2024/02/08

 

PFAS:時代遅れの食品健康影響の指標値案を改善するためにパブコメを送りましょう!

 


有機フッ素化合物(PFAS)に係る食品健康影響評価に係る審議結果が公表され、2月7日から意見募集(パブコメ)が始まりました(締め切りは3月7日)。オンライン、FAX、郵送などで誰でも意見が送れます。



審議結果は、

「食品健康影響の指標値は、TDI として PFOS は 20 ng/kg 体重/日(2×10-5 mg/kg 体重/日)、PFOA は 20 ng/kg 体重/日(2×10-5 mg/kg 体重/日)と設定することが妥当と判断した。PFHxS については、評価を行う十分な知見は得られていないことから、現時点では指標値の算出は困難であると判断した。」(pp.7-8)

用語説明:TDI=耐容一日摂取量(以下、許容量)PFOS,PFOA、PFHxSはPFASの一種 ng(ナノグラム=10億分の1グラム)


という、2023年に国際がん研究機関によってPFOAが発がん性が「ある」の最高レベルに引き上げられたことを無視し、米国環境保護庁(EPA)の2023年の草案を無視して、EPA2016年の見解を採用しました。すなわち、PFAS規制の強化に向かう世界に逆行する時代遅れの指標値です。


その一例として、有機フッ素化合物(PFAS)に係る食品健康影響評価に係る審議結果のpp.224~226 の 海外評価機関による許容量の指標値の表を最後に転載しますのでご覧ください。

ここでわかるのは、胎児や子どもへの影響を予防するための指標値が、まったく反映されていないということです。

一方、欧州食品安全機関(EFSA)が2020年に設定した許容量は体重1キロ当たり0.63ナノグラム。今回の内閣府食品安全委員会が設定した許容量はPFOSとPFOAの合計は40ナノグラムで、EFSAの数値の64倍となっています。*2


2月7日にPFAS問題の先駆的研究者の小泉昭夫京都大学名誉教授による、今回のパブコメ募集を受けての緊急オンライン講座に参加しましたが、この PFOS,PFOAそれぞれ20 ng/kg 体重/日の許容量とは、血中PFAS濃度にするとPFOS<250ng/ml、PFOA<143ng/mlを引き起こす量であり、全米アカデミーズ委員会が示した健康へのリスクが高くなる血中PFAS濃度20ng/ml、ドイツが緊急に曝露対策を取る必要な値とするPFOS 20ng/ml、PFOA 10ng/mlを大きく上回り、健康への影響への不安が高まる値です。


また、小泉教授は、「このままでは、現在の水道水の暫定目標値であるPFOS、PFOA合計で50ng/Lも、今後、PFOS 50ng/L、 PFOA 50ng/L合計で100ng/Lに改悪されかねない」と非常に懸念されていました。


予防原則に立脚しておらず、特に胎児や子どもたちへの影響を考慮に入れていない、時代遅れな審議結果を受け入れるわけにはいきません。


私は、特に以下の3点をパブコメで訴えます。


1 2023年12月に出された国際がん研究機関(IARC)によるPFOAの発がん性の判断を取り入れること。発がん性物質であるPFOAについて、PFOSと同じ許容量は理解しがたい。特に、関西はPFOAに汚染されていることへの留意が必要*3


2 米国環境保護庁(EPA)の2016年ではなく、最新の指標値を採用すること。少なくとも、2020年の欧州食品安全機関(EFSA)の指標値を採用、または、EPAの最新版が発表されるまで審議を継続すること。


3 PFHxSは子どもへの影響が危惧されることから、予防原則を充分考慮して2020年の欧州食品安全機関(EFSA)の指標値を採用すること。



オンライン講座で小泉教授がおっしゃっていましたが、パブコメで国民から1万件以上の意見が寄せられると、行政も再考せざるを得ないと感じるそうです。


実際、筆者が経験したことですが、2020年に環境省が進めようとしていた放射性汚染土再利用計画が、2800件のパブコメによって「時期尚早」として止まったこともありました。*4



私たちの健康、そして何より胎児、子どもたちを守るために、パブコメを出しましょう!

私たちは、無力ではありません。



パブコメの送り先、送り方はこちらをご覧ください。

          ↓

https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_pfas_pfas_060207.html

上記リンクにある資料:有機フッ素化合物(PFAS)に係る食品健康影響評価に係る審議結果

https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_pfas_pfas_060207.data/pc1_pfas_pfas_060207.pdf




参照記事

*1 PFOAの発がん性、最高の「ある」に2段階引き上げ WHO専門組織 汚染問題PFASの一種

東京新聞 2023年12月3日 https://www.tokyo-np.co.jp/article/293623


*2 PFASの「摂取許容量」日本でも具体化 ヨーロッパの60倍超に、発がん性は「証拠不十分」

東京新聞 2024年1月26日  https://www.tokyo-np.co.jp/article/305491


*3 追跡“PFAS汚染” 暮らしに迫る化学物質

■クローズアップ現代 2023年4月10日 https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4767/

 全国の状況は、上記リンクを、また兵庫県の深刻な汚染状況は下記動画をご覧ください。

 どちらもとてもわかりやすいです。

■「有機フッ素化合物PFASってなに?」

丸尾まき県政報告会 2024年2月2日 https://www.youtube.com/watch?v=0fsc8rUw2Fg


*4 放射性汚染土再利用にSTOPがかかりました~そして、これから~

小橋かおるブログ 2020年4月2日 http://flowersandbombs.blogspot.com/2020/04/




資料:有機フッ素化合物(PFAS)に係る食品健康影響評価に係る審議結果より(赤枠は筆者)










2023/12/26

 

2023年をふり返って・・・誰もとめられないのは・・・

 2023年も終わろうとしています。

これほどひどい年もなかったのではないかと、私には感じられます。

ガザで、誰にもとめられないままに続く民間人の「虐殺」、

誰にもとめられないままに進む日本の防衛費の突出した増額や、

米国への武器輸出に、沖縄の軍備増強、

そして、誰にもとめられないままに続く日本の原発政策・・・



この原発政策を見ていると、誰にもとめられないのは、

誰も責任を持って考えていないからだろうと、つくづく思います。

(考えているのは、原発や軍需で儲けている人たちだけなのかもしれません。)



今日、2023年12月26日にも、福島原発被害東京訴訟の控訴審で、無責任な判決が東京高等裁判所で言い渡されました。*報告集会の配信録画


簡単に言うと、「津波の対策をしても、原発事故は防げなかったから、津波対策をしなかった国に責任はない。」

これは2022年の最高裁で出された判決で、そして、今日の控訴審は、その判決をなぞるだけのもの。


最高裁判所が、小学生の言い訳のような判決を書き、高等裁判所がそれをコピペしたような判決を出す。(このような高裁判決が続いています)


誰も考えていないのですよ。

国が原発進めるから、進めやすいように司法は判決を書いているだけ。

そこには三権分立も司法の役割も見えません。



今年7月には、若狭湾にある日本最古の原発、高浜1号機が再稼働しました。今年で運転開始から49年になる原発です。そして、9月には48年になる高浜2号機も再稼働し、古い原発が西日本を中心に再稼働していきます。


2011年3月10日以前は、この国は「万が一にも事故は起こさない」と言って原発を動かしていました。事故を起こした福島第一原発は運転開始から40年の原発でした。


今、2023年、この国は福島第一原発事故の責任も認めず、「原発事故が起きても屋内退避で、住民は被ばくしろ」との政策で、フクイチよりもずっと古い原発を動かしています。


ガザの人々はイスラエルのミサイルによって、国を奪われそうになっていますが、私たちは自国の原発政策によって、国土と未来を奪われようとしているとしか、私には思えません。


いったい、この国は何なのか?

