2025/06/24
「ビジネスと人権」から考える「有害化学物質」PFAS汚染の解決法
私の住む関西が、(ダイキン淀川製作所が主要な汚染源となって)、発がん性物質であるPFOA(PFASの一種)にひどく汚染されていることに気がついた2023年から、その汚染の浄化やさらなる汚染の阻止を、どのようにすればできるのか、模索する日々が続いてきます。
この問題の解決のために、国も地方行政も、大手メディアも、ほぼ動かないなかで、一筋の光のように見えたのが、2023年に日本に調査にやってきた「ビジネスと人権」作業部会でした。「ビジネスと人権」とは、国連が定めた、企業活動と人権の関係についての人権尊重の責任を明確にするグローバルな枠組みで、調査官たちはダイキン淀川製作所のある摂津市の住民とも面談し、調査終了後の記者会見で以下のように述べました。
「不安を感じるステークホルダー(製作所周辺住民)は、地方自治体も政府も、水道水中のこれら永遠に残る化学物質(PFAS)の存在について、十分な対策を講じていないとして、水と土壌のサンプリング調査や健康に対する権利への影響に関するモニタリングを求めています」
「私たちとしては、UNGP(ビジネスと人権に関する指導原則)と汚染者負担の原則に従い、この問題に取り組む責任が事業者にあることを強調したいと思います」*1
この作業部会の動きを知って以来、調査で来日された作業部会のYeophantong氏のオンライン・セミナーなどに参加するようになりました。何度かダイキンによるPFAS汚染についても質問しましたが、そのたびに、
「人々の健康や人権、環境より利益を優先する企業が、今後国際的なサプライチェーンで生き残るのは難しい」と強調され*2、「ビジネスと人権」のアプローチが、関西のPFAS汚染の元を絶ち、また、日本社会に蔓延する「人々の健康や環境よりも企業利益」という古い価値観を変えることができるのではないかと思いました。
今月、この「ビジネスと人権」を具体的にどのようにPFAS問題の解決に活用できるのかを考えるために、2冊ほど書籍を読みましたので、重要と思える部分をまとめておきます。
以下、緑字は引用を表します。
『「ビジネスと人権」基本から実践まで』塚田智弘著 2024年刊 より
「国際的に認められた人権」と企業が及ぼす負の影響の例
・社会権規約第11条(本条は、相当な生活水準についての権利:相当な食糧、衣類および住居を含む相当な生活水準、ならびに生活条件の不断の改善についての権利を保障する。)
↓
企業活動は、地域の給水の汚染や過度な使用により、水についての権利を人々が享受することを著しく妨げる場合、水についての権利に影響を及ぼすことになる。(p.39)
・社会権規約第12条(健康についての権利:本条は、到達可能な最高水準の身体および精神の健康についての権利を保障している。)
↓
採取会社や化学会社など、その活動から汚染リスクが特に大きい部門の企業は、汚染が労働者および近隣コミュニティのメンバーの健康に関する権利に負の影響を及ぼさないことを確実にするために実施している方針および制度について、厳重な精査を常に受ける立場にある。(p.40)
このように、企業活動による環境破壊を通じて人権が脅かされることのないよう、その防止や軽減のための対応が求められているのです。
また、実際に生じてしまった負の影響については救済を提供していくものである点から、被害者はライツホルダー(正確な定義では、人権に負の影響を受ける<可能性のある>者)という語も用いられ、ステークホルダー(利害関係者)の中でも、特に重視されます。
では、その重視されるべきライツホルダーと企業はどうかかわるのでしょう?
それは、ステークホルダーエンゲージメントと呼ばれます。
以下、『「人」から考える「ビジネスと人権」』湯川雄介著 2024年刊 より
「ビジネスと人権」対応において、「一丁目一番地」ともいわれるのが、ステークホルダーエンゲージメント。すなわち
人権リスクの特定と評価、それへの対処の追跡調査、そして苦情処理メカニズムの過程において、ステークホルダーとの「有意義な協議」、「フィードバックの活用」、「情報提供」などが求められることが、その出発点。(p.271)
企業の人権尊重責任は、企業活動による個人の人権への負の影響を予防、軽減、是正することです。そのためには、負の影響を受ける個人(ライツホルダー)本人の話を聞くと都が一番確実ですし、それなくしては人権尊重責任を果たすための諸々の行為を適切に行うことはできないでしょう。(p.272)
そして、このプロセスは、必須であり、これを省略することは「あり得ない」ぐらいの意識が必要です。(p.274)
以上、ダイキンのPFAS汚染問題の解決に重要と思えるコンセプトを紹介しました。
これに則ると、まずは、企業側は、ライツホルダーである周辺住民をはじめ、ステークホルダーに含まれる「人権擁護者」(住民のために正当に問題を提起する弁護士やNGO)との協議、対話、情報提供を持続的に続けていくことが出発点です。そこから是正、救済へと向かうプロセスを構築する。このステークホルダーエンゲージメントを行えない企業は、「ビジネスと人権」の指導原則から逸脱し、人権リスクを引き起こしている企業として、サプライチェーンから外されても不思議はないでしょう(例えば、A社がこのような企業と取引することは「直接関連する」負の影響となり、A社も対応を求められます。)
「人々の健康や人権、環境より利益を優先する企業が、今後国際的なサプライチェーンで生き残るのは難しい」のです。
私たちステークホルダーは、この「ビジネスと人権」の指導原則と汚染者負担の原則に則って、PFAS汚染による環境破壊の防止、軽減、是正、そして救済を、汚染者である企業に求めていきましょう。
関連サイト
*1 国連調査団「汚染者負担の原則に基づき、事業者が責任を」/
記者会見開きダイキンを牽制/国連人権委で報告へ
TANSA 「公害PFOA」2023年08月04日
https://tansajp.org/investigativejournal/10148/
*2 東京へ、ジュネーブへ
7世代に思いをはせて第820号 2024年6月29日
https://nanasedai.blogspot.com/2024/06/820.html
「ビジネスと人権」作業部会の2023年調査報告書や、指導原則など、有益な情報が掲載されているサイト
■ビジネスと人権 ヒューライツ大阪
2025/06/10
PFAS規制:日本と米国の大きな差の原因は?
