2026/07/25

 

黒を灰色にする過程:『灰色の鎖 PFAS汚染列島』読書メモ

 


 諸永裕司著『灰色の鎖 PFAS汚染列島』(文藝春秋)を読みました。全国に広がる有機フッ素化合物(PFAS)のひどい汚染の実態と、それを隠蔽・放置する構造的な闇を追及したノンフィクション。欧米と比較した日本の厳しい規制の遅れをもたらす、健康被害に対する無責任な政府・行政を、岡山県吉備中央町や食品安全委員会周辺の取材を基に明らかにした書でした。

350ページを超える書ですので、私的なメモとして、もっとも腑に落ちた点を挙げておこうと思います。(引用箇所は緑字)

 

1 環境省は、なぜ血液検査に消極的なのか?

被害が顕在化すると対応を迫られるから。

 環境省の本音 環境基本法によれば、「公害」は次のように定義されている。

<公害とは、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって、人の健康または生活環境に係る被害が生ずることをいう>

 この条文にPFAS汚染を当てはめれば、すでに公害にほかならない。健康被害が明らかになれば、さすがに国も「公害」と認めざるをえなくなる。そうなれば、問題は岡山の小さな町にとどまらず、国が対応を迫られ、責任は政治にも及びかねない。

 それだけに、被害が顕在化するきっかけになりかねない汚染地域の血液検査は、環境省にとってアキレス腱とも言えるものだった。pp.77-78

 

環境省が血液検査を推進しない言い訳と、彼らが言わない血液検査のメリット

環境省の言い訳(血液検査のデメリット)「血中濃度を調べても、健康状況を把握することはできません。」

環境省の言わない血液検査のメリット(環境省も参考にしている全米科学アカデミー)のガイダンスより) 

・曝露量は下がっていくと知ることができる

・地域が汚染に対応する後押しになる

・曝露量を知らないことによるストレスから解放される

PFAS曝露による潜在的な健康リスクへの予防的措置がとれる

・曝露提言に向けた対策の有効性を確かめることができる (p.85

 

2 なぜ食品安全委員会が自らPFAS評価に乗り出したのか?

米国環境保護庁(EPA)がPFASの「事実上ゼロ」の規制強化に向かうことを知り、日本がそれに追従して規制を強化しないですむ言い訳を作るため。

 日本がEPAに引きずられないためには、「事実上ゼロ」へ向かうEPAの代わりとなる素案出根拠が必要だった、と考えても矛盾はない。

 そして、それを示すことができるのは、省庁から独立して中立公正なリスク評価を行う機関を謳う食品安全委員会しかなかったのだろう。p.220

 

3 どのように食品安全委員会のPFASリスク評価は欧米よりけた違いにゆるくなったのか?

PFASの危険性を示す重要論文を審査から外し、時間がないと問題を見送った

 最終的にPFASリスク>評価書に載った論文のリストを見てみると、鯉渕<最初の論文選定に関わった研究者>が取り上げるべきとする論文が除外され、取り上げるべきではないとした論文が追加されている。<中略>じつに全体の7割がさしかえられているのだ。p.262

 食品安全委員会はこの<EPAの>手法にもとづく独自の計算モデルを作ることも、EPAのモデルを援用することも見送った。

「今回は時間がなかったんで、(独自モデルを確立する)検討はしていないってことですね。」評価が歪められた理由は、独自の計算モデルを確立する「時間がなかった」からというのだ。きわめて重大な<中山祥嗣PFASワーキンググループ座長代理の>告白だった。p.272

 世界のコンセンサスとまで言われた「出生体重の低下」が、時間がないことを理由に見送られなければ「耐用一日摂取量」はより小さくなり、飲み水の目標値が引き下げられたことは間違いない。p.274

 

4 環境省の目的達成 

耐用一日摂取量20ng/kgなら、飲料水規制値は50ng/LOK

 それこそが環境省の狙いだった、とPFAS対策にかかわった政府関係者は言う。

「全国のほとんどの浄水所で50ナノグラムを下回っているから、もう飲み水は安全だ。そいうメッセージを発することで、なんとか世論を鎮めたいと考えていたのです」p.278

 

 

5 PFASリスク評価書を歪めてまで、国民の健康より優先されたものは?

コストと経済への影響

 第1の理由はコストだろう。(中略)目標値が下がれば、活性炭などの除去費用がかさみ、全国の浄水場で対策が必要になる。

 第2の理由は、経済への影響だろう。経済産業省は当時、半導体産業の育成を積極的に進めていた。p.219

 

最後に、食品安全委員会との面談に同行した高橋雅恵氏(徹底した調査で論文差し替えを明らかにした人物)の言葉を引用したい。

 「本当にひどいですね、あの人たち」

 「国から選ばれた科学者って、何なんでしょう?正直、これほどいい加減だとは思いませんでした。私たちが信じてきた『安全』って、もしかしたら底が抜けているのかもしれませんね」p.299

 

 以上が『灰色の鎖 PFAS汚染列島』からの抜粋メモです。(私的なメモ代わりに書きましたので、わかりにくいところも多いかと思いますが、ぜひ原書をお読みください。)

欧米ではPFASの健康への影響は灰色ではなく、黒。実際、PFOAはアスベストやダイオキシンと同レベルの発がん性物質に分類されています。それを灰色にして、私たちと次世代の健康と環境を踏みにじる・・・。この国の基本姿勢を変える時が来ていると思います。

 

最後に、著者の諸永裕司氏の最新記事を紹介します。 

■「ダイキンがPFAS汚染で負担すべきコストは168億円」と研究者が試算。

「国内法のゆるさを利用している」

SlowNews 2026724日 https://slownews.com/n/n390a9c1c9d93

「野口准教授は、代表的な多国籍企業のひとつであるダイキンの振る舞いがあまりにも国際基準からかけ離れているため、国際社会に知らせようと考え、論文は英語で書いたという。」

 

ダイキン工業も、私たちの健康と環境をPFASで汚染し、利益を上げている企業です。このような姿勢は、もう21世紀のグローバル企業として許されるものではないことを、日本の企業も政府も真剣に受け入れる時です。

 

 

PFASの健康への影響
出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議


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