民主主義で、私たちが人間として扱われているのなら、こんなことがまかり通るわけがない。怒りも驚きも通り越して、その根本原因が知りたくなる2023年末です。



後記:

今年は英語のブログを毎週更新しましたが、このWords for Peaceは8月の記事(原発関連の無責任について)から書けないままでした。まとまったことを書くのがこのブログなので、いろいろな問題に奔走していたら、なかなかまとめる時間がなかったのです。来年は自身のためにも、問題をきちんと見つめて書く時間を作りたいと思います。


翻弄されながらも毎週書いたブログは2つ。

お正月休みにでもお読みいただけたら、うれしいです。


毎週土曜日更新(今年は関西のPFAS汚染の問題も多く取り上げました)

「7世代に思いをはせて」https://nanasedai.blogspot.com/

毎週火曜日~木曜日ぐらいに更新(海外からたくさんのアクセスがありました)

Tanka Poems against the War  https://tankaagainstwar.blogspot.com/


雪にも寒さにも負けない福寿草のように
来年も動きます



2023/08/17

 

運転開始より49年となる高浜原発1号機再稼働にみるヒトゴト

 まさかもう二度と動くことはないだろうと思っていた1974年に運転を開始した高浜原発1号機が2023年7月28日、12年ぶりに再稼働した。私の住む神戸から90キロも離れていない福井県高浜町にある関西電力の老朽原発が。


その再稼働の一報を聞いた6月末から、私はこの無謀としか思えない再稼働を止めるために、個人でもできることは何でもしようと思い、関電の大株主である神戸市、当時者の関西電力、そして原子力規制委員会に質問を出し、その回答を得た。


8月17日現在までのそのやりとりをこのブログにまとめておきたい。

福島第一原発事故という、今でも廃炉の行程さえよくわからないまま、使用済み核燃料や原子炉の倒壊の危機を抱えて、放射能を空に海に流し続け、何万人という人々の生活を破壊した惨劇が現在進行中のこの国の無自覚、無責任、ヒトゴト姿勢を、せめて記録しておくために。



--------原子力規制委員会とのやりとり-----------------


原子力規制委員会に質問 2023/7/20 

 高浜原発から90キロほどしか離れていない神戸に在住の者です。

先日、ある学習会で、圧力容器(鋼鉄)の脆化温度は、原子炉の運転期間が長くなると上昇するということで、使い始めは、-16度のものが、1年後には、35度、18年後には56度、34年後には98度で、高浜1号機は99度と紹介されていました。


これは、ほんとうでしょうか?

もしもほんとうなら、福島第一原発のように事故を起こしたときに、水で冷却しようとしても、圧力容器が割れてしまうのではないでしょうか?7月28日にも高浜1号が再稼働と報道されており、とても心配です。ご説明いただけたら、幸いです。


詳細:https://sayogenkobe.blog.fc2.com/blog-entry-217.html


7月25日に原子力規制庁より「電話で答える」との返信着

7月28日午前(午後には高浜1号機再稼働) 原子力規制庁の担当者に小橋より電話。


電話での会話まとめ

担当の回答 「脆化温度は99度だが、冷却時に(ECCSの)水をかけても圧力容器は割れないという計算になっている。」との計算上の話。その計算について公表されているサイトのリンクを後ほど送ると約束。

私が、「その計算方法が30年前のもので、新しい知見が反映されていないと井野博満さん(東京大学名誉教授)から聞いた」と言うと、「われわれも知見を取り入れるよう勉強している。井野先生にも、お話は聞いている」と返答。


今から、知見を勉強しても、もう高浜1号機は、今日の午後3時には再稼働なんです!事故ったら、私の所にも放射性物質が飛んでくるんです!と、思わず訴えてしまう。

その話の展開で、49年も前の原発が12年ぶりに再稼働されることになったことについて、私の疑問をぶつけてみた。


「コアキャッチャーもないのになぜ、世界一厳しい安全基準なんだ?」と聞くと、

「誰が言っているかは知らないが自分たち(規制委員会)は言ってない」と返答。


「避難計画もおろそかなのに、なぜ再稼働できるのか?」と聞くと、

「事故時の避難計画が適正かどうかを審査するのは自分たちではない」との返答。


また、脆化温度が高浜1号機よりも低い美浜2号や大飯1,2号が廃炉になっているのは、「関電の経営判断(規制クリアするためにお金をかけたくない)であって、圧力容器云々の話ではない。」と返答。


7月28日夕方規制委員会から送られてきた文書ファイル

関西電力株式会社高浜発電所1号炉の運転期間延長認可申請の実用炉規則第114条への適合性に関する審査結果 平成 28 年(2016年) 6 月 原子力規制庁



8月1日午後に小橋より返信 

「関西電力株式会社高浜発電所1号炉の運転期間延長認可申請の実用炉規則第114条への適合性に関する審査結果 平成 28 年 6 月 原子力規制庁」のファイルを送付いただき、ありがとうございました。


さらに3点ほど質問させていただきたいのですが、


1: P.10にある、原子炉容器の中性子照射脆化審査に関しての「評価」は、平成21年(2009年)に取り出した監視試験片を元にしていると考えられ、とても古いデータであると不安に思い、ある学習会で専門家の方に質問しましたところ、2009年のものは溶接金属を使った試験を元にしたもので、母材は2002年が最後とのことでした。本来なら、溶接金属も母材も同時に試験するべきところを別々にしか行っていないという解釈でよろしいでしょうか?


2: 母材の試験片は2021年に取り出され、結果は2023年8月にわかると聞きましたが、それで正しいでしょうか?


3: 1,2の解釈で良い場合は、8月の試験結果を待たずして、もうすぐ49年になる原発を12年ぶりに再稼働させたということになりますが、8月の試験結果に問題が認められる場合は、規制委員会としては、高浜原発1号機の運転停止、廃炉の判断を行えるのでしょうか?

学習会での資料を添付いたします。


詳細:https://foejapan.org/issue/20230718/13536/




8月3日にまた「電話で答える」との回答で、4日に小橋より電話をかけるが忙しいとのこと。何回か電話し、8月8日に担当者につながる。


質問の1は、この解釈でOK。すなわち、高浜は別々に試験片を取り出してやってる。

質問2は、関電に聞いてくれ。規制庁は報告を受けるだけ。

質問3は、今度のGX脱炭素電源法が施行されたら、30年超えの原発を運転したい事業者は、すべての30年超えのものについて書類を再提出することになる。

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いかがですか?この無責任なヒトゴト姿勢?

いったい原子力規制庁とは何のための組織なのか?

原子力規制庁ならば、せめて原子炉容器の中性子照射脆化審査に最新の知見を取り入れるよう業者に求めるべきだと思いませんか?また、母材と試験片を別年で審査することを許可したりするべきではないし、欧米を中心に新型原発では取り入れられているコアキャッチャーがなければ運転してはならないと規制するべきでしょう。


GX脱炭素電源法と言う名の「原子力推進法」、60年超えの原発の運転を可能にする新法のもとで、原子力規制庁が今以上に規制の方向に動くとは到底考えられません。



また、今回のやりとりで、原発事故が起きたときの避難計画も自治体に丸投げで、誰も責任をとる様子がないことにも大きな不安を感じました。


そこで検索して、見つけた文書に、改めて驚きました。

■ 原子力災害対策指針と 新規制基準(平成28年)原子力規制委員会委員長 田中 俊一と題した文書です。

そこには、福島第一原発事故からの教訓として、「無計画に無理な避難をしたことで多数の犠牲者が出た。」 「原発サイトの内外を含めて放射線被ばくによる確定的な健康影響は認められていない。」よって、「屋内退避を積極的導入する」という結論が書かれています。注意書きとして、「なお、複合災害時には、生命に関わる他の災害リスク対策を優先する。」とあり、地震で屋内退避する場所がなかったり、津波で逃げなければならなかったりすれば、もう被ばくしろ、と言うことのようです。



唖然とします。

福島第一原発事故前は、「原発は事故をしません」と言って、日本中に54基も原発を建てて動かしていた。

原発事故が起きた後は、「事故を起こしても被ばくしろ」と言って、古い原発までも稼働させる。

無茶苦茶でしょう?


