。拘置所の医務室でそんな思いを漏らしたことがある。すると医者が冷ややかに告げた。

「角川さん、あなたは生きている間にはここから出られませんよ。死なないと出られないんです。生きて出られるかどうかは弁護士の腕次第ですよ」

 隣にいる刑務官を見ると、無言でうなずいていた。(p.75)


ホラーです。

死を覚悟した角川さんと危機感を持った弁護団は、公判で不利になる様々な点に「同意」するという苦渋の選択をし、これまで却下され続けてきた保釈請求をなんとか通そうとします。

裁判所の決定を待っている時の角川さんの思いが書かれています。


 彼ら<検察>はどうしても私を拘置所に閉じ込めておきたかった。体調がさらに悪化しようが、死に瀕しようが、意に介さない。なぜなら最終的に拘留を決めるのは裁判官であり、あくまで意見書を出しただけの検察官は責任を追及されない構図になっているからである。(p.80) < >は小橋による追記



非人間的と批判されないようにフェイクの「窓」を設置し、責任は裁判所だからと、死も意に介さず拘留を続けようとする検察という国家権力。

この検察という機関は、民間のブラック企業や、カルト集団ではなく、国家権力だというところが、この上なく恐ろしい。

公判で不利になる条件をのんでも保釈を選んだ角川さんは、この国家権力と人質司法違憲訴訟で闘う覚悟を決めました。


 裁判では、人質司法の存在を資料や証言から明らかにしたうえで、人質司法が憲法で保障された基本的人権を侵害していることを立証していく。

 さらに、国際法は、個人の自由権の一つとして「自白の強要からの自由」を保障している。人質司法が国連の自由権規約が禁じる「拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取り扱い」や「人間の尊厳に対する侵害」「恣意的な拘留」「無罪推定原則否定」などに違反することを争点に据える。

 人質司法は刑事訴訟法の運用によって常態化してきたが、日本が批准した国際法規は国内法の上位に位置すると考えられている。国際法規に抵触する法律や制度は改正、廃止されなければならないのだ。(p.116)



この人質司法違憲訴訟は、角川さんご自身も何度も言及しているとおり、角川さんにかけられた嫌疑で無罪を主張するためのものではなく、国際法的にも恥ずべき人質司法という人権侵害をなくすためのものです。

 海外から「中世のなごり」と批判され、憂慮すらされる日本の司法制度を近代化して、自分と同じ犠牲者を生まないよう死力を尽くす。それは出版人としてメディアに生きた者の責務でもあり、生涯最後の仕事として取り組むに値する。(p.125)



最後に、私が最も怖いと思ったこと。

日本という国は、実のところあらゆる点で、「フェイクの窓」が取り付けられているのではないかということ。なんとなく光が差し込んでいるので窓があるつもりだけれども、開けようと思って近づいて初めて、フェイクだ!開かない!みんな気がついてない!と気付くような、そんな恐ろしさ。


ひとつでもほんものの窓を得るための、人質司法違憲訴訟となることを願って、注目していこうと思います。



= 引用文献 =

『人間の証明 拘留226日と私の生存権について』角川歴彦著 リトルモア 2024年刊

https://littlemore.co.jp/isbn9784898155882


= 関連サイト =

【記者会見動画】「残りの人生をこの裁判に懸けたい」

KADOKAWAの角川歴彦元会長が人質司法で国を提訴

2024年06月27日公開

https://www.videonews.com/press-club/20240627-kadokawa


■角川歴彦さんが提訴した人質司法違憲訴訟の意義

2024年6月27日

https://newspicks.com/topics/criminaljustice/posts/37



まさに、ひとどとじゃない事例が示された、よくわかるサイトです。

            ↓

■ひとごとじゃないよ「人質司法」

https://innocenceprojectjapan.org/about-hostagejustice


角川さんの事件とは直接関係ありませんが、

人質司法が引き起こしたえん罪事件で取り調べた検事が審判されることに。

少し司法も変わりつつあることを願います。

          ↓

■大阪高裁付審判決定、東京の特捜検察にも大きな “衝撃” 

「検事取調べ検証」は不可欠   2024年8月13日

 https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/38a7576ac17a05fd9e675544aa0b5199af919216


2024/06/27

 

PFAS指標値@日本と私たちの「健康への権利」

 6月25日、内閣府食品安全委員会は、発がん性のPFOAを含む有機フッ素化合物(PFAS)の健康影響を評価し、食品や飲料水の1日当たりの摂取許容量をPFOSとPFOAの2物質でそれぞれ、体重1キロ当たり20ナノグラムを指標とする「評価書」を正式決定しました。2月のパブリックコメント(意見公募)では、私も意見を届けるためできる限りのことをしましたが、およそ4000件の「緩すぎる」などの批判がほとんどだった意見は、反映されませんでした。


現在、内閣府食品安全委員会には、パブリックコメントへの回答をかねるようなQ&A(「有機フッ素化合物(PFAS)」評価書に関するQ&A)が掲載されています。そこでとても違和感を持つ点などについて、内閣府食品安全委員会に電話して伝えましたので、当ブログでまとめておきます。


Q10から抜粋

一般に、食品中の汚染物質のリスク管理については、「ALARA (as low as reasonably achievable:合理的に達成可能な限り低く)の原則」に従い、“無理なく到達可能な範囲でできるだけ低くすべき”とされています。


”無理なく到達可能な範囲”とは何でしょうか?「合理的に達成可能な限り」が、なぜ「無理なく」と解釈されているのでしょう?


