2018/08/15

 

彼らに心地よい物語

8月15日は「終戦の日」ということになっています。1945年の8月15日から73年となる今日、原爆と戦争の終結について考えてみたいと思います。

いわゆる太平洋戦争の終結は、「広島、長崎への2発の原爆がもたらした」との見方が日米双方によって語られてきた感がありますが、どうなのでしょう?
あの8月を迎える以前に、日本全国の大空襲で首都東京はもちろんのこと、200以上の地方都市が壊滅・・・このような状態の国に、原爆など必要だったのか?との声も近年挙がっていますが、「原爆が戦争終結を早めた」との考えは、まだまだ支配的でしょう。
それはなぜなのか?アメリカの核問題研究者のウォード・ウィルソン氏の説明を、田井中雅人著『核に縛られる日本』より引用します。*1


「原爆は日米双方に心地よい物語だった。考えとは、それが事実であれば持続する。また、残念ながら、それが真実でなくても、心地よいものであれば持続する。」

 ウィルソン氏は、当時の天皇周辺の立場に立って考えている。国を悲惨な戦争に導き、経済は破綻。都市の8割は米軍の戦略爆撃で焼かれた。日本軍は非難され、次々と敗北を喫した。食糧不足に陥りつつある。戦争は大惨事であり、さらに悪いことには、事態がどれほど悪いかについて国民に嘘をついてきた。降伏の知らせに国民はショックを受けるだろう。大失敗を認めるのか。それとも、誰もが予測しなかった敵の素晴らしい科学的成果による損害を非難するのか。敗戦を原爆のせいにして、すべての失敗や判断の誤りを隠してしまえば、責任の負担や軍人への追求も不要だ。(pp.106-107)


米国においては、8月9日のソ連の参戦ではなく2発の原爆が戦争を終わらせたことにしてこそ、国民にも秘密の内に20億ドルを費やしたマンハッタン計画が無駄ではなかったと主張できる、という日米双方にとっての心地よい物語。

また、同書の中で、政治学者の白井聡著『永続敗戦論』の次のような言葉が引用されています。

「核攻撃は、戦況の加速度的悪化を背景に押しとどめがたい革新の動きが天皇制国家の支配層を包囲しつつあることが明白になってくるなかで、国体が逆転勝利を収めうる契機としてとらえられたのである。その意味で、日米の共犯関係を基礎とする戦後の国体は、広島・長崎においてすでに起動していた。」(同書:p.108)


日米支配層にとって、原爆戦争終結神話はお互いの保身のために役立った。それは特に、国土を焦土と化したという惨状の責任を負わされるはずだった軍部、そして革新勢力を恐れていた天皇、財界にとって、奇跡的好都合だったのかもしれません。


本来なら国民に非難され、失敗の責任をとるはずの支配者たちが、戦後アメリカの庇護のもと、相変わらず日本を支配していることは、今も残る天皇制のみならず、戦争責任者たちの孫やひ孫が権力を握る政界、戦前と変わらぬ財閥が軍需産業を握り支配する財界を見れば明らかでしょう。


日本中を焼夷弾で焼き尽くし、実験としか思えない核爆弾投下により一瞬にして何十万人という国民を殺した米国と、保身のためにあっさりと手を組んで、今も日本を支配する権力者たち。彼らが忠誠を誓うのは、日本国民か米国か?


彼らにとっての「心地よい物語」を私たちが受け入れている限り、私たちは焼夷弾で逃げまどい、核の熱線によって焼かれた人々と同じ立場にいるのではないでしょうか?
それは「日米安保」という神話のもとアメリカの戦争に巻き込まれることかもしれないし、「原子力は安全です」という神話によって、「これぐらいの被ばくは大丈夫です」と放射線が飛び交う国土に住まわされることかもしれません。*2


焼夷弾で焼かれること、放射線をばらまかれて被ばくすること・・・そして、誰も責任はとらない・・・。今と戦中とどんな違いがあるのでしょう?


