2017/08/09

 

『日本人のための平和論』を読んで






人間は戦ってでも獲得する価値がある何かがあるときに戦おうとする。その「何か」を取り除くことができれば、多くの争いや戦いは自然消滅するだろう。
(p.64。以下ページ数はすべて『日本人のための平和論』)









8月15日は戦後72年となる終戦記念日。この72年間、日本はなんとか戦争という事態に国土をさらすことなく、また自衛隊が他国の人を武力によって殺すということもなくやってきましたが、近年「変化する国際状況に対応する」というかけ声のもと、2015年には安保関連法が可決され、自衛隊の海外任務にも「駆け付け警護」が付与され、米軍と自衛隊の軍事演習も頻繁に行われるようになりました。

それら日本の安全保障関連の法体系の変化と、北朝鮮の大陸間弾道ミサイルの開発による米朝間の緊張の高まりや、中国との尖閣諸島の帰属問題などによって、私たちの意識が武力による対処へと流されているような気がします。

しかし、武力による問題解決など、ほんとうにあるのでしょうか?米国は世界でも断トツの軍事力を持っていますが、2001年10月のアフガニスタン空爆から16年間、どれだけ空爆を繰り返し、兵士を展開させても、問題を解決するどころか、世界の混沌を深めるだけです(おそらく軍需産業は儲かってしかたがないでしょうが)。

その混沌に日本も巻き込まれつつあるように私には思えますが、今ならまだ間に合うとの思いから、平和学の父とよばれるヨハン・ガルトゥング氏の『日本人のための平和論』を読みました。たいへん示唆に富む、「もうひとつの」というよりも、もしかしたら「唯一の」問題解決法が提言されていましたので、いくつかご紹介しながら、私が考えたことを記したいと思います。


最初に紹介した引用文、「人間は戦ってでも獲得する価値がある何かがあるときに戦おうとする。その「何か」を取り除くことができれば、多くの争いや戦いは自然消滅するだろう。」のとおり、戦争を引き起しかねない「何か」を取り除くことがとても大切です。


中国との懸案の尖閣諸島ですが、これを解決するには「一方に帰属せねばならない」という概念を取り除けばいいのです。そして、「共同所有」とすればいいとガルトゥング氏は言います。

領土問題の非軍事的解決策のひとつ、領土の共同所有とは、領有権争いのある地域を共同で管理し、そこからから得られる利益を配分するという方法である。ガルトゥングは、尖閣諸島(釣魚島)については2つのチャイナ(中国と台湾)に40%、日本に40%、環境保全や管理等に20%を配分することを提案している。竹島(独島)についても同様で、日本に40%、2つのコリア(北朝鮮と韓国)に40%、環境保全等に20%を配分することを提案している。北方四島については日本に30%、ロシアに30%、環境保全等に20%、残る20%はアイヌの人々に配分することを提案している。


尖閣諸島のような小さな島をめぐって、どうして軍事衝突などする必要があるでしょう?そのような「衝突」に備えるために、社会福祉や教育予算を削減して、防衛費にあてるなど、軍需産業が喜ぶだけです。



また、ガルトゥング氏は、朝鮮半島の緊張緩和についても「二つの国家の統一」という国家からのアプローチではなく、「国境の開放」から生まれうる民族の交流から始めることを提案しています。

国境を開けば領土の重要性は低下する。国境を開くことによって、世界は主権国家システムから地域共同体によるシステムへと進路を変えることができる。だから私の思いは、いつも地域共同体によって構成される世界のイメージへと舞い戻る。それが紛争を終わらせ、協調と調和を獲得する方法だと考えるからである。(p.70)


確かに、EU統合により国境が開放されたことにより、ヨーロッパのバスク、カタルーニャの独立闘争は落ち着きましたし、逆にイギリスがEU離脱を決定したことによりEUとの国境を閉ざすかもしれないということで、ジブラルタルというイベリア半島にあるイギリス領が、スペインとの帰属を巡って、今後大きな問題となりかねない状況を見ると、国境の開放がどれほどの影響力があるかがわかります。