毎週土曜日に発行している拙メールマガジン「7世代に思いをはせて」の868号(2025/5/31)で、国連特別報告者によるPFAS問題についての日本政府への書簡と日本政府の返答のリンクを掲載していました。それを読んだ「ミリタリーポイズンズ」ディレクターで、PFAS問題に詳しいパット・エルダーさんが、即座に日本への警鐘の文書を送ってきてくれました。とても重要な情報とメッセージですので、パットさんの了解の元、拙日本語訳を以下に掲載いたします。
++ 日本と米国の食品および飲料水のPFAS規制 ++
パット・エルダー 2025年6月4日
日本では、PFOSの1日当たりの耐容摂取量(TDI)は体重1kgあたり20ng(ナノグラム)で、PFOAについても同様です。
米国環境保護庁(EPA)は、PFOSとPFOAの飲料水中の最大汚染レベル(MCL)を設定する際、参照用量(RfD)を使用しています。機能的には、TDIとRfDは同じものです。どちらも、生涯にわたって毎日摂取しても健康リスクがない毒素の量を推定します。
米国のPFOSのRfDは0.1 ng/kg/日です。
米国のPFOAのRfDは0.03
ng/kg/日です。
表:概要比較
発がん性物質 日本のTDI 米国EPAのRfD
PFOS
20
ng/kg/日 0.1 ng/kg/日
PFOA 20 ng/kg/日 0.03 ng/kg/日
============================
日本におけるPFOSの閾(しきい)値は米国よりも200倍高く、PFOAの濃度は米国値の666倍です。日本は説明を要します。
70 kg(訳注:アメリカ人の平均体重)の人が1日に摂取する量はどれくらいでしょうか?
日本
PFOA ― 70 kg × 20
ng/kg/日 = 1,400 ナノグラム/日
PFOS ― 70 kg × 20
ng/kg/日 = 1,400 ナノグラム/日
米国
PFOA ― 70 kg ×
0.03 ng/kg/日 = 2.1 ナノグラム/日
PFOS ― 70 kg × 0.1
ng/kg/日 = 7 ナノグラム/日
米国の多くの科学者は、上記の発がん物質のどの量も安全ではないと主張しています!6年前の記事を参照すると、
PFOAの飲用水中の濃度が0.1ナノグラム/L以下でも、膵がんとの関連性が指摘されています。
日本における膵がんの発生率、有病率、死亡率がアジアで最も高いことは驚くべきことではありません。*
慢性腎臓病もPFOAと密接に関連しています。複数の地域で実施されたスクリーニング検査に基づく研究によると、日本は世界中で最も高い慢性腎臓病の有病率を有しています。**
PFASへの曝露は女性の生殖能力を最大40%低下させる可能性があることが、マウントサイナイの環境保健科学コアセンターの研究者によって判明しました。本日の日本のニュースの見出しは、日本の極めて低い出生率を嘆いていますが、日本においては、PFASと生殖能力を結びつけることは公には受け入れられません。
日本のTDI(耐容一日摂取量)と米国のRfD(参照用量)の大きな乖離は、日本政府と企業の上層部における、知的誠実さと成熟度の欠如に起因しています。
米国は、PFASが極微量で免疫抑制、発達障害、甲状腺機能障害と関連するという衝撃的な最近の研究を根拠にしています。一方、日本は、関連する疾患や障害を浮き彫りにしない、より古いデータに依拠することを好んでいるようです。
米国では、PFASへの対応において、大きな公共の圧力、政治的なロビイング、訴訟が起きていますが、日本の人々のPFASへの反応は弱いです。警鐘は鳴っていません。PFAS問題の存在すらほとんど認識されていません!日本は、公衆衛生の問題を厄介扱いし、産業の利益を優先しています。
これは大きな悲劇です。多くの人々の健康が、開かれた率直な対話にかかっています。
= 根拠となる論文 =
*Global trends in pancreas cancer among Asia-Pacific population
J
Gastrointest Oncol. 2021 Jul;12(Suppl 2):S374–S386.
**Chronic Kidney Disease in Japan
Kunitoshi
Iseki Internal Medicine/Volume 47 (2008) Issue 8 Pages 681-689
この2本の論文を含め、当該文書のリンクはすべて英文のサイトです。
++ ++ ++
いかがでしょう?最後のメッセージは、私たち日本の市民への貴重な警鐘と激励だと、私は思いました。私たちの健康を守るために、企業の利益にないがしろにされないために、私たちは、率直な対話を要求していかなければならないと、強く思いました。
国連特別報告者も、いつも「対話」を強調されます。それによって政策決定への当事者の参加という大切な人権のひとつが守られるのです。政府、行政、企業との対話を求めて、動いていこうと思います。
最後に、感謝を込めて、パットさんとつながった2024年の神戸での学習会のチラシを掲載します。私は司会を務めました。
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チラシ表 |
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チラシ裏 |
2025/01/03
友だちを助けるための国際人権法と民主主義
民主主義とは何だろう?