この無茶苦茶を、原子力規制委員会、規制庁、電力会社、そして自治体も、国の方針だから、法律がそうだから・・・と、言い訳をしながら、ヒトゴトのように原発推進に加担していき、メディアもほとんど官報のように伝えるだけ・・・。


運転開始から40年となった2011年2月に、福島第一原発1号機を廃炉にしておけば、あのような過酷な原発事故は起きなかったかもしれない・・・この12年間ずっと悔やんできました。

しかし、この国の為政者は、あの事故を、「事故が起きても原発は動かしてもいい」日本にするために利用したのです。


これを止められるのは、ほんとうに国民しかいません。

私たちの暮らしと健康を守るために動く政治家を選び、またひとつひとつ疑問の声を上げていかなければ、彼らの利権のために被ばくさせられ、健康を害しても「関係ない」との強弁で、泣き寝入りの内に死んでいくはめです。


私は嫌です。

泣き寝入りはしません。

これからも、おかしいことはおかしいと言い続け、せめて記録に残します。



下記は、関西電力、神戸市とのやりとりです。

記録のひとつとして掲載します。


-------- 関西電力とのやりとり ---------------------


小橋より関西電力に質問 2023/7/13 

 原発の圧力容器の脆化について、質問です。

脆化温度は、運転期間が長くなると上昇するということで、使い始めは、-16度のものが、1年後には、35度、18年後には56度、34年後には98度で、高浜1号機は99度と、ある学習会で聞きました。これは、ほんとうですか?

また、その場合、高浜1号機を運転するのは、非常に危険ではありませんか?



関電より8月4日(高浜原発1号機再稼働後!返信着)

小橋さま

お世話になっております。関西電力広報室です。

原子炉容器の健全性評価で用いる脆性遷移温度は、脆化の程度を示す指標であり、その温度以下になると脆性破壊するといったことを示すものではありません。

原子炉容器の健全性評価では、監視試験結果で得られた脆化傾向を踏まえて将来の脆化程度を予測し、事故時など過酷な条件下においても原子炉容器に破損のおそれが

ないことを確認しており、高浜1号機のような初期のプラントであっても、原子炉容器の健全性に問題はないと考えています。

なお、関連温度(脆性遷移温度)については下記の通りHPで公開しているとおりです。

https://www.kepco.co.jp/energy_supply/energy/nuclear_power/info/knic/meeting/genshiryoku/cyuuseisi2_2.html

何卒よろしくお願い申し上げます。


関西電力株式会社 広報室



小橋より関電に8月8日に再質問

関西電力株式会社 広報室御中

ご説明をありがとうございました。

ある学習会で、高浜1号機の脆化温度の計算の仕方は30年前のもので、新たな研究結果などが反映されていないと聞きました。

また、高浜原発の原子炉容器の中性子照射脆化審査に関しての「評価」は、平成21年(2009年)に取り出した監視試験片を元にしていると考えられ、とても古いデータであると不安に思い、専門家の方に質問しましたところ、2009年のものは溶接金属を使った試験を元にしたもので、母材は2002年が最後とのことでした。

また、その方によると母材の試験片は2021年に取り出され、結果は2023年8月にわかると聞きましたが、それで正しいでしょうか?

福島第一原発も40年で廃炉になってたはずの一号機から事故は始まりました。

私の街から100キロほどしか離れていない老朽原発群(高浜1,2号、美浜3号)を思うと、非常に不安です。

新たな試験片の審査結果がいつわかるのか、また、どこで確認できるのか、教えてください。

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8月17日現在、関電よりの返信はありません。




---------- 神戸市とのやりとり -----------------


神戸市へのメール6月22日

神戸市環境局環境創造課 御中


6月28日の関電の株主総会を前に、

関西電力が、運転開始から49年を迎えようとする高浜原発1号機の再稼働するとの報道がありました。2011年からずっと止まっていた老朽プラントが、神戸から90キロほどしか離れていないところで再稼働するかと思うと、ほんとうに心配です。


添付の画像は、2014年の兵庫県による高浜の隣の大飯原発が放射能漏れ事故を起こしたときのシミュレーションですが、北風に乗れば、2時間で放射性プルームが神戸にも到達すると、当時の井戸兵庫県知事も答弁しています。


ほとんど審議も尽くされず拙速に決まった国の方針と、関西電力の経営判断によって、

神戸、関西の生活が脅かされることになります。


神戸市はこれまでも原発に依存しない電力供給を関西電力に株主として求めてきました。

来週の株主総会でも、その姿勢を明確にし、また関西全域の暮らし、経済に不安を与える老朽原発の廃炉を求めてください。



神戸市より6月28日返信着

小橋さま

お世話になっております。

神戸市環境局環境創造課です。


ご意見をいただきありがとうございます。

繰り返しになりますが、本市では原子力発電について、

安全性と地元理解を大前提として、国において判断すべきものと考えております。

市民の安心安全な暮らしと、市内事業者の活発な経済活動を守る立場として、

国の動向を注視し、庁内においても引き続き原子力発電に関する検討を続けて参ります。

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その後、7月28日に、つなぐ神戸市議団の香川議員と高橋前議員が神戸市と老朽原発再稼働について、神戸市として何らかの対策を求めて面談を実施してくださいましたが、神戸市は、上記と変わらぬヒトゴト対応だったと報告を受けました。



6月22日には、兵庫県に下記の提案をしましたが、8月17日現在返答はありません。

これまで何度も「さわやか提案箱」から提案してきましたが、返答がないのは初めてです。知事が変わったからでしょうか?

さわやか提案箱への提案

「事故時に放射性ヨウ素が放出された時のことを考えて、篠山市は安定ヨウ素剤の事前配布を実施しています。

https://www.city.tambasasayama.lg.jp/soshikikarasagasu/shiminanzenka/bousai/genshiryokusaigai/23144.html 

兵庫県内すべての自治体に事前配布するよう、知事に提案いたします。」




最後に、原発事故がどのようなものであるのか、兵庫県に避難されている菅野みずえさんのインタビュー記事をリンクします。ほんとうに、自分事として、考えなければなりません。


■原発がある限り、私の身に起こったことは、いつかあなたのことになる – 菅野みずえ

グリーンピース・ジャパン 2022/3/3

https://www.greenpeace.org/japan/campaigns/story/2022/03/03/55716/

「原発がある限り、私の身に起こったことは、いつかあなたの、誰かのことになります。私は〈3月10日〉を踏み越えてしまった今を生きているけれど、あなた方はまだ〈3月10日〉の分岐点にいる。これ以上、子どもたち・若い世代に重荷を背負わせない方角はどっちか、大人たちがどうか考えてください」


2014年には兵庫県もこのような
放射能拡散シミュレーションを発表し、自分事としていたのに・・・。


追記:

アクション情報

9・1(金)関電前「一食断食」行動 ~老朽原発うごかすな!
      ~とめよう!原発依存社会への暴走~
◆と き:9月1日(金)10:00~16:00
◆ところ:関西電力本店前(大阪市北区中之島)
◆主 催:老朽原発うごかすな!実行委員会 

12.3 (日) とめよう!原発依存社会への暴走 1万人集会 
日時 12月3日 (日) 午後 
場所 大阪市内
主催 老朽原発うごかすな!実行委員会

情報サイト

原発ってどこにある?今、動いてる?再稼働はいつ?

https://blog.goo.ne.jp/tanutanu9887/e/a43bbf55884c7e6832943f79a7f56b72



2023/04/23

 

追跡!謎の日米合同委員会 別のかたちで継続された「占領政策」を読んで

  日米合同委員会、この存在をどれだけの日本国民が知っているでしょう?私自身も、この名前を聞いたのは15年ぐらい前のことかと思います。また、外務省の元関係者の話としても、「たいしたことはしていない。日米間の事務調整みたいなもの」などしか聞こえてこなかったので、これまで気になりながらも、あまり注目してこなかったのですが、昨年末に、「NHKスペシャル 未解決事件 松本清張と帝銀事件」を見て、その一場面(GHQが雑談のように日本の役人を通して、これ以上帝銀事件と731部隊の関係を追うなと日本人記者に「要望」する)を見て、これが日米合同委員会の原点の姿かも!?と、その存在と機能が腑に落ちたような気がしました。

   そして、出会った1冊の書籍。吉田 敏浩著『追跡!謎の日米合同委員会 別のかたちで継続された「占領政策」』(毎日新聞出版 2021年刊)。日米合同委員会による、日本国民の主権侵害に焦点を当てて、一部引用しながら紹介します。(緑字部分は引用)




