2017/07/16

 

アイスランドで見つけたもの

                            
首都:レイキャビク
北大西洋の小さな島国、アイスランド共和国をご存じですか?人口30万人ほどの氷河と火山の国ですが、2008年のリーマン・ショックによる金融崩壊の危機を乗りこえ、2016年には一人あたりの所得世界7位と経済を立て直した国。また、男女平等ランキング世界1位、平和な国世界1位、幸福度世界3位、そして国内電力需要のほぼすべてを水力と地熱でまかなうという、まるで社会的「おとぎの国」のようなアイスランド。いったいどのような人たちが創り上げたのか?ずっと気になっていた国、アイスランドを3月に訪問し、国会議員、市民政党の支持者、若者、ごく普通の人々と会話を交わし、その答を探してきました。今回の旅を時系列で振り返っておきたいと思います。


 
40年ぶりに見たストライキによる交通機関のマヒ


2017年3月16日、関西空港を出発。ヘルシンキで一泊し、3月17日午後、アイスランドに到着。ヘルシンキでは、フィンランド・エアーのストライキがあり、午後の便が次々とキャンセルされる中、アイスランド・エアーは飛んでくれたので、予定通りアイスランド・ケプラヴィーク国際空港に到着。まず、驚いたのは入国審査がないこと。アイスランドは、シェンゲン条約加盟国なので、ヨーロッパ諸国間の移動は、国内移動の扱いで出入国手続きはないとのこと。実は下調べ不足でそのことを知らなかったので、飛行機を降りて、スーツケースをとって、気がついたら空港の外に出ていて、「あれ???パスポート見せてないよ???」とびっくりしてしまいました。天気は晴れ。気温は5度ほどで、噂に聞いていたとおり、北極圏にありながらも、メキシコ湾流という暖流のおかげで、それほど寒くはないというのは本当でした。


3月18日(土)                       
庶民的なスーパーマーケットで買い物。これだけで3000円超え!

10日間滞在することになっているゲストハウス(レイキャビクのシンボル的建造物、ハットルグリムス教会の近く)のオーナーの青年が、土日は港の近くで「フリー・マーケット」があることを教えてくれたので、坂を下って行ってみました。アイスランドは物価が高く(消費税は24%:食材などは11%)、前日の夜、オーナーが「近くにコンビニがあるけど高いよ」と言ってくれたけど買い物に行ったら、玉子6個と食パン6枚で1000ISK(1ISKアイスランド・クローナ=約1円)もしたのでびっくり。しかし、さすがにフリー・マーケットはお手頃な値段のものが多く、アイスランドでとっても役立ちそうなダウンのコートを3000ISKでゲット。これが軽くて暖かくて、風も雨も遮ってくれる優れもの!ほんとうにこのコートには、アイスランド滞在中はとってもお世話になりました。


3月19日(日)
天気予報によると月曜日からはずっと雨。せっかくの晴れの日曜日なので、しっかり観光しよう!と、ゴールデン・サークル・ツアーに参加。このツアーでは、人気のスポットである、シンクヴェトリル国立公園、グトルフォスの滝、ゲイシールの間欠泉を巡り、地熱によるトマトのハウス栽培所に立ち寄りました。前夜に少し雪が降ったので、溶岩の黒い大地が雪で真っ白になり、遠くには白い氷山と青い空。ほんとうに気持ちの良いツアーでした。私の一番の目的は、シンクヴェトリル国立公園のアルシング。930年に設立されたアルシングという議会は、世界で最も古いとされ、ヨーロッパ大陸では領主制、王政が敷かれていた時代に、アイスランドでは代表民主的な政治が行われていたと知り、「絶対に行ってみたい!」と思っていた場所。そこは北米大陸プレートとユーラシア大陸プレートの裂け目で、背後に絶壁、眼前に川と平地が広がる地。千年もの昔から、人々が島中からこの地に集まって、様々な問題について討議し、解決していったのかと思うと、このアイスランドという国の民主主義の奥深さに少し触れることができた気がしました。