昨年の兵庫県知事選を県民として体験し、いろいろ考えた2ヶ月間でしたが、ふと図書館で手にした書籍が、大切なことを思い出させてくれたので、少し紹介します。
「友だちを助けるための国際人権法入門」申惠丰著 影書房2020年刊
もしもあなたの友だちが、奨学金ローンに苦しむ学生だったら?性暴力を受けた女性だったら?難民申請中なのに入管施設に収容されたアフガニスタン人だったら?
具体的な事例を元に、国際人権の観点から、国際人権法を説明し、解決の可能性を説明してくれている本ですが、私が一番「そうだよね!」と気付かされたことは、
「友だちを助けるため」という視点です。
友だちの困りごとは、自分の困りごとではないことが多いでしょう。
それが、もしも多くの人が困っていることならば、社会問題としてメディアも頻繁に取り上げ、国会でも取り上げられ、選挙でも争点になって、解決策のための制度ができたり、法改正がされるかもしれないです。
でも、その問題で困っている人が少数だったら?
大多数の人たちは気がつかないまま?
気がついても「関係ないし」?
今の制度が変わったら「めんどうだし」?
でも、友だちが困っていたら?
なんとかならないかな?と思いませんか?
民意を反映させる政治が民主主義ですが、多数決で決まってしまう民意の危うさを考えた時、多数決の「欠陥」を補い、民主主義を機能させるために大切な視点を思い出させてくれたのがこの本です。
小学校で習いましたよね?
「民主主義では、少数意見を大切にしよう。話し合おう。」って。
それは、少数の意見、少数の人たちの困りごと、少数の人たちが直面している問題でも、その人たちが自分らしく生きられない、能力を発揮できない状態になっていたら、その問題を取り除くために話し合って、皆で努力していこうということではないでしょうか?
それは、友だちへの「おもいやり」だけではなく、国や自治体に解決のために働きかけていくことではないでしょうか?
なぜなら国や自治体は、それを義務として国際人権法で求められているのですから。
「人権:生まれてきた人間すべてに対して、その人が能力を発揮できるように、政府はそれを助ける義務がある。その助けを要求する権利が人権。人権は誰にでもある。」
民意という、多数決や大きな声が牛耳ってしまいがちな民主主義の危うさを補うものが、「人権」なのだなぁと、改めてその大切さに気付きました。
日本ではあまり知られていなことですが、民主主義を機能させるために大切な「人権とは何か」を人々に知らせ、人権を守る役割も兼ねている「国内人権機関」や、人権が侵害されて、最高裁まで闘っても改善されない場合に救済を求めることのできる「個人通報制度」が、日本にはありません。(世界にはすでに120もの国内人権機関があり、G7のうち日本を除くすべての国が、またOECD加盟国のほとんどが何らかの個人通報制度を導入しています。)
日本の私たちは、人権とは何かを教えられる機会もなく、人権が侵害されていても気がつかない状態にあり、気がついて声をあげた人がいても、何が問題なのか理解されず、よって世論に支えられることもなく、法改正も期待できず、裁判などでも救済されず、他の国々の住民のように国際法に救済を求めることもできない・・・。
国際水準の人権から大きく遅れた状況にある日本ですが、
まずは、自分の困りごとではないけれど、「友だちを助けるためにはどうしたらいいんだろう?そのために国際人権法があるんだ!」と教えてくれる書籍に出会えたことに感謝します。
学生向けに書かれた読みやすい本です。ぜひ、目次だけでもご覧ください。
~ 関連サイト ~
■日本に国家(国内)人権機関を
国際人権ひろば No.172(2023年11月発行号)
https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section4/2023/11/post-201972.html
■個人通報制度の導入を目指して
国際人権ひろば No.169(2023年05月発行号)
https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section4/2023/05/post-201957.html
~ 関連ブログ ~
国際人権についての基本的理解をまとめました。
■『武器としての国際人権』を読んで・・「失われた30年」
Words for Peace 2023/1/03
http://flowersandbombs.blogspot.com/2023/01/
コンピュータープロパガンダに操作させる民主主義の危うさについて。
■『操作される現実』を読んで
Words for Peace 2024/12/11
https://flowersandbombs.blogspot.com/2024/12/
2024/12/11
『操作される現実』を読んで
当初の予想に反して(厳密に表現すると選挙期間中の2週間ほどで世論が一変したことによって)、失職した前兵庫県知事が再び当選するという事態を兵庫県民として目の当たりにし、非常に当惑していた時に出会った書籍『操作される現実』(サミュエル・ウーリー著 2020年刊行)について、紹介します。
体験するまでヒトゴトでしたが、この現象は世界的に2011年ごろから始まり、2016年の米大統領選挙から顕著になっており、それがとうとう兵庫県でも起きたということを改めて実感しました。書籍にあったその実態と、今後と、対策を簡単に記します。
*『操作される現実』からの引用部分は綠色で表示します。
1「コンピューター・プロパガンダ」の実態
著者のウーリーは、現在行われているソーシャルメディア(SNS)を使った煽動行為を「コンピューター・プロパガンダ」と呼びます。2016年の米大統領選では、フェイスブックやツイッター(現X)のような個人情報を大量に保持しているSNS企業が、広告主がターゲットにする属性の個人情報を販売することによって、ターゲットにピンポイントに広告主の意図する記事や動画をオンライン上で見せることを可能にし、またそれらのコンテンツが人気があるように見せる「ボット(決められた作業を自動で繰り返すプログラム)」が、「現実を壊した」と紹介されています。
・ソーシャルメディア・ボットとはどのように使われているのか?