欧米はPFASの規制を強化しています。今回の指標値は、アメリカ環境保護庁(EPA)の値と比べると、PFOSで200倍、PFOAで666倍も大きく、欧州食品安全機関(EFSA)と比べても64倍です。

なぜ、日本はその強化が「合理的に到達可能」ではないのでしょう?

例えば、EFSAが20年に設定した許容量は、体重1キロ当たり0.63ナノグラム。今回の食品安全委員会の示した許容量のPFOSとPFOAの合計は40ナノグラムで、EFSAの数値の64倍となります。


Q&AのQ8に、このような記述があります。

日本人の食品を通じたPFASの摂取については、限られた情報ではあるものの、2012-14年に農林水産省が実施した調査によれば、通常の一般的な食生活において推定されるヒト1日あたりのPFOSの平均的な摂取量は、0.60 ng/kg体重と1.1 ng/kg体重の間にあること、PFOAの平均的な摂取量は、0.066 ng/kg体重と0.75 ng/kg体重の間にあるとされました。


このデータによれば、日本の私たちは現在の食生活では、ヨーロッパの許容量を超えるPFASを摂取しているわけですが、だからと言って、かけ離れたものではないということがわかります。EFSAの体重1キロ当たり0.63ナノグラムを日本でも設定して、それに向けて対策を講じていくことは、合理的ではないでしょうか?そのような指標値があれば、PFASに高濃度に汚染された地域への重点的な対策も講じやすいのではないでしょうか?



Q6の健康影響では、2物質の摂取に伴う肝機能値指標とコレステロール値上昇、免疫低下、出生体重低下については関連や可能性は否定できないとしています。

それでは、一律の指標値を示すのではなく、妊婦や生殖活動などを考慮し、年齢別などで区別した指標値も可能ではないでしょうか?


最後に、食品安全委員会の担当者にお願いしたことです。

パブリックコメントでも出した意見だとして、今回の評価書からは読み取れない姿勢を確認してもらいました。

「健康への権利」をベースにしてください。

日本は、「健康への権利」を認める数々の国際的人権諸条約を批准しています。

(以下、リンクサイトより部分抜粋)

「健康への権利」とは単に健康である権利ではなく、安全な水へのアクセス、その他の健康に不可欠な条件となるものへのアクセスを含む。この権利は「漸進的実現」の対象であり、したがって、政府は、この権利の漸進的実現を計るために、指標と目標値が必要である。この権利は資源の利用可能性に影響されるもので、例えばジャマイカよりも日本のほうがより高度な要求をされる。https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/sectiion3/2009/05/post-55.html



私たち日本の住民には、欧米並の安全な水、食べ物へのアクセスの権利があります。今回示されたような指標値の元では、私の住む関西を始め、PFASにすでに高濃度に汚染されている地域住む人は、ヨーロッパの64倍のPFASを含む水を飲み、魚介類を食べることを許容されてしまいます。

今回のPFASの指標値は、健康への権利を損ねるものです。

食品安全委員会には、「健康への権利」という国際人権を尊重する姿勢をもった委員会になることを望みます。

そのようにお願いして電話を切りました。


そして、その日の夜、ジュネーブの国連人権理事会での「ビジネスと人権」のサイドイベントにオンライン参加しました。

私もオンラインで質問し、日本政府のPFAS汚染対策への後ろ向きな姿勢(25日に決まったばかりのヨーロッパの64倍のゆるい指標値も紹介)や、半導体工場やダイキンの利益が住民の健康より重視されていることを伝えると、昨年の日本調査でPFAS問題を報告してくれた作業部会のYeophantong氏が回答され、

人権より収益を重視する企業が、今後国際的なサプライチェーンで生き残るのは難しい」と、何度も強調されました。


PFAS汚染問題にしっかり取り組むことは、私たちの健康と環境、そしてビジネスを守る上でも、重要なことなのです。


参照サイト:

「血液調査の必要性」を明記し「未然防止の観点も踏まえて」と提言、専門家のPFAS評価書に環境省はどう動くのか Slow News 2024/6/24

発がん性物質のPFAS、欧米で追放進むも日本は規制強化見送りの可能性 謎の判断、専門家も首傾げる  猪瀬聖 2024/2/25







2024/05/04

 

PFOA(発がん性物質)ラプソディな1年でした

 

出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議


PFAS(ピーファス)の一種、

PFOA(ピーフォア)って、ご存じですか?

