2018/12/28

 

核に縛られる日本、そしてアメリカ ~マンハッタン・プロジェクトからフクシマ、トモダチ作戦まで~


                                                   
2018年12月9日、私も共同世話人を務める「さよなら原発神戸アクション」主催で、講師に田井中雅人さん(朝日新聞記者)をお迎えし、「核に縛られる日本、そしてアメリカ~マンハッタン・プロジェクトからフクシマ、トモダチ作戦まで~」が開催されました。

寒い日にもかかわらず、多くの方がご参加くださり、核のこれまでとこれからについて、しっかりと考えさせられる会になったと思います。簡単ではありますが、私が大切だと思った点を中心にまとめさせてもらいます。


「歴史は勝者によってつくられる」
 原爆を開発し、実際に都市を原爆で破壊した米国は、戦争の勝者。勝者にとって都合の良い「歴史」が流布するのは自明でしょう。そのような勝者にとって心地良い言説とは・・・
1 原爆は100万人の米兵の命を救った
2 原爆は戦争を終わらせた
3 広島の被爆者は米国に謝罪を求めていない

1と2は戦後米国でずっと語られてきた物語ですが、3はオバマ大統領の広島訪問によって追加された物語です。

では、「勝者が語らない事実」とは?

1 原爆のきのこ雲の下で起きたこと
2 原爆ではなく、ソ連参戦が戦争を終わらせたこと
3 被爆者すべてが謝罪を求めていないわけではないこと
(あの訪問で「広島はオバマ大統領の引退の貸座敷」だったと元広島市長の平岡さん)


しかし、原爆について「勝者」が語らないのは、「敵国」の日本に対するものだけではありません。アメリカ国内でも多くの被ばく者が存在しますが、それは語られてきませんでした。
ハンフォード
米国ワシントン州のハンフォードでは、長崎原爆7000発分のプルトニウムを製造した工場があり、周囲を放射能でひどく汚染し、地域住民を被ばくさせた。しかし、その被ばく量は「問題ない」とされ、その放射性廃棄物もずさんな管理しかされていないなか、地域は国立公園とされた。これを「緑の隠蔽」と呼ぶ人もいる。

トモダチ作戦
2011年3月の福島第一原発事故当時、太平洋上の近海に展開していた空母ロナルド・レーガン号の乗組員たちは、「トモダチ作戦」という東北被災地支援に従事し、結果的に被ばくさせられ、すでに死者もでている。しかし、その被ばく量は米軍・政府により「問題ないレベル」とされている。


「勝者の歴史」を覆されないために「勝者」が行っていること

核産業の広報戦略4段階
1 自然化 (放射能は日頃から周囲にあるもので、怖くない)

2 対抗研究 (被ばくが危険であるという研究が出てきたら、「御用学者」に対抗する研究をさせて発表する)

3 自己責任 (体調が悪いのは被ばくではなく、酒やタバコなどの生活習慣のせいだと被ばく者の責任にする)

4 結論引き延ばし (被ばくの影響が明らかになってきたら、国が「調査します」とし、その調査が終わるまでは「被ばくの影響はわからない」として結論を引き延ばしにする)


そして、これまで「これぐらいの被ばくでは問題ない」と「被ばくの黄金律」のように使われてきたのが、広島・長崎の被爆者たちを対象にした調査結果。「あなたは広島や長崎で爆風にされされた人たちより被ばくしたはずがない、だから大丈夫」という言説です。

しかし、その調査自体が米軍により軍事機密として行われたもの・・・「勝者がつくる歴史」の一部でしょう。詳しくは、『放射線被曝の歴史』(中川保雄著)をご覧ください。


さて、このように「敵国」だけでなく、自国民や兵士たちも被ばくさせ、「問題ない」と繰り返し「勝者」が進める核事業。これは核兵器が巨大な富と雇用を生み出す「無限機構」であるからです。

核産業の「広報戦略4段階」が世界中に使用されていることを目の当たりにするとき、日本や米国の被ばく者、市民だけでこの核の呪縛から逃れることは難しいと思われます。

しかし、その呪縛を解くひとつの大きな転機がやってきました。
それは、核兵器禁止条約です。核兵器が「悪」として使用が不可能になってしまえば、原発産業も衰退するでしょう。


世界が連帯して、核兵器、原子力発電にNO!を突きつけること・・・それを可能にしてくれるのが「核兵器禁止条約」です。


以上、講演の内容をざっとご紹介しましたが、詳しくは田井中雅人さんのご著書『核に縛られる日本』『漂流するトモダチ』をご覧ください。
                                                         


講演会の後は、活発な質疑応答、そして関西に避難されてきている原発賠償訴訟の原告、サポーターからのアピールもありました。

原発事故はひとごとではありません。神戸から90キロしか離れていない若狭湾の高浜原発は再稼働されています。もしも事故があれば北風に乗れば2時間で放射性物質が神戸にもやってきます。今、政府は「年間20ミリシーベルトまでの被ばくなら問題ない」と福島第一原発事故で汚染された地域にも住民を帰還させようとしていますが、もしもこれを許してしまうと、若狭湾の原発、もしくは神戸よりも西で稼働する伊方原発、川内原発、玄海原発で事故が起きた時に、同じように私たちにも被ばくを強要するでしょう。

核産業の広報戦略をしっかり見定め、私たちは私たちの命と暮らしを守るために行動しなくてはと、しっかりと認識させてもらった講演会でした。
講演内容をまとめた最後のスライド


追記:上記でご紹介した『放射線被曝の歴史』(中川保雄著)と『核に縛られる日本』(田井中雅人著)を読ませてもらって書いた当ブログの記事がありますので、リンクさせていただきます。

ブログ:Words for Peace
・2012/02/06『放射線被曝の歴史』
http://flowersandbombs.blogspot.com/2012/02/
・『放射線被曝の歴史』を読んで:ICRPの精神とは?
http://flowersandbombs.blogspot.jp/2012_03_01_archive.html
・繰り返される過小評価:放射線被曝の危険性~広島・長崎~チェルノブイリ~福島
http://flowersandbombs.blogspot.jp/2012_07_01_archive.html

『核に縛られる日本』関連記事 
・彼らにとって心地よい物語
・8月5日に思うこと
https://flowersandbombs.blogspot.com/2018/08/





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