2023/04/23

 

追跡!謎の日米合同委員会 別のかたちで継続された「占領政策」を読んで

  日米合同委員会、この存在をどれだけの日本国民が知っているでしょう?私自身も、この名前を聞いたのは15年ぐらい前のことかと思います。また、外務省の元関係者の話としても、「たいしたことはしていない。日米間の事務調整みたいなもの」などしか聞こえてこなかったので、これまで気になりながらも、あまり注目してこなかったのですが、昨年末に、「NHKスペシャル 未解決事件 松本清張と帝銀事件」を見て、その一場面(GHQが雑談のように日本の役人を通して、これ以上帝銀事件と731部隊の関係を追うなと日本人記者に「要望」する)を見て、これが日米合同委員会の原点の姿かも!?と、その存在と機能が腑に落ちたような気がしました。

   そして、出会った1冊の書籍。吉田 敏浩著『追跡!謎の日米合同委員会 別のかたちで継続された「占領政策」』(毎日新聞出版 2021年刊)。日米合同委員会による、日本国民の主権侵害に焦点を当てて、一部引用しながら紹介します。(緑字部分は引用)




はじめに

 日米合同委員会とは、日本における米軍の権利など法的地位を定めた日米地位協定の運用に関する協議である。一九五二年四月二八日の対日講話条約、日米安保条約、日米行政協定(現在地位協定)の発効とともに発足した。外務省や防衛省などの高級官僚らと在日米軍司令部などの高級軍人らで構成されている。

 外務省内や都内の米軍施設などで定期的に会合し、議事録や合意文書は原則非公開とされる。国会議員にさえも公開しない秘密の厚い壁を築いている。関係者以外立ち入れない密室の協議を通じて米軍に対し、基地を自由に使用し軍事活動をおこなう特権を認める合意を結んでいる。米軍優位の不平等な日米地位協定を裏から支える密室の合意システムといえる。(中略)


日米合同委員会の議事録や合意文書の非公開は、日米地位協定で定められているわけではない。ただ合同委員会の密室協議で、そう取り決めただけなのである。そして、そう取り決めた合意文書さえも非公開としてきた。その秘密体制は徹底している。(p.7)



そこに風穴を開けようとしたのが、「知る権利」と情報公開の推進に取り組むNPO法人「情報公開クリアリングハウス」の「日米合同委員会議事録情報公開訴訟」である。この訴訟を通じて、外務省は1960年の安保改訂後の第一回日米合同委員会の議事録中の、「(合同委員会の議事録などは)日米双方の合意がない限り公表されない」という部分を開示せざるをえなくなった。

 そして、日米合同委員会の文書非公開という秘密体制を維持するために、外務省が情報公開法にもとづく日米合同委員会連絡の文書開示請求があるたびに、在日米軍と電話やメールで連絡を取り合い、米軍側から「開示に同意しない旨」の回答を受けている事実も明らかになった。

 これでは、米軍が日本の情報公開制度に対し縛りをかけていることになる。米軍の同意なしには開示されないのだから、日本の情報公開の主権と国民の「知る権利」が制約・侵害されているといえる。 (p.8)



日本の空と人権: 米軍機の飛行訓練について

 国民の「知る権利」を侵害される中、「密約」に則って、日本国民が安全に暮らす権利も侵害されている。

 沖縄の普天間基地が、米軍機による飛行訓練の被害を周辺住民に及ぼしていることは、長く知られているが、一向に改善されていると思えない状況だ。それは、沖縄のことだけでなく、関東や横田基地周辺、東北の三沢基地周辺、また九州の一部、西日本横断ルート、東北周回ルートなどで、本国アメリカでは到底許されない住宅地上空のような地域でも、低空飛行訓練を米軍は続けている。


 防衛省によると、地位協定にもとづくとされる米軍の訓練空域は二八カ所ある。しかし実際には、F16戦闘機、FA18戦闘攻撃機、C130輸送機、オスプレイなど多くの米軍機が、これらの訓練空域以外の日本の陸地の上空でも自由に訓練飛行をおこなっている。