韓国と北朝鮮が、二つの体制を維持しながらも、国境を開き、民族が自由に行き来できる環境が整えば、民族という共同体が形成され、長い時間をかけて連邦、さらには統一国家となることも可能性はないとは言えないでしょう。

「それでは、北朝鮮の核ミサイルやキム体制を容認するのか?」と思われるかもしれませんが、現在の体制を容認してもらうことが北朝鮮が核ミサイルなどを開発する理由と思われますので、米朝間の交渉で現体制が容認されれば、核ミサイルは不要となるでしょうし、また、残念ながら世界にはひどい独裁国家は他にも存在します。日本も米国も、利益となるならばそのような国々とも国交を持っています。現に、ヨーロッパなど北朝鮮と国交を持つ国がほとんどです。朝鮮半島を再び戦火が襲うよりは、国を取り巻く環境を変え、緊張を緩和していくのほうが、ずっと大切ではないでしょうか?


ここまで読まれて、「そんな簡単に物事はすすまないよ」と思われる方も多いでしょう。そうなのです。そんなに簡単には進まないのです。簡単に進んでしまうと、日本人にとって在日米軍が不要になってしまいますから。ガルトゥング氏は、日本への提言として最後に「対米従属からの決別」を挙げています。


日本は1945年8月15日以来、いまも米国に占領され続けている。占領は日本の奥深くまで浸透し、植民地レベルに達している。この状態から脱しない限り、日本は独自の方法で東アジアの平和に貢献することはできない。(p.116)



ガルトゥング氏は、日米安保条約の即時撤廃は容易ではないとして、日米安保の有名無実化に向けた取り組みを提案されています。すなわち東北アジア共同体形成に取り組みつつ、米軍基地を撤退させ(その前に、日米地位協定の改定を要求するなどして米軍の居心地を悪くしていく必要もあるかと私は思いますが)、そして真の独立国になるために専守防衛と食糧自給率の引き上げも提言されています。


終戦から72年。冷戦も終わり、アメリカが唯一の超大国である時代も終わりました。地球は多くの人口を抱え、また自然環境も悪化しています。このような危機を乗りこえるために、私たちは本気で自分たちの国の行く末を考えなければならないと思います。その上で、戦争は避けられるものだと認識し、人も環境も傷つけることのない解決方法の実現に意識を向けていくことが大切だと思います。





*部の引用サイト
■尖閣・沖縄・米軍基地問題に解決策はあるのか?
キーワードで読み解くガルトゥング平和論<2>
領土問題・沖縄・安全保障編
http://diamond.jp/articles/-/134483
上記リンクにて、専守防衛や米軍基地について詳しく提言されていますので、
ぜひご覧ください。

その他のガルトゥング氏の提案についても以下のサイトでご覧いただけます。
■「日本人のための平和論」記事一覧
http://diamond.jp/category/s-peoplespeace


= 関連サイト =
北朝鮮との対話による緊張緩和について、現状認識などとても詳しく解説されているインタビュー動画です。
■北朝鮮問題に落としどころはあるのか
ゲスト武貞秀士氏(拓殖大学特任教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第852回(2017年8月5日)
http://www.videonews.com/marugeki-talk/852/

日本が「植民地レベル」にまでアメリカに占領されているのはなぜかについて。
■日本が「基地」も「原発」もやめられないのは「朝鮮戦争」に起源があった!? 
岩上安身による『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』著者・矢部宏治氏インタビュー 2017.8.2
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/394226

国境を閉じることのもたらす危機について。
■英領ジブラルタルが示すEU離脱の危険(社説)
日経新聞2017年4月4日付 英フィナンシャル・タイムズ紙
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM04H3Y_U7A400C1000000/

日本の防衛費について。
■防衛費、過去最大の5.1兆円へ 29年度予算案、中国・北朝鮮対応
産経新聞 2016/12/1
http://www.sankei.com/politics/news/161201/plt1612010039-n1.html


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