はじめに

 日米合同委員会とは、日本における米軍の権利など法的地位を定めた日米地位協定の運用に関する協議である。一九五二年四月二八日の対日講話条約、日米安保条約、日米行政協定(現在地位協定)の発効とともに発足した。外務省や防衛省などの高級官僚らと在日米軍司令部などの高級軍人らで構成されている。

 外務省内や都内の米軍施設などで定期的に会合し、議事録や合意文書は原則非公開とされる。国会議員にさえも公開しない秘密の厚い壁を築いている。関係者以外立ち入れない密室の協議を通じて米軍に対し、基地を自由に使用し軍事活動をおこなう特権を認める合意を結んでいる。米軍優位の不平等な日米地位協定を裏から支える密室の合意システムといえる。(中略)


日米合同委員会の議事録や合意文書の非公開は、日米地位協定で定められているわけではない。ただ合同委員会の密室協議で、そう取り決めただけなのである。そして、そう取り決めた合意文書さえも非公開としてきた。その秘密体制は徹底している。(p.7)



そこに風穴を開けようとしたのが、「知る権利」と情報公開の推進に取り組むNPO法人「情報公開クリアリングハウス」の「日米合同委員会議事録情報公開訴訟」である。この訴訟を通じて、外務省は1960年の安保改訂後の第一回日米合同委員会の議事録中の、「(合同委員会の議事録などは)日米双方の合意がない限り公表されない」という部分を開示せざるをえなくなった。

 そして、日米合同委員会の文書非公開という秘密体制を維持するために、外務省が情報公開法にもとづく日米合同委員会連絡の文書開示請求があるたびに、在日米軍と電話やメールで連絡を取り合い、米軍側から「開示に同意しない旨」の回答を受けている事実も明らかになった。

 これでは、米軍が日本の情報公開制度に対し縛りをかけていることになる。米軍の同意なしには開示されないのだから、日本の情報公開の主権と国民の「知る権利」が制約・侵害されているといえる。 (p.8)



日本の空と人権: 米軍機の飛行訓練について

 国民の「知る権利」を侵害される中、「密約」に則って、日本国民が安全に暮らす権利も侵害されている。

 沖縄の普天間基地が、米軍機による飛行訓練の被害を周辺住民に及ぼしていることは、長く知られているが、一向に改善されていると思えない状況だ。それは、沖縄のことだけでなく、関東や横田基地周辺、東北の三沢基地周辺、また九州の一部、西日本横断ルート、東北周回ルートなどで、本国アメリカでは到底許されない住宅地上空のような地域でも、低空飛行訓練を米軍は続けている。


 防衛省によると、地位協定にもとづくとされる米軍の訓練空域は二八カ所ある。しかし実際には、F16戦闘機、FA18戦闘攻撃機、C130輸送機、オスプレイなど多くの米軍機が、これらの訓練空域以外の日本の陸地の上空でも自由に訓練飛行をおこなっている。

 米軍は地位協定上の法的根拠もなく、北海道から沖縄まで全国各地に、新聞社の調査などで判明しただけでも八本の低空訓練ルートや、関東から中部にかけての低空訓練エリアを勝手に設定している。(p.45)



 米軍機の飛行訓練がひんぱんにおこなわれる地域の自治体は、飛行ルートや訓練時間の事前の情報提供を日本に求めている。米軍機と自治体の消防防災ヘリやドクターヘリのニアミスや衝突事故を防ぐためである。しかし、情報は提供されない。「米軍機情報隠蔽密約」 があるからにちがいない。密約は住民の安全を脅かしている。(p.7)



 そして、これらの空域は、ここでは詳しく述べませんが、現在でもまだまだ拡大しています。詳細は、2019年の三沢基地についての章、「三沢基地周辺でも拡大する米軍用空域」(p.165)をお読みください。他にも、下記の引用部分に列挙されているような、日本の法令に抵触するような米軍の特別扱いがおこなわれています。



 日本の法令に反する合意はしてはならない

 

 それにしても、このような日米合同委員会で日本の法令に抵触、違反する合意をおこなうことは、許されるものだろうか。

 その答えは、決して許されるものではない、である。明確に、前出の外務省機密文書『日米地位協定の考え方・増補版』でも、そう説明されている。日米合同委員会を設置した根拠となる地位協定第二五条の解説部分の一節である。


 合同委員会は、当然のことながら地位協定または日本法令に抵触する合意を行うことはできない。


 したがって、航空法上の法的根拠がないのに、米軍による「横田空域」や「岩国空域」での航空管制を事実上委任して認めることも、米軍機に「航空交通管制承認に関し、優先的取り扱いを与える」ことも、銃刀法に反して米軍基地の日本人警備員に銃を携帯させることも、刑事特別法の規定に従わないで、公務中かどうかまだ明らかではないのに米軍人・軍属の被疑者の身柄を米軍側に引き渡すことも、すべて日本法令に抵触、違反しており、そもそも日米合同委員会で合意できる内容ではないのである。

 『日米地位協定の考え方・増補版』は、外務官僚向けに地位協定の解釈・運用について解説した機密文書、内部資料だ。そこにみずから「日本法令に抵触する合意を行うことはできない」と書いておきながら、国民・市民の目が届かない日本の高級官僚と在日米軍の高級軍人の密室協議の場では、日本法令に抵触して米軍を特別扱いする秘密合意を結んでいる。民主主義の基本である「法の支配」を逸脱する行為であり、法治国家としてあってはならにことだ。

 日米合同委員会では、「日本法令に抵触する合意を行うことはできない」以上、日本法令に抵触、違反する合意に正当性はなく、無効でなくてはならない。(pp.206-207)                                          


最後に、独立国として日本がなさなければならない道筋を、本書は示しているので、紹介します。



「別のかたちで継続された占領政策」の呪縛を断ち切る

 このように正当性に欠ける日米合同委員会の密室のシステムを、放置してはならない。

放置したままでは仮に地位協定を抜本的に改定したとしても、その規定をすり抜けて米軍に 有利な合意・密約がつくられてゆくだろう。

 したがって、米軍に対し実効性のある規制をかけるためには、日本法(国内法)を原則として適用することなど地位協定の抜本的改定とともに、不透明な日米合同委員会の合意システムを見直さなければならない。

 日米合同委員会の全面的な情報公開と米軍優位の密約の破棄がなされるべきである。ゆくゆは日米合同委員会そのものも廃止して、国会に「日米地位協定委員会」を設置し、地位協定の解釈と運用を国会の開かれた場で、主権者である国民・市民の目が届くかたちで議論し、管理するように改めなければならない。そこに自治体からの代表者も参加でき、住民の声も汲み 上げられる仕頼みも欠かせない。

 松本清張が鋭く指摘した、”別のかたちで継続された占領政策”。その象徴といえる日米合同委員会。「安保法体系」+「密約体系」という表裏一体の米軍優位の構造。このような“別のかたちで継続された占領政策”の呪縛を断ち切ること。それは、いま日本が独立国として、まさしく取り組むべき大きな課題にちがいない。(pp.232-233)



松本清張は昭和50年(1975年)という節目の年に、『文藝春秋』(1975年1月号)誌上でこのように述べたとされる。

 「安保体制というのはアメリカ占領政策の継続です。(日本の)官僚政治家その能率的な実践者であり、忠実な管理人ですね。」 (pp.169-170)



   2023年の現在も、東京都心でほぼ隔週で開かれているという日米合同委員会。米軍に忠実な官僚や政治家に国政を預けている日本国民は、米軍政下にあると言えるでしょう。この状況が、日本国民に知らされぬまま戦後80年近く続いてきた弊害は、とてつもなく大きいと思います。なぜなら、外国軍に主権を奪われ、国民のためにならない政策が堂々と行われていても、それを異常だと思わなくなってしまったからです。「戦争に負けたから仕方がない」という声を聞くこともありますが、同じ第二次世界大戦敗戦国のドイツやイタリア、また、アフガニスタンやイラクと米国の地位協定を、日本のそれと比べてみてください。日本の異常さに気がつかないわけにはいかないでしょう。


