2019/07/01

 

7世代に思いをはせて ~放射能汚染から子どもたちを守るために~





2019年6月29日、 神戸YWCA平和活動部の皆さんのお招きで、学習会の講師を務めさせていただきました。当日のレジュメを掲載いたします。                   
             


はじめに
私は1964年生まれ。これまで不可解に思ってきたことがいくつかありました。幼い頃、テレビでよく見た大気圏内核実験。巨大なきのこ雲が立ち上り、広島の何十倍とか何百倍とかの破壊力だと聞いた。漫画の『はだしのゲン』を読んでいたので、「そんな大きな原爆を爆発させて、周りの人は大丈夫なのかな?」と子供心に思ったが、周りの大人もテレビも心配しているようには見えなかったので、「大丈夫なんだな」と自分を納得させた。

1990年代の20代の頃、毎日アメリカのTVニュースを見ることが習慣だった。いろいろ不思議なニュースはあったが、その中でもずっとひっかかていたものはアメリカの女性の乳がんの発症率の高さ。当時アメリカでは8人に1人が乳がんを発症すると報告されていた。日本では当時は25人~30人に1人。それまでも化学産業などによる大気汚染などが原因ではと指摘されていたが、当時のアメリカでは更年期障害を軽減するために処方されていた薬が乳がんの発症率を高めていると連日取り上げられていて、「アメリカ人は薬が好きだからな」と私なりに納得していたが、今から考えると、スリーマイル原発事故などの被ばくの影響はまったく語られていなかった。

90年代後半から2000年代、イラクで白血病の子どもたちや先天性の障害を持って生まれてくる赤ん坊が増えていることを知った。多くの人が劣化ウラン弾の関連を訴えたが、アメリカは「因果関係はない」と断固否定した。さすがに納得できなかった。思えばこの頃から独自に放射能汚染について情報を集めるようになった。

そして、2011年3月11日、福島第一原発で事故発生。外部電源が確保できず原子炉を冷却できない状態が続いた。冷静にそして理論的に考えると、数時間後にはメルトダウンが懸念されたが、東電も政府もそれを否定。次々と原子炉建屋が水素爆発を続けても、政府は「ただちに健康に影響はない」と繰り返し、事故から8年となる現在においても、国を挙げて事故の影響を小さく見せようと動いているようにしか、私には見えない。


おそらく多くの人は、子どものころの私のように、周りもテレビも心配しているようには見えないので、「大丈夫なんだな」と自分を納得させているのでしょう。




原発事故から9年目の今

先日、このようなニュースが届きました。
■横浜の保育園で“汚染”土騒動 園児2人が白血病発症 市は動かず
AERA.dot 2019年6月1日 https://dot.asahi.com/wa/2019060100003.html?page=1


横浜市の保育園で園児ふたりが白血病を発症し、保護者の方たちが市に「汚染土壌の移設」を要請したのですが、それを横浜市は拒否したのです。
このニュースに愕然とし、この要請が出され、審議された横浜市議会のインターネット中継録画を見ました。

横浜市内の保育園でふたりの子どもが白血病を発症したことを受けて、
2019年5月29日、こども青少年・教育委員会に出された二つの請願。
請願第 4 号 市内保育園等における白血病発症の実態調査等について
請願第 5 号 市内の学校及び保育園等における放射能汚染土壌の撤去等について
これがおよそ30分の審議の後、不採択となったのです。

その検討の様子を見ましたが、「汚染土壌」の撤去よりも、「保護者の不安を取り除く」ことが重要と、自民党、公明党の議員を中心に繰り返し述べていました。
「不安を煽らないように」除染後に発生した「土壌」(彼らは汚染土壌と言われるのも心外なようです)を撤去しないとの言い分ですが、そこにどれだけの量の土壌が埋められているのかも市は答えられないのが現状です。