「はあ?」「アルファベットで言われてもなぁ。」

「なんか、聞いたころあるかも、米軍基地周辺の問題?」


私も昨年(2023年)の4月までは、そんな感じでとらえていました。4月10日にNHKの『クローズアップ現代』で放送された~追跡“PFAS汚染” 暮らしに迫る化学物質~を見るまでは。


そこで一瞬だけ紹介されたPFAS汚染全国マップの画面を見て、これまで沖縄と関東の米軍基地の問題だと思っていたのに、関西の淀川あたりが飛び抜けて汚染され、そして、ポツンと離れて、神戸市西区を流れる明石川も非常に高い値で汚染されていることを、初めて知りました。


「なにこれ!?」

もっと調べなくてはと思い、開いたNHKのサイト

“PFAS汚染”全国マップ 指針値超え地点 すべて掲載



そこにあったのは、「PFOS PFOA 河川、湖、海域」汚染ランキング3位に明石川、11位に同じく神戸市内を流れる伊川。そして、「地下水」汚染ランキングでは、桁違いの値で、大阪市と摂津市が1位、2位。


驚愕しました。他所で問題になっている汚染物質によって、自身が住んでいる地域がもっともっと汚染されていたとは・・・。どうなってるんだ?何で私は知らないんだ?


それからネットで調べに調べ、大阪の汚染は「ダイキン」淀川製作所が、長年PFOAを排出し続けていることが原因であろうと知りました。このダイキン由来のPFOA汚染問題は、Tansaが何年も追跡していたので、後追いで知ることができました。(ぜひ、ダイキンPFOA追跡のシリーズ「公害 PFOA」をご覧ください。)


では?明石川は?汚染源は工場?そんな大きな工場もないけど?

これまでも放射能汚染土拡散防止など、環境を守るために力を貸してくれた丸尾まき兵庫県議や、神戸市西区選出の香川市議らに、その明石川のPFAS汚染のことを伝えました。


そして、すぐさま動いて独自調査を進めてくれた丸尾県議のおかげで、だんだんと被害の実態や、汚染源がわかってきました。


■発がん性指摘の有機フッ素化合物、明石川流域の住民から検出 

9人中6人が基準値越え 京大名誉教授らが発表

神戸新聞NEXT 2023/9/21

https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202309/0016836485.shtml


■発がん性指摘の化合物 神戸・西区の明石川13カ所で「基準」超え 

京大名誉教授「産廃処理場影響か」

神戸新聞NEXT 2023/11/8

https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202311/0017007661.shtml

「今回の調査は10月中旬、流域の25カ所で実施した。

西区押部谷町のうち2カ所では10万ナノグラムと210ナノグラムを検出し、

それぞれ近くに産廃処理場が存在しているという。」



汚染源はわかってきましたし、2023年末には、PFOAがそれまでの「発がん性指摘」から、「発がん性物質」と国際基準が変わり、危険性もより明らかになりましたが、それからがなかなか進みません。

神戸市は問題と思われる産廃業者などに協力の要請をしていますが、昨年の『クローズアップ現代』放送時には、「明石川 上流 460ナノグラム」の発表だったものが、今年2月の値は、神戸市の発表では1300ナノグラムとなり、状況はまったく改善されず(むしろ、悪化!?)。


明石川の水を水道水に使っている明石市は、浄水用の活性炭の交換頻度を高めるなどして、水道水のPFAS濃度を1リットルあたり5~10ナノグラムに抑えて対応していますが、明石川の周辺の土壌汚染や海水の汚染、それによる魚介類の汚染などを考えると、汚染源の一日も早い特定、除去が必須です。(ちなみに淀川水系の阪神水道を使っている神戸の水道水は、だいたい10~15ナノグラム/L前後です。これも改善しなくてはなりません。後述)



そして、これは明石川だけの問題ではなく、日本全国、特にPFASを製造していた工場、または多量に使用していた工場の周辺、そして近隣地域の産廃処分場で、同じようなことが起こる、起きていると思われる問題です。



しかし、日本政府の動きは遅いです。

欧米各国はPFASへの規制を強化する一方、日本政府は飲料水の指標値案を、従来と変わらない1リットルあたり50ナノグラムと考えられる数値を、今年2月に提示してきました。1ヶ月間のパブリックコメント募集期間を経て、現在検討中ということになっていますが、汚染源対策の遅々とした動きを見ていると、この国の政府は、国民の健康や環境を守ることに関心がないのだろうか?と思えます。


このパブリックコメントが終わった1ヶ月後、アメリカ環境保護局(EPA)が、水道水への新たなPFAS規制値を発表しました。大切なところを抜粋引用します。


***

EPAによると、新たな規制は、体内に蓄積して多くの健康問題を引き起こすことが知られている6種類のPFASから、1億人もの米国人を守ることにつながるという。PFASとの関連が指摘される健康問題には、腎臓がんや精巣がん、妊娠高血圧症候群、早産、肝臓および免疫系の疾患が含まれる。

なかでも毒性の強いPFOSとPFOAは基準値を1リットルあたり4ナノグラムとした。

(この規制により膨大なコストがかかっても)それでも多くの専門家は、PFASに関連する健康問題を示す「証拠の重み」を考えれば、新たな基準値は理にかなっていると主張する。

「これだけ低い濃度でも、長い年月の間には大きな影響を及ぼすことがあります。化学物質が体内で生物濃縮を起こすからです」

***



日本政府も同じ対策がとれるのではないでしょうか?

いえ、私たち有権者は、政府をそのように動かさなければならないのではないでしょうか?