「物語に長けたものが世界を制する」とホピ族の格言にあります。
私たちは「彼らの物語」ではなく、キノコ雲の下の、焼夷弾の火の海の、そして放射線に晒される私たちひとりひとりの物語を根気強く紡いでいかなくてはならないと思います。
「彼らにとって心地よい物語」に殺されないために。



*1 『核に縛られる日本』田井中雅人著 角川新書 2017年刊

*2 当ブログ:Words for Peace 8月5日思うこと
http://flowersandbombs.blogspot.com/2018/08/



追記:
先日、東京大空襲に関する記者座談会の記事を読みました。そこでは、あの大空襲で焼かれなかった所が考察されていました。
あの大空襲で下町が焼かれて一晩にして10万人が殺されたことは知っていましたが、どこが焼かれなかったか?とは考えたことがなかったと思い、ちょっと調べてみました。記事に書いてあったとおり、皇居や丸の内は焼かれておらず、東京の地理はあまり詳しくないのですが、旧日本軍の施設のあたりも焼かれなかったようです。

「ハーグ陸戦条約・第25条:防守されていない都市、集落、住宅または建物は、いかなる手段によってもこれを攻撃または砲撃することはできない。」は、軍事施設以外の住宅などへの攻撃は禁止していますが、下町は焼いて、軍の施設はターゲットから外していたとなると・・・その裏にどんな思惑が米軍にあったのか?

その理由を下記の座談会は探っていますが、私はまだそれが当たっているのかどうなのかは判断しかねています。
  ↓
■記者座談会 語れなかった東京大空襲の真実-首都圏制圧のための大虐殺 130回で25万人殺傷
長周新聞2015年10月2日
https://www.chosyu-journal.jp/heiwa/1134

実際どこが焼かれなかったのかは、こちらの資料が参考になると思います。
 ↓
「戦争証言アーカイブス」古地図で見る東京大空襲
https://www.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/special/tokyodaikushu/

夏の庭



2018/08/05

 

8月5日に思うこと

明日、8月6日は広島原爆の日。73年前の1945年、人類史上初めて核爆弾が戦争で使用され、人々が暮らす街が焼き尽くされ、放射能で汚染された日です。今、私は73年前の8月5日を生きている気がしています。その理由は・・・。

原爆と日本人
原爆投下より1年前の1944年9月。
「原子爆弾が完成したら日本人に使用する」と、米国大統領のルーズベルトと、英国首相のチャーチルが極秘に会談し、合意文書を交わしていたことを、田井中雅人朝日新聞記者の著書『核に縛られる日本』で知りました。*1

この当時は、まだナチス・ドイツ軍と連合国軍の戦いは続いていましたが、「原爆投下は日本」と決められていたことになります。1945年の8月5日を生きていた当時の日本人は何も知る術もなく、新兵器の実験対象にされていたのです。

敗戦国となった日本を占領した連合国の中心である米軍は、実験検証を続けます。
広島原爆投下直後からヒバクシャの治療に当たってこられた肥田舜太郎医師が講演会でこのようなことをおっしゃっていました。

「戦後、マッカーサーが日本にやってきて、いろいろと日本人に『してはならないことを』ずらずらと発表した。彼らは賢いからそんなことを書面になんて残さない、口頭で発表するだけです。その中で私が一番許せないのは『原爆によってもたらされたものはすべて米軍の機密であるから、一切公表してはならない。医師は治療をしても良いが、それを他の医師と話し合ったり、論文に発表したり、研究してはならない』というものです。あの頃からしっかり研究ができていれば・・・と悔やまれてなりません。」*2

米原爆傷害調査委員会(ABCC)が治療を原則行わず、研究対象として被爆者を扱ったことはすでに知られていますが*3、極東という他の連合国の目が行き届かない日本を占領下におき、原子爆弾という新兵器の威力やその放射能の影響に関する研究を続ける・・・・米軍にとっては理想的な環境だったことでしょう。