保護者の不安を取り除くには、しっかりとした調査を。
空間線量でなく、きちんとベクレルで危険性を語るべきです。

その横浜市の委員会で職員や議員らは、「福島県でも原発事故由来の白血病や甲状腺ガンの上昇は見られない」と言っていました(だから園内の「土壌」は関係ないと)。

福島第一原発事故以前は、子どもでは100万人に1人か2人しか発症しないと言われていた甲状腺ガン。今週発表された、福島県の甲状腺検査の2巡目(14年~15年度)でも、約27万人が受診し、このうち71人に、ガンまたはガンの疑いが発見されたとの報道がありました。それでも「原発事故による被ばくとは(現時点で)関連ない」との発表。

あなたは納得できますか?              
                                                               
引用メルマガ                           
■7世代に思いをはせて【第556号】横浜からの続報 https://nanasedai.blogspot.com/2019/06/556.html                                  


内部ひばくの危険性~セシウムボールのゆくえ~

除染により発生した放射性汚染土は、なぜ危険なのでしょう?

福島第一原発事故により環境中に大量に放出された放射性物質。その中でも大量に放出された放射性セシウムの半分が不溶性のいわゆる「セシウムボール」であったことが報告されています。そのセシウムボールは、福島県を中心に、関東地域全般や宮城県に飛散し、降下し、多くが土に沈着したと考えられるます。除染によって集められた土壌にも多くのセシウムボールが含まれているでしょう。

セシウムボールというのは、一言で言えば、不溶性すなわち水に溶けない放射性セシウムの微粒子です。純粋の(放射性)セシウムは水に溶けるので、体内に取り込んでも、汗や尿として排出され1000日もすれば体内から検出されなくなると言われますが(それでも十分被ばくの危険性はありますが)、一方、原発事故で発生したセシウムボールは、水に溶けない金属やセラミックのまざった微粒子であり、体内に取り込むと、溶けることなく体内に沈着し、そこで局所的に強烈な放射線(ベータ線)を相当長い期間にわたって出し続けるということです。


このような放射性微粒子が空気中に漂っていたころ、鼻から吸い込めば鼻の粘膜に付着し細胞を壊すことを考えると、鼻血がでることも当然と思われます。

具体的な数値を見ると、長崎大学の高辻教授の計算では、プルトニウムのアルファ線の1本が細胞の核にあたると、24シーベルトに相当するということです。放医研の研究では、プロトニウムのアルファ線が細胞核にあたると、3分の2は細胞死すると仮定されています。

また、ヨウ素は甲状腺に溜まることが知られていますが、セシウムは全身の筋肉に集まりやすいこと、そして、セシウムに限りませんが、被ばくによる免疫低下も懸念されています。

詳しくは、郷地秀夫医師の講演(さよなら原発神戸アクション主催)をご覧ください。

■動画 ここまでわかった内部ひばく~セシウムボールのゆくえ~
https://www.youtube.com/watch?v=uQJ4Ne9UjMA&feature=youtu.be
こちらの動画は2時間に及びますので、要点だけ拙ブログにまとめてみました。
  ↓
■ここまでわかった内部ひばく~セシウムボールのゆくえ~(引用ブログ)
Words for Peace 2019/6
https://flowersandbombs.blogspot.com/2019/06/ 



放射能汚染防止法の制定に向けて

2019年5月13日、超党派議員連盟「原発ゼロの会」が、福島県内外の除染作業で生じた放射性汚染土の処置についての「意見聴取会」を衆議院第一議員会館で開催しました。当日の動画はhttps://www.youtube.com/watch?v=dhT9H9iNqE4で見ることができ、
また当日配られた資料も「原発ゼロの会」のサイト
http://blog.livedoor.jp/gempatsu0/archives/16379213.htmlにリンクされていますので、それらを拝見し、改めて放射能汚染防止法の制定に向けた取り組みが必要であることを感じました。


簡単に「意見聴取会」をまとめると、まず環境省の従来通りの説明から始まり、放射性物質汚染対処特措法(特措法)に基づいて行われた除染作業で生じた福島県内の最大2,200万m3とも言われる「除去土壌=放射性汚染土」を、「中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」が故に、8,000Bq/kg以下の放射性汚染土を、覆土・遮蔽などの飛散防止対策を行った上で公共事業で再利用する方針とし、福島県外(岩手、宮城、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川など)の放射性汚染土に関しては、放射性物質の濃度の上限を定めず、30cmの覆土を行った上で埋め立て処分を可能とする省令案・ガイドライン案を発言。