使用されているボットは簡単に構築し起動できるもので、行われるコミュニケーションも単純なものだった。同じ攻撃を何度も繰り返し、使用するハッシュタグも変わらなかった。本当の問題は、ボットを開発した人々と、それにお金を払った人々だった。彼らは狡猾にも、ボットを使うことで、オンライン上に大規模な運動が起きているかのような錯覚を起こさせるというアイデアを思いついたのである。大量のボットを使ってハッシュタグの使用回数を急上昇させれば、ツイッターのハッシュタグのトレンドを捏造できることを発見したのは、人間だった。pp.26-27
政治ボットと、人間が運営するサイバー軍が、重要な政治的イベントにおいてプロパガンダを推進し、特定の意見を広め、反対派がソーシャルメディアを介して団結する力を弱めた。選挙期間中、オンライン上のコミュニケーションを大幅に歪めた者が、僅差で勝利した。また、政治が危機に瀕しているという偽情報が、驚異的な速度で拡散された。p.74
(2014年にブラジル総選挙でプロパガンダ・アカウントを運営していた)「アクティベーター」の言葉
「どんな候補者であれ、報酬を得て支援する以上は、その候補者を賞賛し、反対派を攻撃し、時には他の偽アカウントと協力して、話題のトピックをつくり上げます。」
「私たちは一般の人々には反論しきれないほど大量のメッセージを投稿しているので、それで【議論に】勝つこともできますし、あるいは本当の人々、つまり現実の活動家たちに訴えて、私たちのために戦うよう仕向けるという戦術を取ることもできます。」p.162
・動画について
動画は、その複数の感覚に訴える性質によって、真実をさまざまな形に曲解させる強力なツールになる。研究によれば、動画は文章よりも記憶に残りやすいため、アイデアを広める際には効果的で、より有利なツールとなる。p.216
2 今後のコンピューター・プロパガンダのツール
上記のツールはまだ単純で機械的なものですが、世論を歪めるには十分効果的でした。今後、AIによる「人間らしいコミュニケーション可能な」ボットや、本物と見分けがつかないようなフェイク動画の登場、そしてVRのような没入型のメディアが、コンピューター・プロパガンダに利用されると、一体どうなってしまうのでしょう?
今後の利用されるであろうツールの紹介は、4,5,6章で詳しく述べられているので、気になる方はそちらをお読みください。
3 コンピュータ・プロパガンダへの対策
・デジタル詐欺やプロパガンダに対する早期警告システムの必要性
特にソーシャルボットや自動化されたシステムによって実行されている場合で、それは容易に追跡することが可能だ。(中略)複数のデータの流れを集約し、そのデータを透明化して、パターンを明らかにし、最高の分析と計算ツールを用いて、変化のシグナルを検出するのです。p.326
・新しい法律では、ソーシャルメディア企業が、そうしたグループ(もっとも脆弱な立場にあるマイノリティの人々や影響を受けやすい若者や高齢者)をターゲットにして政治的な誤報や虚偽を掲載するような広告を販売することを、より明確に違法とするべきだ。p.341
・選挙運動通信(選挙期間やその前の時期に、特定の候補者に言及する形で行われる放送などのコンテンツ)の定義を拡大して、オンライン広告も含まれるようにし(中略)、選挙運動通信の定義を満たすオンライン広告は規制されるべきである。p.359
例:広告内において、「この広告の料金は~が支払っています」という情報を開示する義務を、デジタル広告にも適用する。p.360
最後に、著者からのメッセージ
「テクノロジーは民主主義と人権の価値を踏まえているべきだと、私は考えている。これから登場するさまざまなデバイスが、真実をさらに損なうことのないよう、私たちが作るツールの中で平等と自由が最優先されなければならない。」p.17
著者紹介:サミュエル・ウーリー=オックスフォード・インターネット研究所のコンピューター・プロパガンダ・プロジェクトを主宰しディレクターを務めた研究者
追記:コンピューター・プロパガンダの実例
・日本の総選挙について
「朝日新聞が2018年に報じたところによると、ドイツのエアランゲン・ニュルンベルク大学の研究チームが、14年に行われた日本の総選挙を対象に、投票日の前後に54万件のツイートを分析した。するとツイートの8割がボット等によるもので、その多くが当時の安倍政権を支持するメッセージを拡散するものだったという。」p.370
・ルーマニアの大統領選挙のニュース
■ルーマニア大統領選、ロシア介入やSNS不正操作で憲法裁判所が無効判断
JETROビジネス短信 2024年12月10日
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/12/5539b706af134586.html
「ルーマニア憲法裁判所は12月6日、11月24日に実施された大統領選挙を無効とする判断を示した。同裁判所の判例報告によると、選挙では候補者間の機会均等をゆがめる行為として、テクノロジーによる不正操作や、未申告の資金源からの選挙運動資金の提供、プロパガンダや偽の情報を認めた。SNSプラットフォームのアルゴリズムを利用して特定の候補者の露出が増えると、他の候補者の露出が減るような操作も確認され、明らかな不平等もみられた。」
・兵庫県知事選で起きたこと
■斎藤知事1期目の公約達成率は27.7%
出直し選、SNSで「達成率98%」の誤情報広がる
神戸新聞NEXT 2024/11/28
https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202411/0018391068.shtml
■なぜ若者はNHK党の「迷惑街宣とデマ」を支持したのか
「斎藤知事復活」で広がる"選挙ハック"という闇ビジネス
President Online 2024/11/25
https://news.yahoo.co.jp/articles/6e8320b6248272d4ae13b7f80569777d5fa298ea
「選挙ハックはそれで儲かる仕組みになり、ガセネタでも過激な発言でもクリックになり動画が再生されればそれを流した人の利益になるビジネスモデルである以上、プラットフォーム事業者も広告利益になり悪用する陣営と共犯関係になり得る」
重要な提言です。
■〈社説〉兵庫県知事選の混迷 ネットの功罪見つめる時
信州毎日新聞DIGITAL 2024/12/02
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024120200104
「選挙で収益を得ることができる広告の仕組みを改善できないか。選挙中の関連動画には広告を付けられないようにすることを検討するべきだ。
既存メディアの役割も問われる。紙面や放送という従来の枠組みだけでなく、選挙期間中にSNSの場でファクトチェックに積極的に取り組む必要がある。」
2024/08/15
『人間の証明 拘留226日と私の生存権について』を読んで
「人質司法」をご存じですか?