1000年前のアルシングの議場



3月20日(月)                    
海賊党本部でビルギッタさんと

今回のアイスランド訪問の一大イベント、海賊党(Pirate Party)の本部を訪問!2008年の金融崩壊から市民が鍋とフライパンを持って立ち上がり、政治を自分たちの手に取り戻していくドキュメンタリー映画を観て以来、市民たちが2012年に作った政党、海賊党にとても興味を持っていました。2月頃から本部とメールをやりとりし、この日の本部での学習会に参加させてもらうことにしていたのですが、学習会の開始時刻より1時間ぐらい前に到着。「早すぎたかな?」と思いながらも本部のドアを開けると、なんと海賊党の主要メンバーの皆さんがミーティング中でした。ちょうどミーティングが終わりかけのときだったようで、皆さん、笑顔で迎えてくれて、国会議員や党役員の方たちも気軽に話しかけてくれました。

そして、ドキュメンタリーを見てから、ぜひお会いしたいと思っていた海賊党創立者のひとりで、現在国会議員も務めるビルギッタ・ヨンスドッティルさんも登場!とてもフレンドリーな方で、私が、「あなたたちは市民で政党を作って10人も国会議員を誕生させたことはすごい!私たちも2012年に緑の党を日本に作ったけれど、まだ一人の議員も国会に送り込めていない。供託金という選挙制度は、市民が政党を作る障害になっている。」と話すと、「それは民主主義じゃない。その選挙制度についての資料を送ってくれたら、機会があれば言及していきたい。」ともおっしゃいました。初めて会ったとは思えないぐらいに話が合って、波長も合って(?)、国境など簡単に飛び越えての連帯を感じました。

「子どもがお腹空かせてるから」と言ってビルギッタさんたちが本部を後にしてから数十分後、夜7時頃から学習会が始まりました。この日の議題は「若者と住宅問題」。仕事帰りなどの海賊党のメンバーが30人ほど集まり、4人のパネラーの問題提起のスピーチの後、フロアーのメンバーとの討議が続き、終わったのは10時前でした。このような学習会を毎晩のように行い、また土日にはミーティングを開き、党の政策を磨き、選挙作戦を練っているとのこと。現在は新自由主義的な政権となっているますが、「市民のための公平な政策を実現するためには、まずは選挙で勝たなければ」との思いを、メンバーたちが語っていて、本来の選挙の意味というか、民主主義の姿を垣間見た気がしました。

  
現在のアルシング:アイスランド国会議事堂
3月21日(火)
1000年前のアルシングは、大陸プレートの裂け目にありましたが、現在のアルシングは首都レイキャビクの中心地にあります。商業地区の池のほとりに立つアイスランドの国会議事堂・アルシング。2009年1月には、市民がこのアルシングを取り囲み、国民投票を求めていました。その訴えは、「一部の銀行家たちが作った何千億ISKもの負債を、なぜ国民が肩代わりしなければならないのか?銀行など潰してしまえばいい。」2008年のリーマン・ショックでは、多くの銀行が巨額の損失を出し、銀行がつぶれないように政府が税金で救済するという事態がアメリカを始めほとんどすべての関係各国で進みましたが、アイスランドの国民は、そのような政策にNO!を突きつけ、借金の肩代わりを拒否し、多くの国で借金返済のために犠牲にされた、社会福祉を守りました。そのことを記念するかのような石のオブジェがアルシングの前の広場に置かれていて、そこにはこんな言葉が記されています。
アルシング前の石のオブジェ

「政府が人々の権利を侵害する時、         
反乱は、市民にとって、
最も神聖な権利であって、                    
また最も不可欠な義務である。」
人間と市民の権利の宣言(1793年)

国会が開会中だったので、中に入って傍聴しました。国会議員63名のこぢんまりとした国会議事堂ですが、とても清潔で明るい空間で、昨夜お会いした海賊党の国会議員さんたちやビルギッタさんも真剣に討議をされていました。日本の国会とは違い、皆さんとても静かに発表者の話を聞かれていて、またスピーチの持ち時間が少なくなってくると議長が議長席に置かれた鐘をチーンと鳴らすのが、とても印象的でした。まずは静かに意見を聞く。話し合いの基本、すなわち民主主義の基本はこれかもと思いました。