まずは、PFASの人体への危険性をEPA並に認識し、水道水の基準を強化する、そして汚染源を見つけて、撤去、浄化する。


私はこれまで放射能汚染の問題に取り組んできました。放射能は半減期を待つしか「浄化」の方法はありませんが、PFASは1100度で熱分解が可能で、すでに分解処分も進んでいます(一例)。また、他にも安価な分解方法についての研究が進んでいて、期待されています。


本気になれば、この発がん性物質を私たちの環境から取り除き、環境と未来を守ることができるのです。


日本政府には、米国の新規制値を取り入れ、汚染源の撤去、分解処分のために、一刻も早く動くことを要望していきたいと思います。


明石川の汚染を止めるためには、政府を動かさなければならないと強く思う、1年後の5月です。



***引用サイト***

■飲み水のPFASに米国初の規制、1億人守る新基準にのしかかる負担

National Geographic 2024/4/17

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/24/041600213/



++ オススメサイト ++


若きジャーナリストが問題を追ってくれています。

Yumihiko Yokoyama〝未来世代へのメモ〟


■PFAS汚染を追って〜明石川流域、10万ngという“脅威値”  2024/4/17

https://note.com/yumi0415/n/n462afdc3145c

(丸尾県議の調査や、私たちが企画した集会のことも紹介。

集会には、地方自治体議員を始め、阿部知子衆議院議員も参加。)


■PFAS汚染を追って〜どうなる!?使用済み活性炭、食品など新たな対策 2024/4/9

https://note.com/yumi0415/n/n8ddb8043c69f

(日本全国のPFAS汚染のこと、汚染源のこと、食品のこと、PFAS問題を網羅。)



拙ブログ「7世代に思いをはせて」でも、この1年随時書いてきたPFAS問題。

時系列でリンクします。だんだん視点がグローバルになっているのに気づきます。


■【第780号】あなたの水は大丈夫ですか?

https://nanasedai.blogspot.com/2023/09/780.html


■【第782号】もっと早く知っていれば・・・

https://nanasedai.blogspot.com/2023/10/782.html


■【第787号】PFAS汚染源を探して・・・ 

https://nanasedai.blogspot.com/2023/11/787pfas.html


■【第801号】PFASから見る「ビジネスと人権」

https://nanasedai.blogspot.com/2024/02/801pfas.html


■【第803号】「健康への権利」とわたし

https://nanasedai.blogspot.com/2024/03/803.html


■【第810号】アメリカからの朗報に思うこと 

https://nanasedai.blogspot.com/2024/04/810.html


拙ブログWords for Peaceでは、50ナノグラム/Lの問題点を説明し、パブコメ書いて!と訴えました。

■ PFAS:時代遅れの食品健康影響の指標値案を改善するためにパブコメを送りましょう!

https://flowersandbombs.blogspot.com/2024/02/


PFOAを追うことになった原点の明石川
丸尾県議撮影



2024/02/08

 

PFAS:時代遅れの食品健康影響の指標値案を改善するためにパブコメを送りましょう!

 


有機フッ素化合物(PFAS)に係る食品健康影響評価に係る審議結果が公表され、2月7日から意見募集(パブコメ)が始まりました(締め切りは3月7日)。オンライン、FAX、郵送などで誰でも意見が送れます。



審議結果は、

「食品健康影響の指標値は、TDI として PFOS は 20 ng/kg 体重/日(2×10-5 mg/kg 体重/日)、PFOA は 20 ng/kg 体重/日(2×10-5 mg/kg 体重/日)と設定することが妥当と判断した。PFHxS については、評価を行う十分な知見は得られていないことから、現時点では指標値の算出は困難であると判断した。」(pp.7-8)

用語説明:TDI=耐容一日摂取量(以下、許容量)PFOS,PFOA、PFHxSはPFASの一種 ng(ナノグラム=10億分の1グラム)


という、2023年に国際がん研究機関によってPFOAが発がん性が「ある」の最高レベルに引き上げられたことを無視し、米国環境保護庁(EPA)の2023年の草案を無視して、EPA2016年の見解を採用しました。すなわち、PFAS規制の強化に向かう世界に逆行する時代遅れの指標値です。


その一例として、有機フッ素化合物(PFAS)に係る食品健康影響評価に係る審議結果のpp.224~226 の 海外評価機関による許容量の指標値の表を最後に転載しますのでご覧ください。

ここでわかるのは、胎児や子どもへの影響を予防するための指標値が、まったく反映されていないということです。

一方、欧州食品安全機関(EFSA)が2020年に設定した許容量は体重1キロ当たり0.63ナノグラム。今回の内閣府食品安全委員会が設定した許容量はPFOSとPFOAの合計は40ナノグラムで、EFSAの数値の64倍となっています。*2


2月7日にPFAS問題の先駆的研究者の小泉昭夫京都大学名誉教授による、今回のパブコメ募集を受けての緊急オンライン講座に参加しましたが、この PFOS,PFOAそれぞれ20 ng/kg 体重/日の許容量とは、血中PFAS濃度にするとPFOS<250ng/ml、PFOA<143ng/mlを引き起こす量であり、全米アカデミーズ委員会が示した健康へのリスクが高くなる血中PFAS濃度20ng/ml、ドイツが緊急に曝露対策を取る必要な値とするPFOS 20ng/ml、PFOA 10ng/mlを大きく上回り、健康への影響への不安が高まる値です。


