2015/02/01

 

悲劇を繰り返さないために・・・後藤健二さんを悼んで


今朝、2月1日、ジャーナリストの後藤健二さんがISILに殺害されとの報が届きました。私は一度しか直接お会いしたことはありませんが、彼のような誠実で思いやりのある方が、このような非業の最期を迎えられるとは、この世の不条理を思い知らされます。

しかし、このような悲劇が、実は世界中で毎日何百、何千という人たちの身の上にも降りかかっているということも、また事実です。

後藤健二さんが命をかけて伝えてきた、戦争、内戦、紛争に命を落とした人々、暮らしを潰された人々、瓦礫の街の子どもたち。「先進国」と呼ばれる地域にいる人々が、なぜそのようなことが起きているのか、思いをはせることは、残念ながらあまりありません。

今回、後藤さんと湯川さんが拘束されたことによって、一瞬日本の人々の目は、ヨルダンやISILの支配地域に向きましたが、それでも、その地域で長年戦争に苦しみ、難民になった人たちは、なかなか目に入ってきません。


2001年、アメリカ中枢が攻撃された「同時多発テロ」が起きた時、アメリカ人は「なぜ自分たちが攻撃されたのだ?」と驚愕していました。

アメリカが行っていた(そして今も行っている)、石油を筆頭とする様々な利権のための政権転覆、独裁政権の支援、軍事介入など、多くの考え得る理由はまったく言及されず、当時のブッシュ米大統領は、アメリカ国民には「彼らテロリストは自由を憎んでいる」と説明し、世界には「テロリストにつくか、アメリカにつくか」という二者選択を迫り、本来ならば世界の警察力で対処するべき犯罪者の捜索と処罰を、軍事力で行ったのです。


米軍および有志連合軍は「アルカイダが潜伏している」として、最貧国アフガニスタンを空爆し、2003年にはありもしない「大量破壊兵器を持っている」としてイラクを攻撃し、アメリカおよび協力国はイラクの油田利権を獲得し、イラクを混乱の中に置き去りにしました。2003年から今までの12年間で、どれだけの街が、暮らしが壊され、何の罪もない人が命を落としてきたでしょう。


そして、2015年の今、アメリカおよび有志国は「ISILを壊滅する」として、ISIL支配地域のイラクとシリア領内で空爆を続けています。ここでも、また同じ悲劇が繰り返されていることでしょう。



この日本人人質殺害事件で、多くの日本人も「なぜ日本がテロの対象になるのか?」と驚愕していることでしょう。14年前のアメリカ人のように。。。

国民は、自分の政府が外国で何をしているのか、よく知る必要があると思います。正直なところ、日本の人々が中東を気にかけるのは、石油の価格が気になる時だけでしょう。国会議員や政府の高官たちも、ほとんど意識は大きく変わらないかもしれません。誤解を恐れずに言いますが、「外交はアメリカまかせ」という風潮が占領時代からずっと続いているように思えます。


アメリカの言うようにやってきて、日本はいったい何をしたのか。たくさんの人道支援もしました。しかし、イラク戦争では莫大な戦費をまかない、また自衛隊を派遣して、航空自衛隊は米兵や軍事装備を空輸し、いわゆる「後方支援」という軍事活動*を行っていました。私たち日本人にはあまり知られていなくても、イラクの人々はよく知っています。イラクの人たちは日本の自衛隊の動きを日本人以上によく知っています。


今も混乱が続くイラク。そして4年にも及ぼうとするシリアの内戦。さらには繰り返されるガザへの攻撃と終わりのない封鎖。その悲劇を知ろうとせず、ただ石油の安定供給とアメリカとの同盟だけを気にして、日本が関わってきた中東地域。



そこからもたらされた後藤健二さんという、中東の悲劇を伝えようと尽力されてきたジャーナリストの殺害事件。彼の死を、決してさらなる悲劇の幕開けにしてはならないと思います。後藤さんが望んでいたのは、紛争が続く地域の人々への私たちの関心、そして思いやりだったはずです。


決して、14年前のアメリカのように、単純に正邪を分けてはならないのです。「テロに屈しない」「テロとの戦い」などという、力まかせのやり方は、次から次へと、人々を不幸にし、絶望させ、「テロリスト」を生み出すだけでしょう。


ほんとうに私たちがしなければならないのは、「テロ」を生み出す環境をなくすこと。ここまで混乱した世界で、それは大変な道のりでしょう。しかし、ISILの支配地域に住んでいる人たちも、家族で平和に暮らしていくことを望んでいる普通の人たちです。そのことを忘れずに、中東地域の平和のために関わっていく。

それが、後藤健二さんの望みであろうし、
私が切に願うことです。


2001年からの14年におよぶ悲劇を繰り返さないために。


「七色の虹も二色が単純に正邪をわけるメガネかければ」

                       『花と爆弾-もう、戦争の暴力はやめようよ』
                             小橋かおる著 北羊館 2004年刊 より


後藤健二さんには見えていたはずの七色の虹。
私も色眼鏡をかけることなく、事実を見つめ続けたい・・・。




*自衛隊イラク派兵が憲法違反であることの確認などを求めた訴訟
愛知県弁護士会会長声明 http://www.aiben.jp/page/frombars/topics2/329iken.html


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