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ぜひお読みください。 なぜ月が表紙に使われているのか、 人質司法でどれほど生が蝕まれるのか 月のエピソードが語っています。 |
警察や検察などの捜査当局や裁判所が、「そのような犯罪を私はやっていない」と罪を否認したり、黙秘している被疑者や被告人を、長期間拘留する(人質にする)ことで自白等を強要しうる日本の刑事司法制度は、「人質司法」として批判されています。
私も、否認すると延々と拘置所に留められて、社会生活を潰されかねないという事実は以前から聞いており(実際そのような被害に遭った同業者の大学教員も)、この人質司法は、えん罪の温床であり、日本の司法による人権蹂躙だと思ってはいました。
しかし、人質司法による人権侵害は想像以上の酷さであることを、先日、角川歴彦さんが人質司法違憲訴訟を提訴した時の記者会見を拝見し、また今回、日本と世界に向けて、日本語と英語で同時発売された『人間の証明~拘留226日と私の生存権について』を読み、思い知りました。この人質司法の犠牲者になるのは、何も角川さんのように特捜がらみのような重大事件のみならず、痴漢や万引など日常的な犯罪の被疑者になってしまっても、同じ手法で犠牲になってしまうのです。自分の身に降りかかったら・・・と想像しながら読み進めました。(以下、引用文は綠色で示します。)
まず、驚いたのが、被疑者になったとたんに「囚人」扱いになる点です。
有罪が確定するまで無罪として扱われるはずの被疑者・被告人の人権は、日本では当然のように蹂躙されていることが、よくわかりました。
象徴的だなと思ったのは、起訴された角川さんに「これから囚人として扱う」と看守が言い渡したところ。逮捕された瞬間から、さんざん尊厳を踏みにじられる行為(ここでは紹介できないほどの酷い扱いです。原書をお読みください)を強要されてきた角川さんが「え?これまでとどう違うの?」と尋ねると、「何も変わりません」と看守。
起訴はされたが、私は罪が確定して刑罰を受けるために拘置所にいる既決囚ではない。(中略)つまりは完全に犯罪者扱いであり、そこには有罪が確定するまでは無罪として扱われるという刑事司法の基本「無罪推定の原則」はいっさい顧みられていない。(pp.38-39)
すなわち、逮捕された瞬間から、囚人と同様に拘禁され、身体的苦痛を強要され、ひとりの人間としての自由と尊厳を奪い取られて当然という状態が、「私は罪を犯していない」と訴える限り、何ヶ月も続くのです。
拘置所の「単独室」が描写されていましたが、部屋の奥にある洋式トイレには衝立がなく、廊下から丸見えで屈辱的です。また、その奥にある「窓」が異様です。
普通の窓は、室内から外の景色を眺めるために設けられる。いわば98%の自然光と空気を取り込むために工夫する。しかし、ここでは逆に外界と98%遮断するために取り付けられている。(中略)
なぜ本来の機能を持たない窓を設置しているかと言えば、「窓もない非人間的な空間だ」と外部から批判されないためである。人間的空間に見せながら、実は外界と遮断した非人間的な空間。すなわち拘置所の窓は一種のフェイクでありフィクションなのだ。(p.42)
この異様さは、医務室でも際立ちます。
何度も倒れ、拘置所では命をつなげるか覚束ない。何とかここを出られないものか。拘置所の医務室でそんな思いを漏らしたことがある。すると医者が冷ややかに告げた。
「角川さん、あなたは生きている間にはここから出られませんよ。死なないと出られないんです。生きて出られるかどうかは弁護士の腕次第ですよ」
隣にいる刑務官を見ると、無言でうなずいていた。(p.75)
ホラーです。
死を覚悟した角川さんと危機感を持った弁護団は、公判で不利になる様々な点に「同意」するという苦渋の選択をし、これまで却下され続けてきた保釈請求をなんとか通そうとします。
裁判所の決定を待っている時の角川さんの思いが書かれています。
彼ら<検察>はどうしても私を拘置所に閉じ込めておきたかった。体調がさらに悪化しようが、死に瀕しようが、意に介さない。なぜなら最終的に拘留を決めるのは裁判官であり、あくまで意見書を出しただけの検察官は責任を追及されない構図になっているからである。(p.80) < >は小橋による追記
非人間的と批判されないようにフェイクの「窓」を設置し、責任は裁判所だからと、死も意に介さず拘留を続けようとする検察という国家権力。
この検察という機関は、民間のブラック企業や、カルト集団ではなく、国家権力だというところが、この上なく恐ろしい。
公判で不利になる条件をのんでも保釈を選んだ角川さんは、この国家権力と人質司法違憲訴訟で闘う覚悟を決めました。
裁判では、人質司法の存在を資料や証言から明らかにしたうえで、人質司法が憲法で保障された基本的人権を侵害していることを立証していく。
さらに、国際法は、個人の自由権の一つとして「自白の強要からの自由」を保障している。人質司法が国連の自由権規約が禁じる「拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取り扱い」や「人間の尊厳に対する侵害」「恣意的な拘留」「無罪推定原則否定」などに違反することを争点に据える。
人質司法は刑事訴訟法の運用によって常態化してきたが、日本が批准した国際法規は国内法の上位に位置すると考えられている。国際法規に抵触する法律や制度は改正、廃止されなければならないのだ。(p.116)