また、小泉教授は、「このままでは、現在の水道水の暫定目標値であるPFOS、PFOA合計で50ng/Lも、今後、PFOS 50ng/L、 PFOA 50ng/L合計で100ng/Lに改悪されかねない」と非常に懸念されていました。


予防原則に立脚しておらず、特に胎児や子どもたちへの影響を考慮に入れていない、時代遅れな審議結果を受け入れるわけにはいきません。


私は、特に以下の3点をパブコメで訴えます。


1 2023年12月に出された国際がん研究機関(IARC)によるPFOAの発がん性の判断を取り入れること。発がん性物質であるPFOAについて、PFOSと同じ許容量は理解しがたい。特に、関西はPFOAに汚染されていることへの留意が必要*3


2 米国環境保護庁(EPA)の2016年ではなく、最新の指標値を採用すること。少なくとも、2020年の欧州食品安全機関(EFSA)の指標値を採用、または、EPAの最新版が発表されるまで審議を継続すること。


3 PFHxSは子どもへの影響が危惧されることから、予防原則を充分考慮して2020年の欧州食品安全機関(EFSA)の指標値を採用すること。



オンライン講座で小泉教授がおっしゃっていましたが、パブコメで国民から1万件以上の意見が寄せられると、行政も再考せざるを得ないと感じるそうです。


実際、筆者が経験したことですが、2020年に環境省が進めようとしていた放射性汚染土再利用計画が、2800件のパブコメによって「時期尚早」として止まったこともありました。*4



私たちの健康、そして何より胎児、子どもたちを守るために、パブコメを出しましょう!

私たちは、無力ではありません。



パブコメの送り先、送り方はこちらをご覧ください。

          ↓

https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_pfas_pfas_060207.html

上記リンクにある資料:有機フッ素化合物(PFAS)に係る食品健康影響評価に係る審議結果

https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_pfas_pfas_060207.data/pc1_pfas_pfas_060207.pdf




参照記事

*1 PFOAの発がん性、最高の「ある」に2段階引き上げ WHO専門組織 汚染問題PFASの一種

東京新聞 2023年12月3日 https://www.tokyo-np.co.jp/article/293623


*2 PFASの「摂取許容量」日本でも具体化 ヨーロッパの60倍超に、発がん性は「証拠不十分」

東京新聞 2024年1月26日  https://www.tokyo-np.co.jp/article/305491


*3 追跡“PFAS汚染” 暮らしに迫る化学物質

■クローズアップ現代 2023年4月10日 https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4767/

 全国の状況は、上記リンクを、また兵庫県の深刻な汚染状況は下記動画をご覧ください。

 どちらもとてもわかりやすいです。

■「有機フッ素化合物PFASってなに?」

丸尾まき県政報告会 2024年2月2日 https://www.youtube.com/watch?v=0fsc8rUw2Fg


*4 放射性汚染土再利用にSTOPがかかりました~そして、これから~

小橋かおるブログ 2020年4月2日 http://flowersandbombs.blogspot.com/2020/04/




資料:有機フッ素化合物(PFAS)に係る食品健康影響評価に係る審議結果より(赤枠は筆者)










2023/12/26

 

2023年をふり返って・・・誰もとめられないのは・・・

 2023年も終わろうとしています。

これほどひどい年もなかったのではないかと、私には感じられます。

ガザで、誰にもとめられないままに続く民間人の「虐殺」、

誰にもとめられないままに進む日本の防衛費の突出した増額や、

米国への武器輸出に、沖縄の軍備増強、

そして、誰にもとめられないままに続く日本の原発政策・・・



この原発政策を見ていると、誰にもとめられないのは、

誰も責任を持って考えていないからだろうと、つくづく思います。

(考えているのは、原発や軍需で儲けている人たちだけなのかもしれません。)



今日、2023年12月26日にも、福島原発被害東京訴訟の控訴審で、無責任な判決が東京高等裁判所で言い渡されました。*報告集会の配信録画


簡単に言うと、「津波の対策をしても、原発事故は防げなかったから、津波対策をしなかった国に責任はない。」

これは2022年の最高裁で出された判決で、そして、今日の控訴審は、その判決をなぞるだけのもの。


最高裁判所が、小学生の言い訳のような判決を書き、高等裁判所がそれをコピペしたような判決を出す。(このような高裁判決が続いています)


誰も考えていないのですよ。

国が原発進めるから、進めやすいように司法は判決を書いているだけ。

そこには三権分立も司法の役割も見えません。



今年7月には、若狭湾にある日本最古の原発、高浜1号機が再稼働しました。今年で運転開始から49年になる原発です。そして、9月には48年になる高浜2号機も再稼働し、古い原発が西日本を中心に再稼働していきます。


2011年3月10日以前は、この国は「万が一にも事故は起こさない」と言って原発を動かしていました。事故を起こした福島第一原発は運転開始から40年の原発でした。


今、2023年、この国は福島第一原発事故の責任も認めず、「原発事故が起きても屋内退避で、住民は被ばくしろ」との政策で、フクイチよりもずっと古い原発を動かしています。


ガザの人々はイスラエルのミサイルによって、国を奪われそうになっていますが、私たちは自国の原発政策によって、国土と未来を奪われようとしているとしか、私には思えません。


いったい、この国は何なのか?