 米軍は地位協定上の法的根拠もなく、北海道から沖縄まで全国各地に、新聞社の調査などで判明しただけでも八本の低空訓練ルートや、関東から中部にかけての低空訓練エリアを勝手に設定している。(p.45)



 米軍機の飛行訓練がひんぱんにおこなわれる地域の自治体は、飛行ルートや訓練時間の事前の情報提供を日本に求めている。米軍機と自治体の消防防災ヘリやドクターヘリのニアミスや衝突事故を防ぐためである。しかし、情報は提供されない。「米軍機情報隠蔽密約」 があるからにちがいない。密約は住民の安全を脅かしている。(p.7)



 そして、これらの空域は、ここでは詳しく述べませんが、現在でもまだまだ拡大しています。詳細は、2019年の三沢基地についての章、「三沢基地周辺でも拡大する米軍用空域」(p.165)をお読みください。他にも、下記の引用部分に列挙されているような、日本の法令に抵触するような米軍の特別扱いがおこなわれています。



 日本の法令に反する合意はしてはならない

 

 それにしても、このような日米合同委員会で日本の法令に抵触、違反する合意をおこなうことは、許されるものだろうか。

 その答えは、決して許されるものではない、である。明確に、前出の外務省機密文書『日米地位協定の考え方・増補版』でも、そう説明されている。日米合同委員会を設置した根拠となる地位協定第二五条の解説部分の一節である。


 合同委員会は、当然のことながら地位協定または日本法令に抵触する合意を行うことはできない。


 したがって、航空法上の法的根拠がないのに、米軍による「横田空域」や「岩国空域」での航空管制を事実上委任して認めることも、米軍機に「航空交通管制承認に関し、優先的取り扱いを与える」ことも、銃刀法に反して米軍基地の日本人警備員に銃を携帯させることも、刑事特別法の規定に従わないで、公務中かどうかまだ明らかではないのに米軍人・軍属の被疑者の身柄を米軍側に引き渡すことも、すべて日本法令に抵触、違反しており、そもそも日米合同委員会で合意できる内容ではないのである。

 『日米地位協定の考え方・増補版』は、外務官僚向けに地位協定の解釈・運用について解説した機密文書、内部資料だ。そこにみずから「日本法令に抵触する合意を行うことはできない」と書いておきながら、国民・市民の目が届かない日本の高級官僚と在日米軍の高級軍人の密室協議の場では、日本法令に抵触して米軍を特別扱いする秘密合意を結んでいる。民主主義の基本である「法の支配」を逸脱する行為であり、法治国家としてあってはならにことだ。

 日米合同委員会では、「日本法令に抵触する合意を行うことはできない」以上、日本法令に抵触、違反する合意に正当性はなく、無効でなくてはならない。(pp.206-207)                                          


最後に、独立国として日本がなさなければならない道筋を、本書は示しているので、紹介します。



「別のかたちで継続された占領政策」の呪縛を断ち切る

 このように正当性に欠ける日米合同委員会の密室のシステムを、放置してはならない。

放置したままでは仮に地位協定を抜本的に改定したとしても、その規定をすり抜けて米軍に 有利な合意・密約がつくられてゆくだろう。

 したがって、米軍に対し実効性のある規制をかけるためには、日本法(国内法)を原則として適用することなど地位協定の抜本的改定とともに、不透明な日米合同委員会の合意システムを見直さなければならない。

 日米合同委員会の全面的な情報公開と米軍優位の密約の破棄がなされるべきである。ゆくゆは日米合同委員会そのものも廃止して、国会に「日米地位協定委員会」を設置し、地位協定の解釈と運用を国会の開かれた場で、主権者である国民・市民の目が届くかたちで議論し、管理するように改めなければならない。そこに自治体からの代表者も参加でき、住民の声も汲み 上げられる仕頼みも欠かせない。