それに対して、市民団体や環境NGOなどから12件の意見が表明されました。そのほとんどが、この環境省の案に対しての懸念でした(元原子力規制庁の田中俊一氏「放射性物質のリスクばかりを言うが、リスクがないものなどない。汚染土の再利用を拡散だというが、他に現実的な手段があるのか。」の旨の発言は除く)。
国際的放射線防御スタンダードから大幅に逸脱しているこれらの環境省令案への懸念については、当日意見表明されたFoE Japanさんのサイトが詳しいので、そちらをご覧ください。

■「8,000Bq/kg以下の除染土を公共事業で再利用」方針の矛盾と危険性(解説と資料を掲載しました)FoE Japan https://foejapan.wordpress.com/2016/05/02/8000bq_problem-3/

■福島県外の除染土埋立処分で環境省令案~濃度制限なし、地下水汚染防止策なし 
FoE Japan https://foejapan.wordpress.com/2019/03/18/0318/


さて、現在でも原発構内では100Bq/kg以上の放射性物質は低レベル放射性廃棄物として厳重保管にもかかわらず、なぜ福島県内の除染から発生した放射性汚染土は8,000Bq/kg以下ならば安易な再利用が許されたり、はたまた福島県外では放射性物質の濃度の上限を定めず、30cmの覆土を行っただけで埋め立て処分が可能になるのか?

それは、この意見聴取会でも何度も指摘されていた法律、2011年8月に制定された放射性物質汚染対処特措法(特措法)と、2013年に改訂された環境基本法の不備のせいであるようです。

その特措法の問題点を、山本行雄弁護士の「放射能汚染防止法整備運動ガイドブック2016年10月改訂版」を参考に見てみましょう。


汚染対処特措法(「平成 23 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」 2011 年 8 月 30 日成立)
附則 6 条 政府 は、放射性物質により汚染された廃棄物、土壌等に関する規制の在り方その他の放射性物質に関する法制度の在り方について抜本的見直しを含めて検討を行い、その結果に基づき、法制の整備その他の所要の措置を講ずるものとする。


この汚染対処特措法は議員立法により成立したものですが、「法制度の在り方の検討」も「法制の整備その他の措置」も「政府」すなわち行政に丸投げしています。国の唯一の立法機関である国会の審議なしに、行政が検討し法整備をするという代物で、それゆえ環境省が「検討」し、原発構内ではあり得ないレベルの放射性汚染土を公共事業に再利用するという方針を出してくるわけです。

また、国会が立法府としての仕事を果たしていない法改正が、2013年の環境基本法改定です。山本氏によると
「福島第一原発事故後、放射性物質を公害・環境関係法から全面的に適用除外にしてきたことが問題として浮上しました。汚染対処特措法制定の際、法制度の「抜本的な見直し」をすることを決めました(同法附則 5 条)。その後、環境基本法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法などの放射性物質適用除外規定は削除されました。しかし実質的な法整備は殆ど行われていないのが現実です。」(p.122)

「具体的な公害法の改正は、大気汚染防止法と水質汚濁防止法の常時監視と公表制度の改正にとどまり、環境基準も規制基準も定めていません。土壌汚染対策法を始め他の公害・環境法令は未整備のまま放置されています。」(p.130)


「言うまでもなく、国会は、国権の最高機関であり、唯一の立法機関である。(憲法 41 条)。国会が、自ら立法機関としての役割を行政に丸投げしている現状は、違憲状態にあると言わなければならない。国会は、立法機関としての機能を回復しなければならない。我々は、国会が立法機関としての責任を放棄している現状を強く非難し、次の要望をする。