そして、占領状態から続くこの不平等な状態から国を立て直す、すなわち日本を真の独立国にできるのは、国民の力しかないこともわかるでしょう。国民の力とは、軍事力ではなく、国民の主権への渇望、選挙権の行使、政治家、官僚の監視など、真に民主主義的な国民の力だと、私は確信しています。




注:日米合同委員会 

下記は■特権を問う日米合同委員会 米軍特権の基礎知識 2021/12/21 

https://mainichi.jp/articles/20211216/org/00m/040/016000c  より引用


 1952年調印の日米行政協定で設けられた協議機関。1960年からは行政協定を引き継いだ日米地位協定に基づき設置されている。東京都心でほぼ隔週で開かれており、日本の省庁幹部と在日米軍幹部が米軍や基地の具体的な運用の実務者協議を行っている。


 代表者は日本側が外務省北米局長、米国側が在日米軍副司令官。「刑事裁判管轄権」「出入国」「航空機騒音対策」「訓練移転」「在日米軍再編」など分野ごとの分科会や部会が30以上設けられており、本会議に当たる合同委員会で合意事項が決定される。


合意事項は日米双方に拘束力をもつが、協議は非公開で内容は日米双方の合意がなければ公表されず国会への報告義務もない。このため、国民の知らない密約が数多く結ばれているとの指摘がある【記事①】 【記事②】 【記事③】。


既に明らかになっているのが、米兵の公務外犯罪を巡る「裁判権放棄密約」だ。1953年10月28日の日米合同委員会裁判権小委員会の議事録の中で日本側代表の津田実・法務省総務課長(当時)が「実質的に重要と考えられる事件以外では、第1次裁判権を行使する意図を通常有しない」と述べた秘密の了解を指す。米公文書にこの記録が残るが、外務省は「予測を述べたものに過ぎず、何らかの約束を述べたものではない」として効力を否定している。


 2018年の沖縄県議会で翁長雄志知事(当時)は「日米地位協定が憲法の上にあって、日米合同委員会が国会の上にある」と語っている。



記事1 地位協定60年 65年米公文書 日米「身柄勾留」密約 裁判終了まで米側で https://mainichi.jp/articles/20200228/ddm/001/040/085000c


記事2 地位協定60年 身柄勾留で密約 米軍優遇、浮き彫り https://mainichi.jp/articles/20200228/ddm/003/010/131000c


記事3 日米関係を揺るがしたジラード事件 「密約」が阻んだ捜査 63年前の父の悔しさ https://mainichi.jp/articles/20200307/k00/00m/040/003000c


しっかり読んだら、お腹が空きました?
アイスランドでのランチの写真です。
アイスランドの安全保障政策も、とても参考になりますので、また、いつか。



2023/03/19

 

もしも若狭湾の原発のひとつでも事故を起こし、琵琶湖を放射能で汚染したら・・・ 神戸の飲料水はどうなる??~水質試験所の所長と面談した市民の覚え書き~

3月17日、神戸市議会の高橋ひでのり市議と共に神戸市の水質試験所に赴き、40年超えの原発を始め、ますます稼働が進む関西電力の原発群が放射能漏れ事故を起こしたら、神戸市はどのように安全な水を確保するのか?という一生活者としての不安に答えてもらうべく、水質試験所の所長さんと担当課長さんの説明を聞きました。

面談の様子



結論から言うと、所長さんを始め職員の皆さんは、神戸市民に安全な水を供給するべく、滋賀県のシミュレーション結果やセシウムの挙動などを検討し、具体的な原子力事故災害対応の計画を立てられていました。このブログでは、もしも原発事故が起きたら、どのようなことを神戸市は行うのか、市民は何をすればいいかを、私なりにまとめておきたいと思います。



1放射性物質拡散予測

琵琶湖流域における放射性物質拡散影響予測(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)では、最も排出量が多かった福島3月15日の状況を想定して、様々なシミュレーションが行われた。詳細はリンク参照 https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/22748.pdf

結果のまとめ


注:OIL6とは、原子力緊急事態宣言時の原子力災害対策指針が定める指標のことで、飲料水で放射性セシウムでは200Bp/kg、放射性ヨウ素で300Bq/kg



2 神戸市の原子力災害対応

一連の対応は、神戸市水道局における原子力事故災害への対応について(平成28年4月改訂)のマニュアル https://kobe-wb.jp/wp/wp-content/themes/kobe_theme/pdf/suishitu/suidou-hozen/genshiryoku_manual.pdf に示されているが、ここでは、面談時に確認したことをまとめる。


神戸市の水道水の8割は、淀川水系(すなわち琵琶湖の水)を阪神水道企業団から得ているが、滋賀県のシミュレーションからすると、神戸に汚染された水が来るまでには、汚染についての情報をかなり得ることができ、また汚染は軽減されていると思われるが、神戸市水道局としては、少しでも安全な水を市民に供給するために動く。おそらく放射性セシウムが問題となってくると思われるが、数ベクレルでも検出された場合は、凝集沈殿処理などの措置をとることになる。


凝集沈殿処理の効果(水質試験所の面談で示された画像)




また、神戸市にも甚大な放射能汚染が起きた場合は、放射性ヨウ素の場合、塩素注入及び活性炭処理、放射性セシウムは凝集沈殿処理の強化により浄水の濁度管理を徹底する。また、飲料用としては、緊急遮断弁付き配水池、緊急貯水槽及び大容量送水管に貯留されている水を用いた応急給水や、経済観光局におけるペットボトル水の備蓄などを活用する。 



緊急遮断弁システムの画像(水質試験所の説明板)

この緊急遮断弁システムにより、配水池・緊急貯水槽・大容量送水管内に(約12万立方メートル)の汚染されていない飲料水を確保することができる。神戸市民ひとりあたりに必要な飲料水が一日3Lとすると、26日間の飲料水という計算になる。 


水道から流れることになる汚染された水は生活用水として使用し、飲料水は市内62カ所の給水拠点で供給されることになるだろう。給水拠点のサイト:https://kobe-wb.jp/oukyuukyuusui/




3 広報について

現在も神戸市水道局のHP(トップサイトから「水道を知る」をプルダウンして「水質について」をクリックする)の「水質検査」から、「水質検査報告」をクリックすると、年度ごとの報告が閲覧できる:https://kobe-wb.jp/suishitu/kensa/houkoku/


例:水質検査報告令和5年度2月分(放射性物質)



水道水の摂取制限等の措置を講じた場合は、テレビ・ラジオでの放送を要請するなど、市民への速やかな情報提供を行うことになるが、平常時にもしも水道水中の放射性セシウムの濃度が管理目標値(10 Bq/kg)を超過した場合などには、断水・赤水・災害情報サイト(https://kobe-wb.jp/dansuiakamizu/)で知らせることになるだろう。



市民として少し不安な点は、通常は放射性セシウム10 Bq/kg以上で飲用を控えるという基準が、原子力事故時には200 Bq/kg以上で控えるという、根拠のない国の基準があること。

平常時でも事故時でも、水質検査報告では「1ベクレルが検出されても必ず公表する」ということだが、1~9 Bq/kgほどの水道水の汚染の場合については、災害情報サイトで広報されるのかがよくわからないこと。よって、小規模の放射能漏れ事故などが起きた場合は、前述の「水質検査報告」を、自ら確認するように心がけておくことが大切かと思う。



面談を終えて

面談を終えて、ゲルマニウム半導体検出器を見学させてもらいました。とても精密な機器だそうで、維持費もかかるそうですが、いざ事故が起きた時には、自前でこの検出器を持っていることはデータの収集にとても大切、なぜなら事故時には検査機関に、多くの自治体からの検査の依頼が殺到し、即時のデータが得られないだろうから、とのことでした。


福島第一原発事故時の関東・東北の状況についても所長さんはよく調べられているようで、12年前の事故を検証し、今後近畿で起こりうる原発事故に、どのように対応し、神戸市民にいかに安全な水を供給するかを真剣に考えられていることが、お話の内容からよくわかりました。

見学を終え、所長さんたちが、玄関まで見送ってくださったので、福島県で原発事故に遭遇した友人は、飲料水が放射能汚染されたことを、東京での水の汚染のニュースを見るまで、知らないままであったことを話し、