 松本清張が鋭く指摘した、”別のかたちで継続された占領政策”。その象徴といえる日米合同委員会。「安保法体系」+「密約体系」という表裏一体の米軍優位の構造。このような“別のかたちで継続された占領政策”の呪縛を断ち切ること。それは、いま日本が独立国として、まさしく取り組むべき大きな課題にちがいない。(pp.232-233)



松本清張は昭和50年(1975年)という節目の年に、『文藝春秋』(1975年1月号)誌上でこのように述べたとされる。

 「安保体制というのはアメリカ占領政策の継続です。(日本の)官僚政治家その能率的な実践者であり、忠実な管理人ですね。」 (pp.169-170)



   2023年の現在も、東京都心でほぼ隔週で開かれているという日米合同委員会。米軍に忠実な官僚や政治家に国政を預けている日本国民は、米軍政下にあると言えるでしょう。この状況が、日本国民に知らされぬまま戦後80年近く続いてきた弊害は、とてつもなく大きいと思います。なぜなら、外国軍に主権を奪われ、国民のためにならない政策が堂々と行われていても、それを異常だと思わなくなってしまったからです。「戦争に負けたから仕方がない」という声を聞くこともありますが、同じ第二次世界大戦敗戦国のドイツやイタリア、また、アフガニスタンやイラクと米国の地位協定を、日本のそれと比べてみてください。日本の異常さに気がつかないわけにはいかないでしょう。


そして、占領状態から続くこの不平等な状態から国を立て直す、すなわち日本を真の独立国にできるのは、国民の力しかないこともわかるでしょう。国民の力とは、軍事力ではなく、国民の主権への渇望、選挙権の行使、政治家、官僚の監視など、真に民主主義的な国民の力だと、私は確信しています。




注:日米合同委員会 

下記は■特権を問う日米合同委員会 米軍特権の基礎知識 2021/12/21 

https://mainichi.jp/articles/20211216/org/00m/040/016000c  より引用


 1952年調印の日米行政協定で設けられた協議機関。1960年からは行政協定を引き継いだ日米地位協定に基づき設置されている。東京都心でほぼ隔週で開かれており、日本の省庁幹部と在日米軍幹部が米軍や基地の具体的な運用の実務者協議を行っている。


 代表者は日本側が外務省北米局長、米国側が在日米軍副司令官。「刑事裁判管轄権」「出入国」「航空機騒音対策」「訓練移転」「在日米軍再編」など分野ごとの分科会や部会が30以上設けられており、本会議に当たる合同委員会で合意事項が決定される。


合意事項は日米双方に拘束力をもつが、協議は非公開で内容は日米双方の合意がなければ公表されず国会への報告義務もない。このため、国民の知らない密約が数多く結ばれているとの指摘がある【記事①】 【記事②】 【記事③】。


既に明らかになっているのが、米兵の公務外犯罪を巡る「裁判権放棄密約」だ。1953年10月28日の日米合同委員会裁判権小委員会の議事録の中で日本側代表の津田実・法務省総務課長(当時)が「実質的に重要と考えられる事件以外では、第1次裁判権を行使する意図を通常有しない」と述べた秘密の了解を指す。米公文書にこの記録が残るが、外務省は「予測を述べたものに過ぎず、何らかの約束を述べたものではない」として効力を否定している。


 2018年の沖縄県議会で翁長雄志知事(当時)は「日米地位協定が憲法の上にあって、日米合同委員会が国会の上にある」と語っている。



記事1 地位協定60年 65年米公文書 日米「身柄勾留」密約 裁判終了まで米側で https://mainichi.jp/articles/20200228/ddm/001/040/085000c


記事2 地位協定60年 身柄勾留で密約 米軍優遇、浮き彫り https://mainichi.jp/articles/20200228/ddm/003/010/131000c


記事3 日米関係を揺るがしたジラード事件 「密約」が阻んだ捜査 63年前の父の悔しさ https://mainichi.jp/articles/20200307/k00/00m/040/003000c


しっかり読んだら、お腹が空きました?
アイスランドでのランチの写真です。
アイスランドの安全保障政策も、とても参考になりますので、また、いつか。



This page is powered by Blogger. Isn't yours?