この人質司法違憲訴訟は、角川さんご自身も何度も言及しているとおり、角川さんにかけられた嫌疑で無罪を主張するためのものではなく、国際法的にも恥ずべき人質司法という人権侵害をなくすためのものです。
海外から「中世のなごり」と批判され、憂慮すらされる日本の司法制度を近代化して、自分と同じ犠牲者を生まないよう死力を尽くす。それは出版人としてメディアに生きた者の責務でもあり、生涯最後の仕事として取り組むに値する。(p.125)
最後に、私が最も怖いと思ったこと。
日本という国は、実のところあらゆる点で、「フェイクの窓」が取り付けられているのではないかということ。なんとなく光が差し込んでいるので窓があるつもりだけれども、開けようと思って近づいて初めて、フェイクだ!開かない!みんな気がついてない!と気付くような、そんな恐ろしさ。
ひとつでもほんものの窓を得るための、人質司法違憲訴訟となることを願って、注目していこうと思います。
= 引用文献 =
『人間の証明 拘留226日と私の生存権について』角川歴彦著 リトルモア 2024年刊
https://littlemore.co.jp/isbn9784898155882
= 関連サイト =
【記者会見動画】「残りの人生をこの裁判に懸けたい」
KADOKAWAの角川歴彦元会長が人質司法で国を提訴
2024年06月27日公開
https://www.videonews.com/press-club/20240627-kadokawa
■角川歴彦さんが提訴した人質司法違憲訴訟の意義
2024年6月27日
https://newspicks.com/topics/criminaljustice/posts/37
まさに、ひとどとじゃない事例が示された、よくわかるサイトです。
↓
■ひとごとじゃないよ「人質司法」
https://innocenceprojectjapan.org/about-hostagejustice
角川さんの事件とは直接関係ありませんが、
人質司法が引き起こしたえん罪事件で取り調べた検事が審判されることに。
少し司法も変わりつつあることを願います。
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■大阪高裁付審判決定、東京の特捜検察にも大きな “衝撃”
「検事取調べ検証」は不可欠 2024年8月13日
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/38a7576ac17a05fd9e675544aa0b5199af919216
2024/06/27
PFAS指標値@日本と私たちの「健康への権利」
6月25日、内閣府食品安全委員会は、発がん性のPFOAを含む有機フッ素化合物(PFAS)の健康影響を評価し、食品や飲料水の1日当たりの摂取許容量をPFOSとPFOAの2物質でそれぞれ、体重1キロ当たり20ナノグラムを指標とする「評価書」を正式決定しました。2月のパブリックコメント(意見公募)では、私も意見を届けるためできる限りのことをしましたが、およそ4000件の「緩すぎる」などの批判がほとんどだった意見は、反映されませんでした。
現在、内閣府食品安全委員会には、パブリックコメントへの回答をかねるようなQ&A(「有機フッ素化合物(PFAS)」評価書に関するQ&A)が掲載されています。そこでとても違和感を持つ点などについて、内閣府食品安全委員会に電話して伝えましたので、当ブログでまとめておきます。
Q10から抜粋
一般に、食品中の汚染物質のリスク管理については、「ALARA (as low as reasonably achievable:合理的に達成可能な限り低く)の原則」に従い、“無理なく到達可能な範囲でできるだけ低くすべき”とされています。
”無理なく到達可能な範囲”とは何でしょうか?「合理的に達成可能な限り」が、なぜ「無理なく」と解釈されているのでしょう?
欧米はPFASの規制を強化しています。今回の指標値は、アメリカ環境保護庁(EPA)の値と比べると、PFOSで200倍、PFOAで666倍も大きく、欧州食品安全機関(EFSA)と比べても64倍です。
なぜ、日本はその強化が「合理的に到達可能」ではないのでしょう?
例えば、EFSAが20年に設定した許容量は、体重1キロ当たり0.63ナノグラム。今回の食品安全委員会の示した許容量のPFOSとPFOAの合計は40ナノグラムで、EFSAの数値の64倍となります。
Q&AのQ8に、このような記述があります。
日本人の食品を通じたPFASの摂取については、限られた情報ではあるものの、2012-14年に農林水産省が実施した調査によれば、通常の一般的な食生活において推定されるヒト1日あたりのPFOSの平均的な摂取量は、0.60 ng/kg体重と1.1 ng/kg体重の間にあること、PFOAの平均的な摂取量は、0.066 ng/kg体重と0.75 ng/kg体重の間にあるとされました。
このデータによれば、日本の私たちは現在の食生活では、ヨーロッパの許容量を超えるPFASを摂取しているわけですが、だからと言って、かけ離れたものではないということがわかります。EFSAの体重1キロ当たり0.63ナノグラムを日本でも設定して、それに向けて対策を講じていくことは、合理的ではないでしょうか?そのような指標値があれば、PFASに高濃度に汚染された地域への重点的な対策も講じやすいのではないでしょうか?