民主主義で、私たちが人間として扱われているのなら、こんなことがまかり通るわけがない。怒りも驚きも通り越して、その根本原因が知りたくなる2023年末です。



後記:

今年は英語のブログを毎週更新しましたが、このWords for Peaceは8月の記事(原発関連の無責任について)から書けないままでした。まとまったことを書くのがこのブログなので、いろいろな問題に奔走していたら、なかなかまとめる時間がなかったのです。来年は自身のためにも、問題をきちんと見つめて書く時間を作りたいと思います。


翻弄されながらも毎週書いたブログは2つ。

お正月休みにでもお読みいただけたら、うれしいです。


毎週土曜日更新(今年は関西のPFAS汚染の問題も多く取り上げました)

「7世代に思いをはせて」https://nanasedai.blogspot.com/

毎週火曜日~木曜日ぐらいに更新(海外からたくさんのアクセスがありました)

Tanka Poems against the War  https://tankaagainstwar.blogspot.com/


雪にも寒さにも負けない福寿草のように
来年も動きます



2023/08/17

 

運転開始より49年となる高浜原発1号機再稼働にみるヒトゴト

 まさかもう二度と動くことはないだろうと思っていた1974年に運転を開始した高浜原発1号機が2023年7月28日、12年ぶりに再稼働した。私の住む神戸から90キロも離れていない福井県高浜町にある関西電力の老朽原発が。


その再稼働の一報を聞いた6月末から、私はこの無謀としか思えない再稼働を止めるために、個人でもできることは何でもしようと思い、関電の大株主である神戸市、当時者の関西電力、そして原子力規制委員会に質問を出し、その回答を得た。


8月17日現在までのそのやりとりをこのブログにまとめておきたい。

福島第一原発事故という、今でも廃炉の行程さえよくわからないまま、使用済み核燃料や原子炉の倒壊の危機を抱えて、放射能を空に海に流し続け、何万人という人々の生活を破壊した惨劇が現在進行中のこの国の無自覚、無責任、ヒトゴト姿勢を、せめて記録しておくために。



--------原子力規制委員会とのやりとり-----------------


原子力規制委員会に質問 2023/7/20 

 高浜原発から90キロほどしか離れていない神戸に在住の者です。

先日、ある学習会で、圧力容器(鋼鉄)の脆化温度は、原子炉の運転期間が長くなると上昇するということで、使い始めは、-16度のものが、1年後には、35度、18年後には56度、34年後には98度で、高浜1号機は99度と紹介されていました。


これは、ほんとうでしょうか?

もしもほんとうなら、福島第一原発のように事故を起こしたときに、水で冷却しようとしても、圧力容器が割れてしまうのではないでしょうか?7月28日にも高浜1号が再稼働と報道されており、とても心配です。ご説明いただけたら、幸いです。


詳細:https://sayogenkobe.blog.fc2.com/blog-entry-217.html


7月25日に原子力規制庁より「電話で答える」との返信着

7月28日午前(午後には高浜1号機再稼働) 原子力規制庁の担当者に小橋より電話。


電話での会話まとめ

担当の回答 「脆化温度は99度だが、冷却時に(ECCSの)水をかけても圧力容器は割れないという計算になっている。」との計算上の話。その計算について公表されているサイトのリンクを後ほど送ると約束。

私が、「その計算方法が30年前のもので、新しい知見が反映されていないと井野博満さん(東京大学名誉教授)から聞いた」と言うと、「われわれも知見を取り入れるよう勉強している。井野先生にも、お話は聞いている」と返答。


今から、知見を勉強しても、もう高浜1号機は、今日の午後3時には再稼働なんです!事故ったら、私の所にも放射性物質が飛んでくるんです!と、思わず訴えてしまう。

その話の展開で、49年も前の原発が12年ぶりに再稼働されることになったことについて、私の疑問をぶつけてみた。


「コアキャッチャーもないのになぜ、世界一厳しい安全基準なんだ?」と聞くと、

「誰が言っているかは知らないが自分たち(規制委員会)は言ってない」と返答。


「避難計画もおろそかなのに、なぜ再稼働できるのか?」と聞くと、

「事故時の避難計画が適正かどうかを審査するのは自分たちではない」との返答。


また、脆化温度が高浜1号機よりも低い美浜2号や大飯1,2号が廃炉になっているのは、「関電の経営判断(規制クリアするためにお金をかけたくない)であって、圧力容器云々の話ではない。」と返答。


7月28日夕方規制委員会から送られてきた文書ファイル

関西電力株式会社高浜発電所1号炉の運転期間延長認可申請の実用炉規則第114条への適合性に関する審査結果 平成 28 年(2016年) 6 月 原子力規制庁



8月1日午後に小橋より返信 

「関西電力株式会社高浜発電所1号炉の運転期間延長認可申請の実用炉規則第114条への適合性に関する審査結果 平成 28 年 6 月 原子力規制庁」のファイルを送付いただき、ありがとうございました。


さらに3点ほど質問させていただきたいのですが、


1: P.10にある、原子炉容器の中性子照射脆化審査に関しての「評価」は、平成21年(2009年)に取り出した監視試験片を元にしていると考えられ、とても古いデータであると不安に思い、ある学習会で専門家の方に質問しましたところ、2009年のものは溶接金属を使った試験を元にしたもので、母材は2002年が最後とのことでした。本来なら、溶接金属も母材も同時に試験するべきところを別々にしか行っていないという解釈でよろしいでしょうか?