「原発事故が起きたら、現場はたいへんだと思いますが、データをとり続け、市民にしっかり届けてください。」と最後にお願いしましたら、所長さんは、「承知しました」と深くうなずかれました。


神戸市民として、水道局の取り組みに感謝するとともに、もしもほんとうに重大な原発事故が起きたら、水道局の職員さんは被ばくの危険にさらされながらも検査や給水作業を続けなくてはならない、他の様々な業務に従事する職員さん、市民も・・・、想像すればするほど、原発事故は二度と起こしてはならないとの思いを一層強く持ち、水質試験所をあとにしました。


神戸の飲料水を守る
ゲルマニウム半導体検出器


++ 関連ブログ ++

この面談のきっかけとなった「わたしから神戸市への提案」について

■7世代に思いをはせて【第751号】12年前よりも高まる危険性に・・・

https://nanasedai.blogspot.com/2023/03/75112.html


面談終了直後に書いたブログ

■7世代に思いをはせて【第753号】安全な水を求めて@水質試験所

https://nanasedai.blogspot.com/2023/03/753.html 


 ++ 後記 ++

12年前の3月、神戸に住む私は、ドイツ気象台の発表する放射能拡散予測図を毎日見ていました。原発から放出された放射性物質がどこにゆくかは、風向き、降雨、地形できまり、その上、目にも見えず、においもしない放射線・・・。事故当時福島原発から60キロほど離れた町に住んでいたある女性は、毎時20マイクロシーベルトを超える空間線量の中で、子どもを連れて給水の列に並んでしまった、知らされてなかったと語ってくれたことも、改めて思い出します。


今回面談した神戸市水道局の職員の皆さんは、福島原発事故を元に事故対策を考られており、その対策そのものには敬意を表します。しかし、福島原発事故においては、使用済み核燃料プールが壊れれば東日本壊滅かと危ぶまれる事態であったのが、奇跡の連続で免れただけだったことを考えると、神戸から100キロほどしか離れていないところに林立する原発群は、私たちの暮らしを根底から壊してしまう危険をはらんだ存在だと思います。


なぜ、このような原発、それも運転から40年を超えた危険な原発を動かすことに、国も電力会社も固執するのか?それは、国民のためではなく、一部の原子力関係者の利権のためではないかと、つくづく思います。

このような負の遺産は、なんとしても私の世代で終わらせたいです。


春の始めに、天をつきさすように咲く木蓮には、
いつも強い意志を感じます





2023/01/03

 

『武器としての国際人権』を読んで・・「失われた30年」

文字ぎっしりの大著です

 失われた30年とも言われ、低迷を続ける日本ですが、それは経済だけではなく、人権水準においてもそうだったのだと、痛感させられた『武器としての国際人権』(藤田早苗著 集英社新書 2022年刊)でした。


基本的人権については、世界人権宣言(1948年採択)ばかりでなく、日本国憲法(1947年施行)の3原則のひとつに掲げられ、憲法第十一条にも、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。」と記されていますが、世界での人権向上への取り組みとはうらはらに、日本は停滞を続けており、その水準の差は拡大の一方のようです。


本稿では、まず国際人権のこれまで、次に、日本の現状、今後への示唆について、『武器としての国際人権』と、私も市民として実現のために関った国連特別報告者の訪日調査の経験などを交えて、紹介したいと思います。


国際人権のこれまで:

世界ではどのように人権の水準の向上が図られてきたのかを明確にするために、

『武器としての国際人権』で言及された国際人権についての基本概念と簡単な年表を作成してみました。

注:緑字の文章は『武器としての国際人権』からの引用


人権:生まれてきた人間すべてに対して、その人が能力を発揮できるように、政府はそれを助ける義務がある。その助けを要求する権利が人権。人権は誰にでもある。(p. 19)


国際人権:世界には国連以外にも欧州、米州、アフリカにそれぞれ地域の人権条約と人権裁判所があり(残念ながらアジアにはない)、多くの重要な判例を生んできた。国連やこれらの地域的な人権保障制度のもとで打ち立てられた規範と制度を尊重して「国際人権」と呼ぶ(p. 31)


中核となる国連の宣言、条約について

1948年 世界人権宣言が国連総会で採択される

1966年 自由権規約と社会権規約が採択される  日本は1979年に両規約を批准

1969年 人種差別撤廃条約

1979年 女性差別撤廃条約

1984年 拷問等禁止条約

1989年 子どもの権利条約

1990年 移住労働者権利条約

2006年 強制失踪条約

2006年 障害者権利条約   

「これらのうち日本は移住労働者の権利条約以外の八つを批准している。

日本国憲法は、条約を誠実に遵守することを定めている(第98条2項)。この規定から国が批准や加入した条約は、国内でも法的拘束力を持ち、国内で直接適用することができる。つまり国内でも現行法としての効力を持つので、裁判でも当事者は関連する人権条約の規定を用いた主張ができるし、裁判所も人権条約の規定を適用した判断を出すことが求められる。」(p. 30)



「失われた30年」の国際人権の動き

1993年 国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則(パリ原則) ←  日本は原則に基づいた実施をしていない

1997年 アナン国連事務総長人権を国連のすべての活動で主流化する

これによって、保健や開発に取り組む国連専門機関でも、参加、差別の禁止、説明責任、透明性などの『人権の視点』をそれぞれの政策や運営、活動に取り入れられる試みが続けられている(p.33)

2006年 人権委員会に替えて人権理事会が創設される。

2008年 「UPR(普遍的・定期的レビュー)」制度が審査の実施を開始。 

UPRは、人権理事会の創設に伴い、国連加盟国(193ヶ国)全ての国の人権状況を普遍的に審査する枠組みとして盛り込まれた制度。

2011年 Standing Invitation(特別報告者から調査訪問依頼を受けたら常時受け入れる)と日本政府が宣言(民主党政権)← この宣言がないがしろになっていることは後述

2011年 ビジネスと人権に関する指導原則が国連人権理事会で承認される。

2022年10月現在 個人通報制度は、173の自由権規約の締約国のうち117カ国が受諾。

     ↑ 日本は法務省の人権擁護委員会があるとして、受諾していない。  

ちょっとcoffe break


日本の人権意識のアップデートを!

この年表から見て取れることは、人権の国際標準は1997年に変化の兆しが明らかになり、2006年に人権理事会が創設されてからは、UPRや特別報告者の制度によって、加盟国各国の人権についての審査や勧告を行うという、より積極的なアプローチに変わったことでしょう。

人権問題について、国連の人権システムから勧告を受けることを、一部の人たちは「内政干渉」と捉えることがありますが、その勧告を慎重に検討し、自国の人権水準を向上させてくことを加盟国は遵守しなくてはならず、またそれができなくては、国際社会から取り残されてしまうと思われます。


具体例として、日本でも非常に懸念されている「特定秘密保護法」が挙げられます。

2013年当時、国連特別報告者も国連人権高等弁務官も「情報を秘密と特定する根拠が極めて広範囲で曖昧」(p.176)と声明を出し、国連人権規約委員会でも懸念がしめされましたが(もちろん国内でも多くの反対の声が上げられました)、国会では十分な審議時間が確保されず、採決が強行されました。

アメリカ政府の三つの政権において安全保障に関する要職を務めたモーン・ハルベリン氏は、「この法は、21世紀に民主的な政府によって検討された秘密保護法の中で最悪なものだ。(中略)」「法案はあまりにも急いで、そして十分な公開討議を行わずに成立した。政府は日本の市民社会と国際的な専門家との十分な話し合いを経たうえで、この法律改定に専心すべきであると」と述べている。(中略)

南アフリカ共和国(南ア)が同様の法律を起草した際には、政府は国内外の専門家と意見を交わし、成立までに二年以上をかけているのである。(中略)その結果二年以上をかけて法案は質の高いものになったという。このように、専門家からのインプットや彼らとの意見交換を経て法案や政策を国際人権基準に近づけていく、これが本来あるべきプロセスだろう」(pp.177-178)

パブリック・コメントに二週間しか設けず、それらのコメントもほとんど考慮されず、密室での審議と国会での不十分な答弁のみで短期間で押し通された日本の秘密保護法の制定・審議過程とは雲泥の差である。(p.179)



また、国際人権基準に沿った人権意識が、ビジネスの場にも重要であることを痛感させられるのは、2011年 ビジネスと人権に関する指導原則ではないでしょうか?