Q6の健康影響では、2物質の摂取に伴う肝機能値指標とコレステロール値上昇、免疫低下、出生体重低下については関連や可能性は否定できないとしています。
それでは、一律の指標値を示すのではなく、妊婦や生殖活動などを考慮し、年齢別などで区別した指標値も可能ではないでしょうか?
最後に、食品安全委員会の担当者にお願いしたことです。
パブリックコメントでも出した意見だとして、今回の評価書からは読み取れない姿勢を確認してもらいました。
「健康への権利」をベースにしてください。
日本は、「健康への権利」を認める数々の国際的人権諸条約を批准しています。
(以下、リンクサイトより部分抜粋)
「健康への権利」とは単に健康である権利ではなく、安全な水へのアクセス、その他の健康に不可欠な条件となるものへのアクセスを含む。この権利は「漸進的実現」の対象であり、したがって、政府は、この権利の漸進的実現を計るために、指標と目標値が必要である。この権利は資源の利用可能性に影響されるもので、例えばジャマイカよりも日本のほうがより高度な要求をされる。https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/sectiion3/2009/05/post-55.html
私たち日本の住民には、欧米並の安全な水、食べ物へのアクセスの権利があります。今回示されたような指標値の元では、私の住む関西を始め、PFASにすでに高濃度に汚染されている地域住む人は、ヨーロッパの64倍のPFASを含む水を飲み、魚介類を食べることを許容されてしまいます。
今回のPFASの指標値は、健康への権利を損ねるものです。
食品安全委員会には、「健康への権利」という国際人権を尊重する姿勢をもった委員会になることを望みます。
そのようにお願いして電話を切りました。
そして、その日の夜、ジュネーブの国連人権理事会での「ビジネスと人権」のサイドイベントにオンライン参加しました。
私もオンラインで質問し、日本政府のPFAS汚染対策への後ろ向きな姿勢(25日に決まったばかりのヨーロッパの64倍のゆるい指標値も紹介)や、半導体工場やダイキンの利益が住民の健康より重視されていることを伝えると、昨年の日本調査でPFAS問題を報告してくれた作業部会のYeophantong氏が回答され、
「人権より収益を重視する企業が、今後国際的なサプライチェーンで生き残るのは難しい」と、何度も強調されました。
PFAS汚染問題にしっかり取り組むことは、私たちの健康と環境、そしてビジネスを守る上でも、重要なことなのです。
参照サイト:
*「血液調査の必要性」を明記し「未然防止の観点も踏まえて」と提言、専門家のPFAS評価書に環境省はどう動くのか Slow News 2024/6/24
発がん性物質のPFAS、欧米で追放進むも日本は規制強化見送りの可能性 謎の判断、専門家も首傾げる 猪瀬聖 2024/2/25
2024/05/04
PFOA(発がん性物質)ラプソディな1年でした
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出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 |
PFAS(ピーファス)の一種、
PFOA(ピーフォア)って、ご存じですか?
「はあ?」「アルファベットで言われてもなぁ。」
「なんか、聞いたころあるかも、米軍基地周辺の問題?」
私も昨年(2023年)の4月までは、そんな感じでとらえていました。4月10日にNHKの『クローズアップ現代』で放送された~追跡“PFAS汚染” 暮らしに迫る化学物質~を見るまでは。
そこで一瞬だけ紹介されたPFAS汚染全国マップの画面を見て、これまで沖縄と関東の米軍基地の問題だと思っていたのに、関西の淀川あたりが飛び抜けて汚染され、そして、ポツンと離れて、神戸市西区を流れる明石川も非常に高い値で汚染されていることを、初めて知りました。
「なにこれ!?」
もっと調べなくてはと思い、開いたNHKのサイト
そこにあったのは、「PFOS PFOA 河川、湖、海域」汚染ランキング3位に明石川、11位に同じく神戸市内を流れる伊川。そして、「地下水」汚染ランキングでは、桁違いの値で、大阪市と摂津市が1位、2位。
驚愕しました。他所で問題になっている汚染物質によって、自身が住んでいる地域がもっともっと汚染されていたとは・・・。どうなってるんだ?何で私は知らないんだ?
それからネットで調べに調べ、大阪の汚染は「ダイキン」淀川製作所が、長年PFOAを排出し続けていることが原因であろうと知りました。このダイキン由来のPFOA汚染問題は、Tansaが何年も追跡していたので、後追いで知ることができました。(ぜひ、ダイキンPFOA追跡のシリーズ「公害 PFOA」をご覧ください。)
では?明石川は?汚染源は工場?そんな大きな工場もないけど?