アイスランド大学のカフェテリアの建物

3月22日(水)
レイキャビクの中心街より歩いて20分ほどのところにあるアイスランド大学へ。お昼休みのカフェテリアに行って、学生さんたちと話をしました。ゆっくりお話しできたのはニーナさんという金融学専攻の女子学生。高校生の時に、高校生の世界会議のようなものに参加するために金沢に行ったことがあるとのこと。今回アイスランドに行って驚いたことの中に、若者の多くが日本に行ったことがあるということ。月曜日の海賊党の学習会でも若者がふたりいましたが、ふたりとも日本に留学していたと言っていましたし、こちらからなんとなく声をかけただけのニーナさんも金沢に行ったことがあると言うので、ほんとうに驚きました。ニーナさんに確認したのは、ほんとうにアイスランドでは大学も無料なのかということ。一応授業料は無料ということですが、国立のアイスランド大学では年間登録料が75000ISKほど必要。私立のレイキャビク大学では30万ISKほど必要かもしれないとのこと。日本の国立大学は、現在53万円ほどなので、それと比べるとかなり学費は低く抑えられています。また、大学相当教育への進学率は80%台。そのせいかどうなのかはわかりませんが、若者も高齢な方も、どなたに声をかけても皆さん英語がお上手で、ほんとうに助かりました。


3月23日(木)
ゲストハウスの部屋に設置されていた温水ヒーター
この日は朝から雨。アイスランド人にとって雨の日を過ごし場所として一番の人気スポットの温泉プールに行くことに。レイキャビクには何件もの温泉プールがありますが、それは郊外にある地熱発電所から豊かな水量の温水がレイキャビクの街に運ばれてくるため。温泉プールだけではなく、この温水を運ぶパイプは街中に張り巡らされていて、家々の暖房にも使われています。この暖房がシンプルな作りながら、いつも屋内をとても心地よい暖かさに保ってくれる優れものなのです。          

さて、イギリスでは地元の人と仲良くなるにはパブ、アイスランドでは温泉プール!と、ゴールデンサークル・ツアーのガイドさんに教えてもらった市民の憩いの場、ちょっとワクワクしながら、近くのsundhollin温泉プールにいってみました。するとなんと、その日はこちらのプールの80周年という記念すべき日で、入場無料!(通常は950ISK) また、プールで少し泳いで出てきたら、大きなバースデーケーキのケーキカットのタイミングだったので、しっかり頂きました(*^_^*) 

ケーキをほおばりながら、たまたま隣に座ってらした70才ぐらいの男性にお声がけしたら、私の素朴な質問に親切に答えてくださって、やっぱり地元の人と仲良くなるにはプールだなと実感。アイスランドでは、冬の時期に子どもは公園で遊べないので、プールで遊ぶこと、学校の体育の授業も頻繁にプールで行われること、そして、もともと漁業で成り立つこの国では、水泳はとても重要視されていることなど教えてくれました。その男性も、定年した後は毎日のようにこのプールに通っていると言って、ケーキを食べ終え、泳ぎに行かれました。そして、入り口からは子どもたちの集団が!スクールバスに乗って、体育の授業でプールにやってきた小学生たちでした。ケーキを食べて、しっかり泳いでね!

温泉プールに掲示してあった
アイスランド国民にとっての水泳の重要性を感じさせてくれる資料



3月24日(金)
この日はひどい雨。午前中はアイスランド国立博物館へ。1000年前の定住が始まったころから、現在までのアイスランドの歴史がよくわかる展示となっていました。この展示を見て思ったことは、アイスランドという氷河と火山の島で、人々はほんとうに懸命に生きてきたのだなぁということ。男性は寡黙な人が多い印象ですが、歴史的に漁業で生計を立ててきたこの国の男性は、北海の荒海を相手にほんとうに過酷な漁に出て家族を養い、後を任された女性たちは、元気にたくましく働いてきた・・・だから、とても朗らかで働き者の女性が多いのかなと思いました。
                         
アイスランド「サガ」の英語劇
夜は、アイスランドの古事記のような「サガ」という物語の英語劇を観に行きました。うたい文句は、「30巻にもおよぶサガを75分の劇にまとめた」で、男女お二人の役者さんが演じるコメディ仕立ての劇でした。エネルギーとユーモアあふれる「サガ」の演技で、「サガ」の神髄は、「殺人、復讐、殺人、復讐、最後はアルシングで和解!」ということがよく分かりました。こうして活字で書くと生々しいですが、殺し合いの果てには、やっぱりアルシングで話し合って和解するというところが、アイスランドなのですね。



海賊党本部のキッズルーム

3月25日(土)
再び、海賊党本部へ。この日は、選挙の候補者選定の基準などを協議するメンバー同士のミーティング。すべてアイスランド語でやりとりされ、またこの日は通訳をしてくれるスタッフもいらっしゃらなかったので、内容はまったくわからないものの30分ほどミーティングに参加させてもらいました。やはりここでも発言が長くなると議長が鐘をチーンとならし、交通整理。基本的に、皆さんよく他の人の意見を聞き、その後自分の意見を言うという姿勢で、議論が途切れることはなく、議題が進んでいっているようでした。