2: 母材の試験片は2021年に取り出され、結果は2023年8月にわかると聞きましたが、それで正しいでしょうか?


3: 1,2の解釈で良い場合は、8月の試験結果を待たずして、もうすぐ49年になる原発を12年ぶりに再稼働させたということになりますが、8月の試験結果に問題が認められる場合は、規制委員会としては、高浜原発1号機の運転停止、廃炉の判断を行えるのでしょうか?

学習会での資料を添付いたします。


詳細:https://foejapan.org/issue/20230718/13536/




8月3日にまた「電話で答える」との回答で、4日に小橋より電話をかけるが忙しいとのこと。何回か電話し、8月8日に担当者につながる。


質問の1は、この解釈でOK。すなわち、高浜は別々に試験片を取り出してやってる。

質問2は、関電に聞いてくれ。規制庁は報告を受けるだけ。

質問3は、今度のGX脱炭素電源法が施行されたら、30年超えの原発を運転したい事業者は、すべての30年超えのものについて書類を再提出することになる。

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いかがですか?この無責任なヒトゴト姿勢?

いったい原子力規制庁とは何のための組織なのか?

原子力規制庁ならば、せめて原子炉容器の中性子照射脆化審査に最新の知見を取り入れるよう業者に求めるべきだと思いませんか?また、母材と試験片を別年で審査することを許可したりするべきではないし、欧米を中心に新型原発では取り入れられているコアキャッチャーがなければ運転してはならないと規制するべきでしょう。


GX脱炭素電源法と言う名の「原子力推進法」、60年超えの原発の運転を可能にする新法のもとで、原子力規制庁が今以上に規制の方向に動くとは到底考えられません。



また、今回のやりとりで、原発事故が起きたときの避難計画も自治体に丸投げで、誰も責任をとる様子がないことにも大きな不安を感じました。


そこで検索して、見つけた文書に、改めて驚きました。

■ 原子力災害対策指針と 新規制基準(平成28年)原子力規制委員会委員長 田中 俊一と題した文書です。

そこには、福島第一原発事故からの教訓として、「無計画に無理な避難をしたことで多数の犠牲者が出た。」 「原発サイトの内外を含めて放射線被ばくによる確定的な健康影響は認められていない。」よって、「屋内退避を積極的導入する」という結論が書かれています。注意書きとして、「なお、複合災害時には、生命に関わる他の災害リスク対策を優先する。」とあり、地震で屋内退避する場所がなかったり、津波で逃げなければならなかったりすれば、もう被ばくしろ、と言うことのようです。



唖然とします。

福島第一原発事故前は、「原発は事故をしません」と言って、日本中に54基も原発を建てて動かしていた。

原発事故が起きた後は、「事故を起こしても被ばくしろ」と言って、古い原発までも稼働させる。

無茶苦茶でしょう?


この無茶苦茶を、原子力規制委員会、規制庁、電力会社、そして自治体も、国の方針だから、法律がそうだから・・・と、言い訳をしながら、ヒトゴトのように原発推進に加担していき、メディアもほとんど官報のように伝えるだけ・・・。


運転開始から40年となった2011年2月に、福島第一原発1号機を廃炉にしておけば、あのような過酷な原発事故は起きなかったかもしれない・・・この12年間ずっと悔やんできました。

しかし、この国の為政者は、あの事故を、「事故が起きても原発は動かしてもいい」日本にするために利用したのです。


これを止められるのは、ほんとうに国民しかいません。

私たちの暮らしと健康を守るために動く政治家を選び、またひとつひとつ疑問の声を上げていかなければ、彼らの利権のために被ばくさせられ、健康を害しても「関係ない」との強弁で、泣き寝入りの内に死んでいくはめです。


私は嫌です。

泣き寝入りはしません。

これからも、おかしいことはおかしいと言い続け、せめて記録に残します。



下記は、関西電力、神戸市とのやりとりです。

記録のひとつとして掲載します。


-------- 関西電力とのやりとり ---------------------


小橋より関西電力に質問 2023/7/13 

 原発の圧力容器の脆化について、質問です。

脆化温度は、運転期間が長くなると上昇するということで、使い始めは、-16度のものが、1年後には、35度、18年後には56度、34年後には98度で、高浜1号機は99度と、ある学習会で聞きました。これは、ほんとうですか?

また、その場合、高浜1号機を運転するのは、非常に危険ではありませんか?