これまでも放射能汚染土拡散防止など、環境を守るために力を貸してくれた丸尾まき兵庫県議や、神戸市西区選出の香川市議らに、その明石川のPFAS汚染のことを伝えました。
そして、すぐさま動いて独自調査を進めてくれた丸尾県議のおかげで、だんだんと被害の実態や、汚染源がわかってきました。
■発がん性指摘の有機フッ素化合物、明石川流域の住民から検出
9人中6人が基準値越え 京大名誉教授らが発表
神戸新聞NEXT 2023/9/21
https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202309/0016836485.shtml
■発がん性指摘の化合物 神戸・西区の明石川13カ所で「基準」超え
京大名誉教授「産廃処理場影響か」
神戸新聞NEXT 2023/11/8
https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202311/0017007661.shtml
「今回の調査は10月中旬、流域の25カ所で実施した。
西区押部谷町のうち2カ所では10万ナノグラムと210ナノグラムを検出し、
それぞれ近くに産廃処理場が存在しているという。」
汚染源はわかってきましたし、2023年末には、PFOAがそれまでの「発がん性指摘」から、「発がん性物質」と国際基準が変わり、危険性もより明らかになりましたが、それからがなかなか進みません。
神戸市は問題と思われる産廃業者などに協力の要請をしていますが、昨年の『クローズアップ現代』放送時には、「明石川 上流 460ナノグラム」の発表だったものが、今年2月の値は、神戸市の発表では1300ナノグラムとなり、状況はまったく改善されず(むしろ、悪化!?)。
明石川の水を水道水に使っている明石市は、浄水用の活性炭の交換頻度を高めるなどして、水道水のPFAS濃度を1リットルあたり5~10ナノグラムに抑えて対応していますが、明石川の周辺の土壌汚染や海水の汚染、それによる魚介類の汚染などを考えると、汚染源の一日も早い特定、除去が必須です。(ちなみに淀川水系の阪神水道を使っている神戸の水道水は、だいたい10~15ナノグラム/L前後です。これも改善しなくてはなりません。後述)
そして、これは明石川だけの問題ではなく、日本全国、特にPFASを製造していた工場、または多量に使用していた工場の周辺、そして近隣地域の産廃処分場で、同じようなことが起こる、起きていると思われる問題です。
しかし、日本政府の動きは遅いです。
欧米各国はPFASへの規制を強化する一方、日本政府は飲料水の指標値案を、従来と変わらない1リットルあたり50ナノグラムと考えられる数値を、今年2月に提示してきました。1ヶ月間のパブリックコメント募集期間を経て、現在検討中ということになっていますが、汚染源対策の遅々とした動きを見ていると、この国の政府は、国民の健康や環境を守ることに関心がないのだろうか?と思えます。
このパブリックコメントが終わった1ヶ月後、アメリカ環境保護局(EPA)が、水道水への新たなPFAS規制値を発表しました。大切なところを抜粋引用します。
***
EPAによると、新たな規制は、体内に蓄積して多くの健康問題を引き起こすことが知られている6種類のPFASから、1億人もの米国人を守ることにつながるという。PFASとの関連が指摘される健康問題には、腎臓がんや精巣がん、妊娠高血圧症候群、早産、肝臓および免疫系の疾患が含まれる。
なかでも毒性の強いPFOSとPFOAは基準値を1リットルあたり4ナノグラムとした。
(この規制により膨大なコストがかかっても)それでも多くの専門家は、PFASに関連する健康問題を示す「証拠の重み」を考えれば、新たな基準値は理にかなっていると主張する。
「これだけ低い濃度でも、長い年月の間には大きな影響を及ぼすことがあります。化学物質が体内で生物濃縮を起こすからです」
***
日本政府も同じ対策がとれるのではないでしょうか?
いえ、私たち有権者は、政府をそのように動かさなければならないのではないでしょうか?
まずは、PFASの人体への危険性をEPA並に認識し、水道水の基準を強化する、そして汚染源を見つけて、撤去、浄化する。
私はこれまで放射能汚染の問題に取り組んできました。放射能は半減期を待つしか「浄化」の方法はありませんが、PFASは1100度で熱分解が可能で、すでに分解処分も進んでいます(一例)。また、他にも安価な分解方法についての研究が進んでいて、期待されています。
本気になれば、この発がん性物質を私たちの環境から取り除き、環境と未来を守ることができるのです。
日本政府には、米国の新規制値を取り入れ、汚染源の撤去、分解処分のために、一刻も早く動くことを要望していきたいと思います。
明石川の汚染を止めるためには、政府を動かさなければならないと強く思う、1年後の5月です。
***引用サイト***
■飲み水のPFASに米国初の規制、1億人守る新基準にのしかかる負担
National Geographic 2024/4/17
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/24/041600213/
++ オススメサイト ++
若きジャーナリストが問題を追ってくれています。
Yumihiko Yokoyama〝未来世代へのメモ〟
■PFAS汚染を追って〜明石川流域、10万ngという“脅威値” 2024/4/17
https://note.com/yumi0415/n/n462afdc3145c
(丸尾県議の調査や、私たちが企画した集会のことも紹介。
集会には、地方自治体議員を始め、阿部知子衆議院議員も参加。)
■PFAS汚染を追って〜どうなる!?使用済み活性炭、食品など新たな対策 2024/4/9
https://note.com/yumi0415/n/n8ddb8043c69f
(日本全国のPFAS汚染のこと、汚染源のこと、食品のこと、PFAS問題を網羅。)
拙ブログ「7世代に思いをはせて」でも、この1年随時書いてきたPFAS問題。
時系列でリンクします。だんだん視点がグローバルになっているのに気づきます。
■【第780号】あなたの水は大丈夫ですか?
https://nanasedai.blogspot.com/2023/09/780.html
■【第782号】もっと早く知っていれば・・・
https://nanasedai.blogspot.com/2023/10/782.html
■【第787号】PFAS汚染源を探して・・・
https://nanasedai.blogspot.com/2023/11/787pfas.html
■【第801号】PFASから見る「ビジネスと人権」
https://nanasedai.blogspot.com/2024/02/801pfas.html
■【第803号】「健康への権利」とわたし
https://nanasedai.blogspot.com/2024/03/803.html
■【第810号】アメリカからの朗報に思うこと
https://nanasedai.blogspot.com/2024/04/810.html
拙ブログWords for Peaceでは、50ナノグラム/Lの問題点を説明し、パブコメ書いて!と訴えました。
■ PFAS:時代遅れの食品健康影響の指標値案を改善するためにパブコメを送りましょう!
https://flowersandbombs.blogspot.com/2024/02/
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PFOAを追うことになった原点の明石川 丸尾県議撮影 |