原発事故と日本人
さて、敗戦から73年。日本は今でも米国にとって、または米国が(を?)主導する原子力産業にとって、理想的な国なのではないかと思います。福島第一原発事故という人類史上最悪とも言える原発事故が起き、広範な国土が放射能汚染されたにもかかわらず、何事もなかったかのように空間線量で年間20ミリシーベルト以下の被ばくならば「問題ない」と人々を住まわせ、8000ベクレル/kg以下の放射性汚染土や廃棄物も「問題ない」と公共事業や牧草にすき込む形で再利用して、全国にばらまくという政策をとる国。放射性廃棄物の最終処理を厳重保管ではなく「ばらまき」という形で処理できる国です。*4

ご存じのとおり、一般人の被ばく限度は年間1ミリシーベルトであり、また原発敷地内では、100ベクレル/kg以上の廃棄物は、低レベル放射性廃棄物として厳重管理されています。現在、進められている環境省の除去土壌再生利用実証事業は、放射性物質は拡散せず厳重保管という原則から大きく逸脱し、環境汚染以外の何ものでもありません。


核のゴミと日本人
どうしてこのようなことが、国民に広く知らされないままに進んでいくのか?私は今、1945年8月5日の日本人と同じ境遇にいるような気がしてなりません。
もしかして、この国は、核のゴミ捨て場として決められているのではないか?今後世界中の原発が廃炉を迎える中、8000ベクレル/kg以下に希釈してしまえば、一般ゴミとして捨てられる日本。既に、仏ヴェオリアのアントワーヌ・フレロ最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞記者に、放射線量が低いごみの処理事業を日本で始める計画を明らかにしています。*5


原発事故で汚染されてしまった極東の島国を、世界の核のゴミ捨て場にしてしまおう。。。現在のルーズベルトとチャーチルが極秘に合意していても不思議ではない気がします。
基本的人権を尊ぶ憲法を蹂躙する政権を許し、国会が侮辱され、司法も官僚も人事で操作され、ジャーナリズムが危機に瀕しているこの国は、安易なナショナリズムを煽って、「日本を守る」と為政者に言わせておけば、核のゴミ場にでもなんにでもできると、彼らは思っているのかもしれません。


2018年8月5日。これが杞憂に終わることを願っています。



*注一覧

*1 『核に縛られる日本』田井中雅人著 角川新書 2017年刊

*2 肥田舜太郎医師のお話
ブログ:Words for Peace 2011年8月29日
http://flowersandbombs.blogspot.com/2011/08/

*3 被爆者に謝罪へ ABCC時代、治療せず研究
毎日新聞2017年6月17日
https://mainichi.jp/articles/20170617/k00/00e/040/305000c

*4
■南三陸町「汚染牧草」8月下旬すき込み開始〈宮城〉
仙台放送2018/07/30(月)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180730-00010001-oxv-l04
「すき込み試験を行うのは町内に保管された汚染牧草のうち、1キロあたり400ベクレル以下の放射性物質を含む牧草約2トンです」
このような実証実験が行われている根拠が環境省の政策にあります。
      ↓
「中間貯蔵開始後30年以内の県外での最終処分に向けて、
再生資材化した除去土壌の安全な利用を段階的に進めるため・・・」
・「除去土壌再生利用実証事業について・資料3」より抜粋
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_180329_03.pdf

また、8000/kg以下の放射性廃棄物を一般ゴミとして処分する方針をしめす環境省のサイト「よくある質問」もリンクします。
http://shiteihaiki.env.go.jp/faq/


*5 仏ヴェオリア、日本で低レベル放射性廃棄物処理
日経新聞 2016/4/16
https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM15H7E_V10C16A4MM8000/



追記:暗澹たる未来を想像させる記事になってしまいましたが、この未来を変えることができるのは、日本に住む私たちです。諦めず、これ以上放射能で国土を汚染されない政策を求めて、行動していきましょう。


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