 記
① 環境基本法改正に伴う放射性物質に関する関連法の整備を行政府である政府に丸投げしている現在の方針を改め、国会が自ら行うこと。(中略)
⑤ 放射能汚染に関する公害防止の基本方針として、環境基本法に、放射能汚染物質の取扱・廃棄・処分については、希釈拡散をしてはならず、不拡散・集約管理を原則とする条項を設けること。
⑥ 環境基本法改正に伴い、土壌汚染その他の公害の規制に関する法律の放射性物質適用除外規定を削除すると共に、環境基準、規制基準を整備すること。
⑦ 放射能汚染の公害規制法の整備に当たっては、原子炉等規制法の基準設定如何に係わらず、公害法独自の制度として、人の健康と生活環境を保護法益とし、排出口における総量規制を定め、放射性物質の環境への放出に対し厳しい罰則をもって規制すること。 具体的環境基準、規制基準の設定については、たとえば、セシウム 137 については、環境基準、規制基準ともに「検出されない」とすること。
⑧ 放射性物質の適用除外規定が削除された大気汚染防止法及び水質汚濁防止法に関する環境基準と規制基準(排出基準及び排水基準)については、政令・省令事項である現行法を改め、国会が自ら立法をもって定めること。
⑨ 放射性物質に関する規制基準違反の罰則は、その被害の重大性に対応した重罰の特別規定を設けること。
⑩ 3.11 汚染対処特措法に代えて、環境基本法の特別地域指定に関する特別法として位置づけをした不拡散・集約管理の原則、環境基準や規制基準、事業者の除染義務などを内容とする公害規制法として整備すること。
⑪ 放射能土壌汚染については、既存の土壌汚染対策法、農用地土壌汚染防止法の放射性物質適用除外規定を削除すると共に、放射能土壌汚染に対しては、重い罰則をもって規制すること。漏洩企業の除染義務、賠償義務を定め、賠償については賠償保険の加入など賠償資力の保持を義務づけること。(後略)」(pp.204-205)
(事故由来の放射性物質に関連するもののみ抜粋)


私たち有権者にできることは、まずは上記のような環境基本法の法整備を求め、特措法を「放射能汚染防止法」に変えるよう国会に働きかけることでしょう。そのためには、選挙でこの法整備のために動いてくれる議員を選ぶこと、そして、地方自治体の議会に、法整備の意見書を採択するよう働きかけることです。すでに小樽市議会では採択され、札幌市議会では全会一致で採択されたとのことです。*1

全国の自治体議会から同様の意見書が出されれば、国会の争点にもなるでしょう。日本に住む私たち、そして未来の住人をも被ばくし続ける放射性物質は無造作に扱ってはなりません。必ず国会で審議させ、しっかりとした放射能汚染防止法を制定させなければならないと強く思います。


また、国会を動かすことが難しければ、各自治体が条例という形で、その拡散を止めることもできます。そのためにも、環境省の進める放射性汚染土の再利用や埋め立て政策を皆に知ってもらい、地方自治体議会議員に意見書採択を陳情し、国会議員に働きかけることから始めましょう。

現在の安易な放射性汚染土の処置案は、法整備の不備から生じているものならば、それを止められるのはやはり立法。私たちの力で放射能汚染防止法を制定しましょう。


*1「制定しよう 放射能汚染防止法」山本行雄著 
  ブイツーソリューション2016年刊 p.154

参考サイト
■山本行雄弁護士「放射能汚染防止法整備運動ガイドブック2016年10月改訂版」
https://www.yukio72.com/よりダウンロードできます。
意見書や陳情書の例文も掲載されています。

引用ブログ
■小橋かおるブログWords for Peace
放射能汚染防止法の制定に向けて
http://flowersandbombs.blogspot.com/2019/05/

放射性汚染土はどのように集中管理できるのか・・・
その方法をブログで提案しています。
    ↓
関連ブログ
小橋かおるブログ:Words for Peace
■放射性汚染土・廃棄物を拡散しないために
http://flowersandbombs.blogspot.com/2019/01/


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当日の様子。司会は神戸YWCAの寺沢さん(左)





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