関電より8月4日(高浜原発1号機再稼働後!返信着)

小橋さま

お世話になっております。関西電力広報室です。

原子炉容器の健全性評価で用いる脆性遷移温度は、脆化の程度を示す指標であり、その温度以下になると脆性破壊するといったことを示すものではありません。

原子炉容器の健全性評価では、監視試験結果で得られた脆化傾向を踏まえて将来の脆化程度を予測し、事故時など過酷な条件下においても原子炉容器に破損のおそれが

ないことを確認しており、高浜1号機のような初期のプラントであっても、原子炉容器の健全性に問題はないと考えています。

なお、関連温度(脆性遷移温度)については下記の通りHPで公開しているとおりです。

https://www.kepco.co.jp/energy_supply/energy/nuclear_power/info/knic/meeting/genshiryoku/cyuuseisi2_2.html

何卒よろしくお願い申し上げます。


関西電力株式会社 広報室



小橋より関電に8月8日に再質問

関西電力株式会社 広報室御中

ご説明をありがとうございました。

ある学習会で、高浜1号機の脆化温度の計算の仕方は30年前のもので、新たな研究結果などが反映されていないと聞きました。

また、高浜原発の原子炉容器の中性子照射脆化審査に関しての「評価」は、平成21年(2009年)に取り出した監視試験片を元にしていると考えられ、とても古いデータであると不安に思い、専門家の方に質問しましたところ、2009年のものは溶接金属を使った試験を元にしたもので、母材は2002年が最後とのことでした。

また、その方によると母材の試験片は2021年に取り出され、結果は2023年8月にわかると聞きましたが、それで正しいでしょうか?

福島第一原発も40年で廃炉になってたはずの一号機から事故は始まりました。

私の街から100キロほどしか離れていない老朽原発群(高浜1,2号、美浜3号)を思うと、非常に不安です。

新たな試験片の審査結果がいつわかるのか、また、どこで確認できるのか、教えてください。

---------------------------------


8月17日現在、関電よりの返信はありません。




---------- 神戸市とのやりとり -----------------


神戸市へのメール6月22日

神戸市環境局環境創造課 御中


6月28日の関電の株主総会を前に、

関西電力が、運転開始から49年を迎えようとする高浜原発1号機の再稼働するとの報道がありました。2011年からずっと止まっていた老朽プラントが、神戸から90キロほどしか離れていないところで再稼働するかと思うと、ほんとうに心配です。


添付の画像は、2014年の兵庫県による高浜の隣の大飯原発が放射能漏れ事故を起こしたときのシミュレーションですが、北風に乗れば、2時間で放射性プルームが神戸にも到達すると、当時の井戸兵庫県知事も答弁しています。


ほとんど審議も尽くされず拙速に決まった国の方針と、関西電力の経営判断によって、

神戸、関西の生活が脅かされることになります。


神戸市はこれまでも原発に依存しない電力供給を関西電力に株主として求めてきました。

来週の株主総会でも、その姿勢を明確にし、また関西全域の暮らし、経済に不安を与える老朽原発の廃炉を求めてください。



神戸市より6月28日返信着

小橋さま

お世話になっております。

神戸市環境局環境創造課です。


ご意見をいただきありがとうございます。

繰り返しになりますが、本市では原子力発電について、

安全性と地元理解を大前提として、国において判断すべきものと考えております。

市民の安心安全な暮らしと、市内事業者の活発な経済活動を守る立場として、

国の動向を注視し、庁内においても引き続き原子力発電に関する検討を続けて参ります。

---------------------------------


その後、7月28日に、つなぐ神戸市議団の香川議員と高橋前議員が神戸市と老朽原発再稼働について、神戸市として何らかの対策を求めて面談を実施してくださいましたが、神戸市は、上記と変わらぬヒトゴト対応だったと報告を受けました。



6月22日には、兵庫県に下記の提案をしましたが、8月17日現在返答はありません。

これまで何度も「さわやか提案箱」から提案してきましたが、返答がないのは初めてです。知事が変わったからでしょうか?

さわやか提案箱への提案

「事故時に放射性ヨウ素が放出された時のことを考えて、篠山市は安定ヨウ素剤の事前配布を実施しています。

https://www.city.tambasasayama.lg.jp/soshikikarasagasu/shiminanzenka/bousai/genshiryokusaigai/23144.html 

兵庫県内すべての自治体に事前配布するよう、知事に提案いたします。」




最後に、原発事故がどのようなものであるのか、兵庫県に避難されている菅野みずえさんのインタビュー記事をリンクします。ほんとうに、自分事として、考えなければなりません。


■原発がある限り、私の身に起こったことは、いつかあなたのことになる – 菅野みずえ

グリーンピース・ジャパン 2022/3/3

https://www.greenpeace.org/japan/campaigns/story/2022/03/03/55716/

「原発がある限り、私の身に起こったことは、いつかあなたの、誰かのことになります。私は〈3月10日〉を踏み越えてしまった今を生きているけれど、あなた方はまだ〈3月10日〉の分岐点にいる。これ以上、子どもたち・若い世代に重荷を背負わせない方角はどっちか、大人たちがどうか考えてください」


2014年には兵庫県もこのような
放射能拡散シミュレーションを発表し、自分事としていたのに・・・。


追記:

アクション情報

9・1(金)関電前「一食断食」行動 ~老朽原発うごかすな!
      ~とめよう!原発依存社会への暴走~
◆と き:9月1日(金)10:00~16:00
◆ところ:関西電力本店前(大阪市北区中之島)
◆主 催:老朽原発うごかすな!実行委員会 

12.3 (日) とめよう!原発依存社会への暴走 1万人集会 
日時 12月3日 (日) 午後 
場所 大阪市内
主催 老朽原発うごかすな!実行委員会

情報サイト

原発ってどこにある?今、動いてる?再稼働はいつ?

https://blog.goo.ne.jp/tanutanu9887/e/a43bbf55884c7e6832943f79a7f56b72



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