ちょうど先月にその問題を扱った動画を視聴しましたので、ご紹介します。

■サプライチェーンの人権尊重で国際標準から乗り遅れる日本

ビデオニュースドットコム 2022/12/10

https://www.videonews.com/marugeki-talk/1131

「グローバル企業が網の目のようにサプライチェーンを伸ばしていくなか、国際社会としてのルールづくりもこの10年で大きく動いている。国連は2011年にビジネスと人権に関する指導原則を策定、人権を擁護する国家の責務と企業の責任を明記した。またOECDも多国籍企業行動指針に人権における原則と基準を加えている。日本政府もようやく今年になって経産省内に検討会を設け、この9月にサプライチェーンの人権問題についてのガイドラインを公表した。」以上、上記のリンクより。



私と国際人権について

私が国際人権に非常に興味を持ったきっかけは、国内避難民の人権に関する国連特別報告者による訪日調査を実現する会に市民メンバーとして参加したことからでした。

この場合の国内避難民とは、原発事故や災害により避難を余儀なくされた人たちのことを指しますが、2022年に来日したセシリア・ヒメネス・ダマリー国連特別報告者の東京での会見は、日本に欠けている人権意識は何かを、私に気づかせてくれました。

ダマリー国連特別報告者が、何度も何度も、国内避難民自身が決定のプロセスに参加をすることの重要性を述べられているのを聞き、日本に欠けているものは、そのような当事者の参加だと思いました。

決定のプロセスから排除されることによって多くの人があきらめ、泣き寝入り・・・すなわち人権が損なわれている事態が、見過ごされ、ないものにされ、社会を息苦しく、生きにくく、いびつなものにしているのではと思いました。

そして、本書をじっくりと読み、ダマリー国連特別報告者は、ただただ国連人権システムの原則を繰り返していたのだと気がつきました。すなわち、「参加、差別の禁止、説明責任、透明性などの『人権の視点』をそれぞれの政策や運営、活動に取り入れる」


原発事故により避難を余儀なくされ国内避難民となった方たちは、

・放射能汚染や自身の被ばくの情報も与えられず、 ←(透明性の欠如

・政府による決定について十分な説明も受けず、  ← (説明責任の欠如

・避難指示区域と区域外からの避難者として区別され、政府や自治体からの支援は平等に得られず、← (差別的扱い

・何よりも決定的なことは、それらの政策決定に当事者としてまったく参加できなかった。 ←(参加の欠如


これは、国際標準の人権の視点がまったく取り入れられていない状態であり、日本政府は国内避難民の人権をないがしろにしているということです。これは放置されていてはならず、国際人権標準に沿うように、政府は改善する義務があるのです


「失われた30年」で、他国は経済的に順調に成長しましたが、日本は停滞しています。人権でも同じ状況にあるということを、私も本書を読んで実感しました。

世界は成長を続けている・・・日本の政府、議員、官僚、経済界、そして司法、三権のすべてに関わっている人たち、そして国民に、一刻も早く気づいてほしいと思います。


再びcoffee break


特別報告者について

訪日調査を実施した特別報告者(例)

健康への権利に関する特別報告者(2012年)

表現の自由に関する特別報告者(2016年)

国内避難民の人権に関する特別報告者(2022年)(p.52)

しかし、キャンセルや、訪日要請が放置されていることも多いのが日本の現状です。

「2017年8月には居住の権利に関する特別報告者の訪日調査が決まっていたのに、日本政府は『内閣改造』という調査とは直接関係のない理由でキャンセルした。(中略)ほかにも複数の特別報告者が日本政府に要請しながら放置されている。」(p.74)


そして、藤田氏は国連報告者の重要性を訴えます。


特別報告者を尊重し協力しないと、国連憲章に反することになる。その意見や勧告は、日本も批准し実施義務を負う人権条約などで説明される国際人権基準に基づいたものだ。つまり、特別報告者は国際法を代表しているといえる。そして2006年にアナン国連事務総長は特別報告者を「国連人権機関の王冠に載せる宝石」と評したが、それくらい重要な役割を担っている。(p.51-52 )

「特別報告者は政治的機関である人権理事会を代表するものではなく、政治性がない個人資格の独立した専門家だからこそ、その意見は慎重に検討されなければならないのだ。」(p. 87)

国連の人権システムでは、政府と特別報告者や人権条約機関との建設的対話がきわめて重要なのだ。そういう対話を重ねるなら、その国の法律や制度も国際人権基準に沿った良いものになっていくはずだ。」(pp.91-92)


上記の藤田氏の訴えも届かず、

政府のみならず、外務省も下記の見解を掲載し、国連特別報告者を軽視しているようです。

2023年1月現在の外務省のHPより:

「特別報告者は、特定の国の状況又は特定の人権に関するテーマに関し調査報告を行うために、人権理事会から個人の資格で任命された独立の専門家であり、同専門家の見解は、国連又はその機関である人権理事会としての見解ではない。


日本政府が国連特別報告者および国連人権システムを無視するような態度を続けることは、日本にとっても、日本国民にとっても非常に問題だと思います。


最後に

「特別報告者や条約機関は誰のために勧告を書くのか。ハント教授は『建前は加盟国政府に向けてだが、実質的にはその国の市民や野党がそれを使って政府に実施させるために書いているのだ』」(p. 94)


日本国憲法にも、「基本的人権の尊重」だけでなく、第十二条 「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」とあります。私たち国民が、しっかりと日本国憲法と国際人権を認識し、政府に人権の尊重に沿った政策、決定を実施するよう動かし、私たちの人権を守る、すなわち、泣き寝入りして、政府になかったことにさせないよう、不断の努力をしていかなければならないのだと強く思います。



『武器としての国際人権』には、「武器」として他国で使用される具体的事例も多々紹介されていますので、ぜひ一読し、行動の参考にしてください。


関連サイト:

国内避難民の人権に関する国連特別報告者による訪日調査を実現する会

https://ceciliajimenezamary.livedoor.blog/


ブログの読破、お疲れ様でした。
お腹が減ったかも?

追記:小橋かおる関連ブログ

「7世代に思いをはせて」
【第768号】人権は誰にでもある
https://nanasedai.blogspot.com/2023/07/768.html

「7世代に思いをはせて」
【第769号】ふたつの報告書:IAEAと国連特別報告者
https://nanasedai.blogspot.com/2023/07/769iaea.html


追記2:とても参考になる講演会の動画がありましたので、リンクします。

講演:宇都宮大学国際学部教授・清水奈名子さん    「国際人権法と避難者の権利      ――国内避難民特別報告者による勧告と原発避難者立退き訴訟」
@「国際人権法の専門家が鋭く問う 講演とつどい」2023年8月27日(日)
https://www.youtube.com/watch?v=w5em59VxbFI

上記の講演が簡潔にまとめられた記事です。

【原発避難者から住まいを奪うな】「福島県は1日も早く〝追い出し訴訟〟取り下げて」清水奈名子教授が仙台で講演 「日本政府の人権侵害を世界が注視している」民の声新聞 2023/08/28http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-741.html



2022/09/02

 

『選挙制を疑う』を読んで~抽選制代議制の可能性~

 


選挙制はそれほど民主主義的?


選挙に当選して国会、県会、市町村会の議員となった人たちは、はたして一般市民を代表するような意見を述べているだろうか?どれほど一般市民のためになる法律や制度を作ってくれているだろう?彼らは私たちとはまったく違う世界に住んでいるようだ・・・そんな思いを持つ人は多いのではないでしょうか?


選挙制度は、民主主義国には欠かせない制度のように扱われているけれど、1週間や2週間の選挙期間中に、どこの誰とも知らず、会ったこともない人たちの中から選んで投票するというこの制度は、いったい何だろう?