休日ということで、この日はふたりの小学生ぐらいの女の子たちが父親に連れられて本部に来ていました。海賊党の本部には、きちんとキッズルームが用意されていて、ガラス張りの部屋の中で子どもたちは遊んでいました。親も子どももお互いの様子がわかって、なおかつ音は漏れないようになっているので、子連れでも安心してミーティングなどに参加できるのです。

アイスランドは男女平等を示すジェンダー平等指数世界第1位ですが、やはりこういう設備や社会整備が行き届いているのだなぁと思います。ちなみにアイスランドではほとんどの夫婦が共働きで、子どもたちは1才から保育園に入るそうです。「保育所が足りないとか問題はないですか?」と聞いたら、「たまに近くに入れないとかあるかもしれないけれど、ほとんど問題としてはあがってこない」と女の子たちのパパが答えてくれました。

ところで、どうしてアイスランドで男女平等がこれほど進んでいるのか?そこにはやはり、自分たちの権利は自分たちで獲得するというアイスランド魂の神髄があるような気がします。1975年10月24日に女性のデイ・オフという、アイスランドの女性たちが一致団結して、仕事も家事も育児も放棄するという一大ストライキがあり、その後も女性たちは、男女の格差解消を求めて何回か10月24日にストライキを決行しています。昨年の10月24日には4回目のデイ・オフがありました。そのときの写真がたくさん掲載されているサイトをご紹介します。とても華やかで力強い女性たちが素敵ですよ。
Gender Wage Gap Protest - Photos


3月26日(日)
アイスランド最終日。久しぶりによく晴れた日曜日。レイキャビクのランドマーク的存在のハトルグリムス教会のミサに参列しました。ルター派の教会ですが、驚いたのは牧師さんが男女ペアで入場してきたこと。やはりこれもジェンダー平等指数世界1位のアイスランドならではでしょうか?お説教をされたのは女性の方で、男性は壁際に座っていらっしゃいました。お説教もアイスランド語なので、何の話かさっぱりわかりませんでしたが、アメリカ・コロラド州から来た高校生の聖歌隊による歌もあり、アイスランドの地元の人たちと日曜日を過ごせて、素晴らしい最終日となりました。

教会からの帰り道、猫たちが現れて、一緒に遊んでくれました。私は猫が大好きなので、警戒心を持たずに人と遊んでくれる猫がいる街は、それだけで大好きになってしまいますが、レイキャビクは、私にとってほんとうに特別な街となりました。

レイキャビクの街のランドマーク
ハトルグリムス教会


今回は首都レイキャビクだけの滞在でしたが、アイスランドの国民性を育んだアイスランドという島全体を、いつかまた自分の足で巡ってみたいと思います。



お薦めの動画
■アイスランド無血の市民革命 通称:鍋とフライパン革命
https://www.youtube.com/watch?v=BZxR1VbTVkg


アイスランド報告会のお知らせ             

☆アイスランドの旅でみつけたもの
日時:2017年8月27日(日) 14:00~16:30  開場 13:30
場所:こうべまちづくり会館ホール
http://www.kobe-machisen.jp/access/
講師:小橋かおるさん(大学英語講師)
講演:アイスランド-小さな国の底力
参加費:500円(原発事故避難者・学生 200円)
高校生以下の子ども無料
お子さま連れのご参加歓迎(会場内にキッズスペース有)
主催:政治を市民の手にとりもどす会ひょうご(略称 市民の手)
問合せ先 高橋秀典 saltshop@kobe.zaq.jp



☆民主主義ってコレかも?
アイスランド&ヨーロッパの旅でみつけたもの
お話:小橋かおる
日時:2017年7月20日(木) 10:00~11:30  開場 9:30
場所:神戸市勤労会館 406号
参加費:500円(原発事故避難者・学生・障がい者 200円)
子ども無料 お子さん連れのご参加歓迎♪(会場内にキッズスペース有)
緑の党会員・サポーターでない方もご自由にご参加いただけます。
主催:緑の党ひょうご(緑の党兵庫県本部)
お問合せ・連絡先:hyogo.greens@gmail.com
フェイスブック・イベントページhttps://www.facebook.com/events/1912292002323247/
詳細:http://whatsnew-on-flowersandbombs.blogspot.jp/2017/06/720.html


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