私は以前から、選挙制度に懐疑的で、15年前ほどに「抽選制」が古代ギリシアだけでなく、現代でも実現の可能性があるという言説を読んで以来、いつも「抽選制代議士制」が頭のどこかに引っかかっていたのですが、この夏、その私のこれまでの引っかかりに応えてくれるような書籍『選挙制を疑う』(2019年刊:

https://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-60358-7.html)に出会いました。

以下に、とても印象深かったカ所を抜粋引用します。(引用カ所は青字にします。)



ガンジーの言葉だとされることも少なくないが、正しくは中央アフリカから伝わった名言がある。「私のために行ったことでも、私に相談しなかったのであれば、私の意思に反して行ったことになる。」要するにこれが今日の選挙型代議制民主主義の悲劇であろう。 (p.115)


選挙型代議制を民主主義の悲劇と呼ぶ理由は、下記になるでしょう。



 我が選挙原理主義の病因を総括しよう。あらゆる政治的道具のなかで最も民主的である抽選制は、18世紀に選挙制に敗北を喫せざるをえなかった。だが、選挙制は、そもそも民主主義の道具であるとは決して見なされておらず、新興の非世襲貴族が権力を握るための手続きであると見なされていた。選挙権の拡大によって、この貴族主義的手続きは抜本的に民主化されたが、統治者と非統治者、政治家と有権者という根本的で寡頭政治的な区別がなくなったわけではない。エイブラハム・リンカーンの期待に反して、選挙制民主主義は依然として、人民による政治であるよりも人民のための政治であり続けた。常に<上>と<下>、政府と臣民が存在していたのである。投票は、個々人を<上>に持ち上げるための業務用エレベーターになった。その結果、選挙による民主主義は、国民みずからが選択した封建制、人々が同意した国内植民地主義のような形になっている。(p.110)



ここでは抜粋しませんが、特に、アメリカ合衆国の建国時や、フランス革命後と言った、いわゆる民主主義が形成されたとする時期に、抽選制がまったく議論されず、新たな寡頭政治を始めるために選挙制が導入されていった推移の解説は、非常に説得力がありました。


とは言え、抽選制など、実現可能性はあるのか?と多くの方は疑念を持つでしょう。

当書では、世界での抽選制議員院による熟議型議会の実例(カナダ、オランダ、アイスランド、アイルランド)も紹介されています。



世界での抽選制議員院の諸提案


それらの実践例の詳細は割愛しますが、その実践例を踏まえた、議会における熟議型意思決定のための抽選制議員院の諸提案(p.142-143:図表5)が紹介されていますので、それらの提案の共通項について、引用します。


第一に、いずれの案も、フランス、イギリス、アメリカ、EUといった大規模な国家や地域に関わっている。抽選制が都市国家やミニ国家にしかそぐわないとされた時代は過ぎ去っている。

第二に、かなりの見解の相違があるにもかかわらず、任期(数年間がベスト)や報酬(高い報酬がベスト)についてはコンセンサスが見られる。

第三に、すでに議会でなされているように、能力の個人差は、教育や専門家の支援によって克服されなければならないとされる。

第四に、抽選制議院は選挙制議院から分離しているとは見なされておらず、選挙制議院を補完するものと見なされている。

第五に、抽選制が検討されているのは立法機関の一院だけである。(p.147)



日本の国会に置き換えると、衆議院は選挙制代議士制のまま、参議院は抽選制代議士制を採用するという形が考えられます。

この一院だけを抽選制にするメリットは?



一院を抽選制にすると・・・


 抽選で選出された市民には、職業政治家のような専門知識はないかもしれない。だが、別のものがある。すなわち自由である。詰まるところ、当選する必要もなければ、再選する必要もないのである。

 だからこそ、選挙で選出された市民だけでなく、抽選で選出された市民にも立法権を委ねることが、民主主義の現段階で重要になるのである。(中略)第二院は、長期的な公共の利益を一貫して優先する議院であり、市民が文字通り話し合いに参加できる市民の議院である。彼らがその他の市民よりも優秀であるからではなく、置かれた状況ゆえにポテンシャルが引きだされるからである。

 民主主義とは、我々の社会の特に優れた人々による統治ではない。そんなものは、たとえ選挙で選出されたとしても貴族政である。選挙できたとしても、ためらうことなくそう呼ぼうではないか。これにたいして真の民主主義は、多様な声に発言を許すことで初めて花開くのである。(p.162)



「真の民主主義は、多様な声に発言を許す」・・・現在の日本の国会や地方議会のように中高年の男性ばかりという多様性からかけ離れた集団による意思決定が、どれほど社会を生きづらく停滞させるか・・・それを実感する日々ですので、ほんとうに多様な声に発言を許すことの重要性を感じざるを得ません。


国会や地方議会は多様性、抽選制からはほど遠いですが、日本でも、実はすでに抽選制による市民の声を活かす取り組みが行われています。最後に、私が検索して見つけた日本の例をご紹介します。


日本での抽選制議会の取り組み例 (年代の新しいもの順)

特に、気候変動危機に関しての取り組みが顕著です。

2022年8月から開催中の取り組みです

 ↓

■武蔵野市気候市民会議

http://www.city.musashino.lg.jp/kurashi_guide/shouene_eco/1036360/index.html

「気候市民会議とは?

 無作為抽出などによって選ばれた市民が、気候変動対策について話し合う会議です。その開催は欧州各国で広がりを見せており、日本国内でも開催されています。

 本市では、気候変動の現状に詳しい講師によるレクチャーを踏まえた上で、地球温暖化に対する目指すべきまちの姿や、一人ひとりの関心と行動を変えていくための取り組みについて市民目線で話し合います。」(上記武蔵野市サイトより抜粋)


若者が気候市民会議の推進に動いています。

 ↓

■「気候市民会議の実現を」若者グループが山口環境相に要望 温暖化対策強化へ意見交換

東京新聞 2022年6月15日 https://www.tokyo-np.co.jp/article/183591


フランスでの気候市民会議の詳細を伝える記事。

2018年の札幌の気候市民会議の様子も伝えています。

 ↓

■<民主主義のあした>環境政策にもの申す素人集団 

フランスの「くじ引き市民会議」に世界が注目

東京新聞 2021年5月3日 https://www.tokyo-np.co.jp/article/102029



長期的課題である気候危機について、抽選制市民会議が盛んですが、この体験が成功例となり、地方議会の一部にでも取り入れられ、最終的には参議院にも広がり、多様な人々の熟議による意思決定が増えていくことを願います。



追記:

日本でも実は10年以上前から抽選制による市民の意見の活用が試みられていたことを伝える記事です。

 ↓

■<民主主義のあした>市民の意見を熟成させる「討論型世論調査」 

議会制民主主義を補完するツールに

東京新聞 2021年5月3日 

https://www.tokyo-np.co.jp/article/102030

「くじ引きで選ばれた市民らが討論を重ね、意識がどう変わるかを調べる「討論型世論調査(DP)」も、議会制民主主義を補完する取り組みの1つだ。欧米では1990年代から活用され、日本でも2009年以降、国や神奈川県、藤沢市などが計7回実施した。

(中略)

旧民主党政権が12年に「原発ゼロ」の政府方針を決めた際にも、DPはパブリックコメントや意見聴取会と合わせて重要な判断材料となった。政府は12年、30年の原発比率について「0%」「15%」「20~25%」の3案を提示。無作為に選ばれた男女285人が議論を重ねた結果、0%案を支持する人は32%から46%に増えた。

 しかし12年末の衆院選で民主党が下野すると、原発ゼロ方針は立ち消えとなった。国としてのDPも以後、開催されていない。」



2012年の夏には、抽選制のDP以外にも、日本各地で「国民的議論」として、国家戦略室の職員が市民たちと意見交換するという場も設けられていました。私も神戸でそのような意見交換会を仲間たちと開催し、とても建設的な議論を国家戦略室の職員と交わしたことを覚えています。そして、その秋に「2030年代に脱原発」と当時の民主党政権は、なんとか国民的議論を反映させたものを発表しましたが、2012年の冬の総選挙で安倍政権が返り咲くと、そのような国民的議論の結果は、まったく一蹴されてしまったのでした。


あの時、熟議の後に形成された世論に沿って、日本が脱原発を決め、再生可能エネルギーを推進していたら、現在の日本はここまで衰退していなかったのではないかと、私は悔やんでいます。


2012年に仲間と神戸で開催した政府との意見交換会




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